地獄極楽右衛門(ヘル・アンド・ヘブン)と、魔獣の素材を組み合わせた。
 複雑に入り組んでいるところは、手袋をはめた手でこねくり回す。
【第三の腕】では、ダメなのだ。自分の手でいじらないと、第三の腕は魔剣の炉で溶けてしまう。ちゃんとリスクを取れ、ということか。

「ああ、ヤバイ。気持ちいい!」

 いわゆる「フロー状態」という、無意識に昂るモードに突入した。もうわたしには、魔剣の炉しか見えない。
 だが、ヨガっている場合ではなかった。
 恍惚に浸るより、まずクレアさんを思って……。
 意識がトビそうになるのをこらえて、クレアさんの魔剣作りに専念した。

「で、できた……」

 わたしは、炉から魔剣を引っ張り出す。

「完成しました。これが、クレアさんの魔剣です」

「この足甲が、ですか?」

 クレアさんの魔剣は、見た目こそ足甲である。鉄板をヒザまでのサンダルのようにした感じの。

「付けてみてください」

「はい。キャルさんがいうなら、間違いはないですわ」

 わたしの指示に従い、クレアさんが足甲を身に着けた。ふくらはぎに、薄い鉄板を巻きつける。

 足甲の鉄板がシュルシュルと、クレアさんの全身に巻き付いた。

「手や足に、長細い鉄板がグルグル巻きになっていますわ」

「これぞ、魔剣【地獄極楽右衛門(ヘル・アンド・ヘブン)憤怒(レイジ)】です」

 薄型の鉄板こそ、魔剣の刃なのだ。

「それでキャルさん。憤怒、とは?」

「本当は、【RE:AGE】。『再生する』って意味を差してるんだ」

 それを短くして、RAGE……つまり、【怒り】とした。

「キャルさんの怒り具合が、見事に再現されていますね。禍々しいデザインです」

「それだけじゃないよ。これ一本で、地獄極楽右衛門(ヘル・アンド・ヘブン)の各種形態になるよ」

「どのように、変化させますの?」

「蹴るんだよ。やってみて」

「では……三番で」

 クレアさんが魔剣を放り投げて、柄を蹴り飛ばす。
 
「あらあ!」

 魔剣は形態を変化させて、弓となって飛んでいく。
 
「たしかに、念じると刃に代わりましたわ」

 他の攻撃モーションをクレアさんが行うと、鉄板が勝手に刃となる。

 リンタローの武器である球体状の魔剣・【TORAHUGU】から、着想を得た。あれも、蹴ることで伸びて刃になる魔剣だ。

「素晴らしい魔剣です。ありがとうございました」
 
 岩場に突き刺さった剣は、そのままクレアさんの元に返ってきた。

「今後、トートは普通にペット扱いになるよ」

「ですわね。いくら死なないと言っても、痛い目に遭うのは事実でしょうし。あちらで何が起きるか、わかりませんものね」

 クレアさんが、トートの頭を撫でる。

 スルトとの戦いに、トートは連れていかないことにした。不死身だから、消滅の心配はない。クレアさんがトートに指示を送るタイミングなんて、ないだろう。

「トートさん、今までありがとうございます。これからは、お友だちでいましょう」

 クレアさんの優しさに答えるように、「ウホウホ」とトートが吠えた。

「この魔剣は、クレアさん。あなた自身が刃になることを想定しています。実は……」

「はい。よくわかりましたわ」
 

 これで、すべての準備が整った。あとは、スルトが来るのを……。



「隕石が近づいてきてるで!」


 なんてタイミングだ。もう来たか!