「あうらぁ!」

 ゼゼリィのどんくさい動きから、前蹴りが飛んできた。

『来るよ、受けなキャル!』

「え? こんなおっそい蹴り、レベッカちゃんなら軽く……うわ!?」

 当たるはずがない攻撃が、まともにレベッカちゃんの刀身をとらえる。

 バキイ! っと、イヤな音がしたけど。
 
 今一瞬、加速した?

「それより、レベッカちゃん!」

 ブツブツと、レベッカちゃんの刀身が煮えたぎっている。
 そこだけ、アヒージョみたいにドロっとなっていた。

「レベッカちゃん!?」

『どうってこと、ないよ! それより、油断するなよ! なんか妙だ!』

 ゼゼリィが乗っ取られている段階で、充分ヤバイんだけどね!

「キャルさん、加勢いたしましょうか?」

 クレアさんが、加勢を申し出る。
 たしかに、クレアさんのスピードとパワーなら、ゼゼリィのスキをついて昏倒させることも可能だろう。
 しかし、それではダメな気がした。

 アラレイムとゼゼリィのコンビとは、正面切って戦わないと。
 そうしなければ、きっとわたしは何もつかめない。

『ちゅわ!』

 変なポーズをしたゼゼリィが、ラリアットをかます。
 ここに来て、プロレス技?
 あんなショー格闘技の技が、当たるとでも?

『キャル!』

「うわっと! っとぉ!」

 猛烈なラリアットが、レベッカちゃんの柄を叩き折らんばかりに命中した。

「なんだこれ!? なんで攻撃が、伸びてくるの!?」

「キャルさん、お気をつけて」

「クレアさん?」
 
「なんか、瞬間的に移動をしていますわ!」
 
 ずっと観戦していたから、クレアさんには相手のパターンが読めるみたい。

「ぎゅっとやあ!」


 今度は、ドロップキックがレベッカちゃんを襲う。

 わたしはレベッカちゃんの刀身を振り回して、払いのける。
 できるだけ、ゼゼリィの身体に当たらないように。

 だが、足を広げてさらに足刀のキックを浴びせてきた。

「ヤバイ。強い!」

 しかし、なんだろう。この違和感は。

 なぜか、戦っている気がしない。

 これって……まさかね。

『どうしたんだい、キャル?』

「いやぁさ。もしかして、って思うんだけど」

 わたしはレベッカちゃんに、ゼゼリィの攻撃パターンを予測してみた。

『たしかに。アタシ様だけ狙ってきているねえ』

「でしょ?」

 だから、考えられることは一つしかないんだよね。 

「キャルさん!」

「どうしたの、クレアさん?」

「さっきから、レベッカさんにしか攻撃が向いていませんわ。ドラゴンの狙いは、レベッカさんを叩き壊すことなのでは?」

 クレアさんが、わたしに推理を披露する。

 まあ、普通に考えたらそうだよねえ。普通なら。
 だがアラレイムほどのドラゴンが、どうしてレベッカちゃんほどの魔剣を脅威と思っている?
 魔物のゼゼリィを味方につけてまで、レベッカちゃんを壊しにかかる理由なんてあるのか?
 だったら、最初からクレアさんに取り憑けばいい。

 もし、破壊が目的ではないなら、答えは一つだ。

「レベッカちゃん、ゼゼリィの攻撃、全部受けるよ!」

『よっしゃ。アンタの分析を信じるよ!』

 わたしは、ゼゼリィの攻撃を、かわしたり受け流さないことに決めた。

「でゅええええ!」

「おおお! かかってこい、ゼゼリィ!」
 
 ドンと、真正面から受け止める。

「よいしょおお! 無事なの、レベッカちゃん!?」

『ど、どうってこと、ないさね……』

 ゼゼリィの強烈な一発だけで、レベッカちゃんは疲弊していた。

 ローキックも、かかと落としも、すべて、レベッカちゃんで受け止める。
 
 ゼゼリィが打ち込んでくるたびに、レベッカちゃんの刀身から火花が散った。

『だけど、これでいいんだよなあ、キャル?』

「うん。これが、鍛冶作業なら」
 
 これは、バトルじゃない。
 レベッカちゃんを鍛えてくれているのだ。

「本当ですか、キャルさん? 冗談でしょ?」

「いや、冗談じゃない。アラレイム自らが、レベッカちゃんを鍛えてくれているんだよ」

 だからこそ乗り移る対象は、ゼゼリィじゃなければいけなかった。
 ゼゼリィを介してでなければ、魔剣を鍛えることはできない。

「ですが、工具はこちらに」

 ドラゴンが吐き出した工具を、クレアさんが指差す。

「それは、後で取り込むんじゃないかな? もしくは、わたしが使用するための、リペアアイテムかも」

 後者のほうが、おそらく正しい。
 あの工具を使えば、ゼゼリィによる鍛冶作業に限りなく近い「修復・錬成」が、わたしでも可能になるのだろう。

『戦いながら、俺様の目的に気づくとは。大したやつだよ。さすが、F(フランベ)の名を継ぐものだ』

 やはり、アラレイムの行動は、わたしの考えていたとおりだった。

「わたしを知っているの?」

『錬金術師で赤毛っていったら、Fの一族って相場が決まっているもんよ』

「でも、レベッカちゃんはもう」
 
 レベッカちゃんの燃えるような刀身が、ドロドロに溶け出している。
 もはやレベッカちゃんは、ヘナヘナになった鉄の塊だ。
 
『黙ってなよ、キャル。アタシ様は、まだ、まだ』

 ここまで追い詰められたレベッカちゃんは、初めて見た。
 
『嬢ちゃん、俺様の鍛錬によく耐えたな。褒めてやるぜ。さあ、仕上げだ。生まれ変われよ、魔剣レーヴァテイン。いや、魔剣レベッカ!』

 わたしが集めてきたアイテムが、ゼゼリィの手に渡る。

「こおおおお!」

 アイテムを持つゼゼリィの手が、レベッカちゃんの刀身の中に。