「ただいまー」

 わたしは、ダクフィの街に帰ってきた。

「おかえりでヤンス」

「あなたたちが強くなっている間、こちらも変化があった」
 
 ヤトとリンタローは、プリンテス氏の元で、修行をしていたらしい。

「まずはリンタローだけど、球体状の魔剣があったでしょ?」

「あったね」

「あれを使いこなせるようになった」

「あれって、ちゃんと魔剣として機能するの!?」

「使い方が、リンタロー向けだったみたい」

 見ればわかるということで、リンタローの実力を見せてもらうことに。

 外に出て、リンタローは、球体状の魔剣を蹴鞠のようにポンポンと足で打ち上げる。時々頭や肩に乗せて、またポンポンと打ち上げた。

「いい感じね。リンちゃん」

 プリンテス氏が、リンタローをそう呼ぶ。結構、打ち解けたみたいだな。

「ソレガシの場合、魔剣使いというより【魔拳使い】でヤンスから」
 
「じゃあリンちゃん。この魔剣の使い方を、あの子たちに見せてやりなさい」 

「でヤンス。シュッ!」

 岩状のカカシに向かって、リンタローが魔剣を蹴り上げる。

 カカシが、粉々に砕けた。またすぐに、もとに戻る。
  
「ヤトの方も、いい感じになったのよね」

「でヤンス。シュ!」

 なんとリンタローが、ヤトに向けてボールを蹴り放つ。

 ヤトはまったく驚きもせず、自身の妖刀で撃ち落とした。

 魔剣を跳ね返される度に、リンタローが強く打ち返す。

「耐久値が、めちゃ上がってる?」

「妖刀の練度が上がって、重い攻撃にも耐えられるようになった」

 氷魔法には、限界がある。あれ以上は、強くならないと思っていたが。

『水氷で攻撃を滑らせて、ダメージを散らしているのかね?』

「さすが、魔剣レーヴァテインね。御名答よ」

 レベッカちゃんの推理に、プリンテス氏が拍手を送る。

 ヤトの妖刀【怪滅竿(ケモノホロボシザヲ)】の釣り糸には、水氷という「曲がる氷」が用いられている。ヤトの魔力で作り上げた水氷は、わずかに水を帯びているため、攻撃を逸らすのに適していた。
 それでも、強度は上がっている。あそこまで重い一発を、真正面から受けても砕けないなんて。

「こちらでの修行で、二人の戦闘術も高まっているってわけだね」

「死ぬほどのスパーリングだった、でヤンス」

 ボール型魔剣を手に掴んで、リンタローがガックリとうなだれる。

「あのまま、死ぬかと思った」

「それくらいやらないと、スルトとの戦いには耐えられないでヤンスよ」

 二人も、事情は把握しているみたいだ。

「冥界竜から、事情は聞いていたわ。あんたたちのような冒険者が来たら、自分の元に誘えと」

 プリンテス氏は始めから、なにもかも準備できていたみたいである。
 
「でも、キャルちゃん。あんたに対して、あたしは手を出さないわ。自分のできる範囲でやってみなさい。お友だち用の魔剣の作り方は、ゼゼリィに習うといいわ。あたしはクレアちゃんと、あんた用の装備を作っておくわね」

「わかりました。ありがとうございます」

「いいって。でも、魔剣の整備は大変よ。下手をすると、魔剣に斬り捨てられてしまう。それだけ、魔剣を作るのは危険なの」

「望むところです」

 こんなところで、怖気づいていられるか。

 いよいよクレアさんのために、ちゃんとした魔剣を用意できる。

(第七章 完)