世界を破壊できず、スルトは苦々しい顔になる。
 
『おのれ……でも、僕に勝ったわけじゃない! 真の地獄は、これから始まるんだ!』

『なにさ! あんたの時代は、ここで終わらせてやるよ!』

 レベッカちゃんがわたしに憑依して、剣を振るう。

 だが、レベッカちゃんの攻撃は相手の出した炎に阻まれた。

『ムダだ! こっちにだって、【原始の炎】の力はあるのだからね』

 レベッカちゃんの特性と言えば、【原始の炎】だ。無属性の炎により、氷も、炎さえもすべてを焼き尽くす。

 とはいえ、相手もそのスキルを持っていた。しかも、レベッカちゃんとは比較にならない強さを持つ。

『ちいいいいい!』

 レベッカちゃんの攻撃は、あっさりと弾かれた。

「ならば、こちらを受けなされませ!」

 クレアさんが、弓から矢を放つ。

『それも、もう読んでるんでね!』

 スルトが炎で、降り注ぐ大量の矢をすべて払った。
 
「武器はそれだけではありませんわ!」

 足に魔剣のパーツを集めて、クレアさんが雷霆蹴り(トニトルス)を繰り出す。

『キック勝負と行こうか!』

 スルトも飛び上がって、蹴りを放った。急降下するクレアさんと、衝突する。

「なっ!?」

 地獄極楽右衛門(ヘルアンドヘブン)の強化版も、スルトの攻撃によって壊れてしまった。

『これが魔王スルトの力だ! キミたちもよくがんばったけどさあ! しょせんは人間なんだよねえ! 僕の存在を止めることは、できないのさ!』
 
 
 レベッカちゃんの攻撃も、通じない。
 
【聖剣殺し】と呼ばれたクレアさんの一撃さえ、スルトに傷ひとつつけられなかった。

 
 だが……それでいい。 

 すべて、想定の範囲内だ。
 
 
「たしかに。わたしだけでは、あなたに勝てないかもしれない」

『かもしれないじゃないさ。勝てないんだよ』

「いいえ。ふたりいっしょなら」

 わたしは、クレアさんと手を繋ぐ。

「あの作戦を、やりますのね。キャルさん?」

「うん」


 スルトと戦う前に、わたしはクレアさんと打ち合わせをしていた。

 もしなにかあれば、奥の手を使うと。



「命がけになりますわ。よろしくて?」

「人類が負けるより、ずっといいよ。クレアさん。協力してください」

「もちろん。キャルさん、覚悟はよろしくて?」

「はい!」


 わたしの言葉を受けて、クレアさんが手を強く握り返してきた。

『さっきから、なにをゴチャゴチャと! 二人仲良くあの世へ行きなよ!』

「……っっっっおおおおおおおおお!」

 クレアさんが、魔剣レベッカちゃんを持ったわたしをぶん回す。

『なんだあれは!?』

 スルトが、わたしの姿を見て驚愕していた。その表情のまま、切り刻まれる。

『げああああああ! バカなぁ!? この僕の身体に、傷が! ニンゲンごときが、僕に傷をつけるだと!?』

「今のわたしは、ニンゲンじゃない!」
 
 わたしの姿は、巨大な炎を纏う【魔剣】と化している。

「クレアさんの魔剣に、わたし自身がなれば!」
 
 レベッカちゃんを通して、わたし自身がクレアさんの魔剣となったのだ。