『見えるぞ。岩越しからでも、スルトの残滓が。魔剣の使い手よ、我が元にまいれ』

 やはり、岩戸の向こうから声がする。

 ズズズ、とひとりでに岩が横へゆっくりとスライドした。

「入っていいみたいだね、クレアさん」

「歓迎されているのかはわからないですが、参りましょう。キャルさん。ゼゼリィさんは、ワタクシたちの後ろに下がっていらして」

 わたしとクリスさんで、ゼゼリィを守りながら進む。
 

 青い炎をまとったドラゴンが、ふううと息を吐きながらこちらを見ている。

 大きい。なにより、スケールがデカかった。本来はそこまでの大きさではないのだろう。しかし、大きいと思わせるオーラをまとっていた。
 巨大化の幻を、見せられている。
 青い炎の影響か? いや……。

「まさか、炎の方が、本体?」

 発言したのは、ゼゼリィである。
 わたしたち全員が、同じ答えにたどり着くとは。

 さっきまで退屈そうにしていたドラゴンが、クククとノドをふるわせた。
 
『我の正体に気づくとは! あっぱれなり!』

 やはり、ドラゴンの周りを取り囲む青い炎のほうが、冥界竜の正体だったようだ。

 ドラゴンの体中を這い回っていた炎が、ドラゴンから離れていく。
 
『この肉体は、我がこの地にとどまれるようにするための依代なり。本体は、お主の想像通り炎よ』

 ドラゴンの目から、生気が抜けていった。

 青い炎が、ドラゴンの形を取る。

『俺の名はアラレイム。もう威厳ぶった話し方は、しなくてもいいよな』

 アラレイムが、急に砕けた話し方になった。

『はーあ。ようやく、俺に見合う才能の持ち主に出会ったな』

「ガイコツのお友達が、いますから」

 わたしは、フルーレンツさんを召喚する。

『いいねえ。コーラッセン出身の者と、ゾンビながら出会えるとはね。懐かしいぜ』

 アラレイムが、愉快そうに笑う。

『俺の正体に気づけたのは、昔だったらコーラッセンの奴らくらいだろうな。あいつらにも道具を貸してやったっけな。返ってきてないってことは、滅びたんだろうなって思っていたけど』

 少しさみしそうに、アラレイムが天井を見上げた。

「あの、魔剣の道具を取ってこいって言われてきたんですが」

『いいぜ。好きなだけ持っていけ』

 ドドド、と、魔剣のために使う道具が大量にドラゴンの口から吐き出される。

「ありがとう、ございます」

『ただ、俺に勝てたらの話だがな』

 やはり、こういう展開になるよね?

『やっぱりな。久々に暴れてえんだよ。この辺りのモンスターじゃ、張り合いがなくってな。かといって、持ち場を離れるわけにもいかん』

「なにをなさってるので?」

『スルトがこの地に現れるかどうか、見張ってるんだよ』

 アラレイムがいうには、魔剣レーヴァテインの主であるスルトが、もうすぐこの地に現れるのでは、とのことだ。

『なにやら不穏な流れがあちこちで起きているらしいが、それはそっちの魔剣のせいじゃねえ。スルトが目覚める兆候なんだよなぁ』

 うんざりしたような声で、アラレイムがつぶやく。

『かといって、じゃあよろしくお願いしますって工具だけ渡しても、扱えるかどうかわからん。テメエらの力量を見極めて、魔剣の真なる力を引き出せるかどうか試させてもらわねえとよ』

『とかいって、実際は暴れたいだけなんだろうね』

 レベッカちゃんが、横槍を入れた。
 
『よくわかってんじゃねえか。お嬢ちゃんよぉ』

 アラレイムは、レベッカちゃんをお嬢ちゃん呼ばわりする。

 レベッカちゃんが、青筋を立てているのが、背中から伝わってきた。

『ケンカしたいなら、相手になってやろうじゃないか!』

『吠えるなよ。美人が台無しだぜ、お嬢ちゃん』

『ぶっ飛ばしてやんよ。そんでもって、アンタもアタシ様の一部になりな!』

 わたしの意見も聞かず、レベッカちゃんがわたしの身体を乗っ取る。

 魔剣を抜き、戦闘態勢に。