ガイコツ剣士の正体は、今はなき王国の王子さまだった。
「廃王子でしたか。キャルさん。どうもこの方は、ワタクシの家計でご存知の方がいるかもしれませんわね?」
クレアさんが、わたしの隣にしゃがみ込む。剣士の顔を、覗き込んだ。
「その強力な魔力、どこかの姫君とお見受けする。あなたは?」
「ワタクシは、クレア・ル・モアンドヴィルと申します」
「モアンドヴィル……あの小国に、かような子孫が生まれようとは」
「今、モアンドヴィルはアルセントア大陸を総括する、大国ですわ」
「なんと」
フルーレンツ王子が生きていた頃のモアンドヴィルは、コーラッセン王国の三分の一にも満たなかったらしい。
「そこまでの大国に、成長なさるとは。よほどの苦労があったとお見受けする」
「勇者一行だったという功績が、あったからですわ」
「おお、勇者とな! 伝説は、本物であったか!」
「と、申しましても、コーラッセン王国があった当時は、まだ勇者が誕生していませんですわね」
当時の歴史を、クレアさんがフルーレンツ王子に伝える。
「うむ。我が息子が存命なら、勇者と同じ年頃だったろう」
「かもしれませんわね。して王子、どうして暴れ回っていたのです?」
「おお。そうであった。皆には、すまぬことをした」
フルーレンツ王子が、ドワーフのヘルムースさんに詫びた。
「実はのう、殿下は我々が護衛していた馬車を、突然襲撃してきたのじゃ」
その馬車は今、無事に王都へ向かったという。
「本当に、申し訳なく。馬車に乗っていた姫君が、我が妹によく似ていたのだ」
妹さんは戦火を逃れ、近くの小国に嫁いだそうだ。
その妹さんと、馬車に乗っていた王女が似ているという。
「そうなんですね。ひょっとして、子孫とか?」
「うむ。おそらくは」
王都に事情を聞けるだろうか。
「ワタクシのツテを、お使いくださいませ。今のあなたは、魔剣の影響を受けておりません。きちんと話し合えば、わかっていただけるかと」
「ワシも、事情を説明しますわい」
クレアさんとヘルムースさんが言うと、王子は「ありがとう」と告げた。
「だが、ただのモンスターである。王城に入れてすらもらえまい」
「だとしたら、わたしと契約しますか?」
正式に契約したモンスターとしてなら、王都に入っても危険視されないはずだ。
「ふむ。それはいい案だ。よろしい。我を倒したのは、そなただ。そなたと契約しようではないか」
わたしは契約の魔法で、王子を自分の配下とした。
「うむ。これで我は、そなたの契約モンスターである。よろしく頼む」
スパルトイ軍団は、王子が率いてくれるという。
これで、レベッカちゃんのスキルスロットに空きができた。
別のスキルを、装着可能に。
続いて、王子はヤトの方へ。
「巫女殿。もし再び我が正気を失ったときは」
「うん。今度こそ、とどめを刺す」
ヤトが、王子と約束した。
「物騒でヤンスが、仕方ないでヤンスね」
リンタローは呆れていたが、王子の覚悟を評価する。
「では、王都ツヴァンツィガーへ案内しようぞ」
ドワーフさんに連れられて、ツヴァンツィガーの街へ向かった。
だが、ヤトたちは一旦、ファッパに戻るという。
「二人は行かないの?」
「ツヴァンツィガーの街の位置は、知っている。ファッパのギルドに報告した後で、追いつく」
報告だけなら、ギルドカードでもできる。
が、財団にコーラッセンを調査してもらったほうがいいかもとのこと。
ヤトたちの足なら、すぐに追いつけるそうだ。
「そうだね。フワルー先輩も心配しているみたいだから、お願い。じゃあ、ヘルムートさん。馬車をお願いします」
「うむ」
廃墟となったコーラッセン王国を、ツヴァンツィガー騎士団の馬車で進む。
「大陸の半分を総括していた我が国が、見るも無惨に」
「どうして、滅びちゃったんですか?」
「魔王の襲撃だ」
コーラッセン王国は、魔王との戦いでもっとも被害を受けた国だという。
「国家が、魔王の領地に近い場所にあってな。真っ先に狙われた」
当時最強と呼ばれたコーラッセンといえど、魔物の物量には敵わなかった。
「今や、その領地も消滅しております。残すは、雪山のダンジョンのみ」
「じゃが、あなたは、その雪山のある方角からおいでなすった」
ドワーフのヘルムートさんによると、敵の本拠地があったポイントから、フルーレンツ王子が現れたという。
「怪しいですわ。もう少し調べたほうが良さそうですわね」
破壊の跡が痛々しいエリアを抜けた。
さらに、大型のボートで川を渡る。
そうやって、数日ほど進んだ。
「見えてまいりましたぞ。あれこそ、ツヴァンツィガー王国じゃ」
川の先に、豪華な城が見えてきた。
ファッパの港町もすごかったが、こちらはもっと大きい。
川を伝って、水門をくぐる。
「滝の上に、都市がありますのね?」
すごい作りだなぁ。
「刀剣の種類が、豊富だなあ」
王都は、ドワーフと人間が共存する都市みたいだ。
いたるところに鍛冶屋や武器・防具屋が見られる。
あと、強いお酒の匂いも。
「ああ、リンタローが来なくて正解かも」
『だろうね。酒の味につられて、酒場から戻ってこないかもしれないよ』
馬車のメンツが、ゲラゲラと笑う。
「ワシは先程まで斧を振るっておったが、もうじき引退するんじゃ。鍛冶業を営もうと思うておる」
ヘルムースさんの斧も、自前だそうだ。
店舗も買って、今は奥さんが留守を預かっているという。
「あの。武器の鍛え方を教えていただけますか?」
「うむ。よかろう」
よし。これで、レベッカちゃんをさらに強くできるぞ。
「フルーレンツ王子よ。あなたにふさわしい剣を打って差し上げましょうぞ」
ヘルムースさんが力こぶを見せた。
「ありがたい。よろしく頼むぞ、ヘルムースよ」
ローブの下から、フルーレンツ王子がお礼を言う。
「お安い御用です」
ただし、店によるのは、王都で用事を済ませてからになる。
王城の前に、辿り着いた。
案の定、門番さんたちに止められる。
「騎士団長の、ヘルムースである。国王様と姫君に、お目通りをお願いしたく」
「それは結構です、ヘルムース殿。しかし、部外者を城の中へ入れるには」
門番さんも、困っていた。
「お待ちを」
「あなたは?」
「クレア・ル・モアンドヴィルと申します。これを王様か、位の高い方にお見せくださること、お願いできますか?」
小さいペンダントを、クレアさんは外す。
門番さんに、ペンダントを渡そうとした。
しかし、門番さんは受け取らない。
「そう、申されましても」
「お待ちなさい!」
通りかかった貴族風のおねえさんが、スタスタとこちらにやってきた。「失礼」と、クレアさんのペンダントを凝視する。
「もももももも申し訳ございません! これ! モアンドヴィル家の姫君ですよ! 早く通しなさいまし!」
「は。失礼しました。グーラノラ様。みなさん、お通りください」
門番さんが、道を開けた。
グーラノラ様と呼ばれたおねえさんは、クレアさんにしきりにペコペコ頭を下げている。
「もうしわけありません、クレア様。あとで叱っておきますので」
「いえ。構いませんよ。入らせていただくだけで、結構ですから」
「お気遣い、感謝いたします。して、どのようなご用件で?」
「少々、お話をうかがいたく。コーラッセン王国のことなど」
ピタ、と、グーラノラさんが立ち止まった。
「ああ、あちらの王国ですか」
神妙な面持ちで、グーラノラさんがクレアさんと正面から向き合う。
「実は……あたしもよくわかんないんですよねー」
さんざん思わせぶって、この対応かいっ。
「ですが、ちゃんと調べますよー。それまで、お待ちを」
わたしたちが、廊下に出たときだった。
「……我が妹だ」
一枚の絵の前に、フルーレンツさんが立ち止まる。静かに、わたしに耳打ちをしてきた。
「こちらの方は、どなたですの?」
事情を察したクレアさんが、グーラノラさんに問いかける。
「この絵の方は、王都ツヴァンツィガーの第一王女、クリームヒルト様です」
「廃王子でしたか。キャルさん。どうもこの方は、ワタクシの家計でご存知の方がいるかもしれませんわね?」
クレアさんが、わたしの隣にしゃがみ込む。剣士の顔を、覗き込んだ。
「その強力な魔力、どこかの姫君とお見受けする。あなたは?」
「ワタクシは、クレア・ル・モアンドヴィルと申します」
「モアンドヴィル……あの小国に、かような子孫が生まれようとは」
「今、モアンドヴィルはアルセントア大陸を総括する、大国ですわ」
「なんと」
フルーレンツ王子が生きていた頃のモアンドヴィルは、コーラッセン王国の三分の一にも満たなかったらしい。
「そこまでの大国に、成長なさるとは。よほどの苦労があったとお見受けする」
「勇者一行だったという功績が、あったからですわ」
「おお、勇者とな! 伝説は、本物であったか!」
「と、申しましても、コーラッセン王国があった当時は、まだ勇者が誕生していませんですわね」
当時の歴史を、クレアさんがフルーレンツ王子に伝える。
「うむ。我が息子が存命なら、勇者と同じ年頃だったろう」
「かもしれませんわね。して王子、どうして暴れ回っていたのです?」
「おお。そうであった。皆には、すまぬことをした」
フルーレンツ王子が、ドワーフのヘルムースさんに詫びた。
「実はのう、殿下は我々が護衛していた馬車を、突然襲撃してきたのじゃ」
その馬車は今、無事に王都へ向かったという。
「本当に、申し訳なく。馬車に乗っていた姫君が、我が妹によく似ていたのだ」
妹さんは戦火を逃れ、近くの小国に嫁いだそうだ。
その妹さんと、馬車に乗っていた王女が似ているという。
「そうなんですね。ひょっとして、子孫とか?」
「うむ。おそらくは」
王都に事情を聞けるだろうか。
「ワタクシのツテを、お使いくださいませ。今のあなたは、魔剣の影響を受けておりません。きちんと話し合えば、わかっていただけるかと」
「ワシも、事情を説明しますわい」
クレアさんとヘルムースさんが言うと、王子は「ありがとう」と告げた。
「だが、ただのモンスターである。王城に入れてすらもらえまい」
「だとしたら、わたしと契約しますか?」
正式に契約したモンスターとしてなら、王都に入っても危険視されないはずだ。
「ふむ。それはいい案だ。よろしい。我を倒したのは、そなただ。そなたと契約しようではないか」
わたしは契約の魔法で、王子を自分の配下とした。
「うむ。これで我は、そなたの契約モンスターである。よろしく頼む」
スパルトイ軍団は、王子が率いてくれるという。
これで、レベッカちゃんのスキルスロットに空きができた。
別のスキルを、装着可能に。
続いて、王子はヤトの方へ。
「巫女殿。もし再び我が正気を失ったときは」
「うん。今度こそ、とどめを刺す」
ヤトが、王子と約束した。
「物騒でヤンスが、仕方ないでヤンスね」
リンタローは呆れていたが、王子の覚悟を評価する。
「では、王都ツヴァンツィガーへ案内しようぞ」
ドワーフさんに連れられて、ツヴァンツィガーの街へ向かった。
だが、ヤトたちは一旦、ファッパに戻るという。
「二人は行かないの?」
「ツヴァンツィガーの街の位置は、知っている。ファッパのギルドに報告した後で、追いつく」
報告だけなら、ギルドカードでもできる。
が、財団にコーラッセンを調査してもらったほうがいいかもとのこと。
ヤトたちの足なら、すぐに追いつけるそうだ。
「そうだね。フワルー先輩も心配しているみたいだから、お願い。じゃあ、ヘルムートさん。馬車をお願いします」
「うむ」
廃墟となったコーラッセン王国を、ツヴァンツィガー騎士団の馬車で進む。
「大陸の半分を総括していた我が国が、見るも無惨に」
「どうして、滅びちゃったんですか?」
「魔王の襲撃だ」
コーラッセン王国は、魔王との戦いでもっとも被害を受けた国だという。
「国家が、魔王の領地に近い場所にあってな。真っ先に狙われた」
当時最強と呼ばれたコーラッセンといえど、魔物の物量には敵わなかった。
「今や、その領地も消滅しております。残すは、雪山のダンジョンのみ」
「じゃが、あなたは、その雪山のある方角からおいでなすった」
ドワーフのヘルムートさんによると、敵の本拠地があったポイントから、フルーレンツ王子が現れたという。
「怪しいですわ。もう少し調べたほうが良さそうですわね」
破壊の跡が痛々しいエリアを抜けた。
さらに、大型のボートで川を渡る。
そうやって、数日ほど進んだ。
「見えてまいりましたぞ。あれこそ、ツヴァンツィガー王国じゃ」
川の先に、豪華な城が見えてきた。
ファッパの港町もすごかったが、こちらはもっと大きい。
川を伝って、水門をくぐる。
「滝の上に、都市がありますのね?」
すごい作りだなぁ。
「刀剣の種類が、豊富だなあ」
王都は、ドワーフと人間が共存する都市みたいだ。
いたるところに鍛冶屋や武器・防具屋が見られる。
あと、強いお酒の匂いも。
「ああ、リンタローが来なくて正解かも」
『だろうね。酒の味につられて、酒場から戻ってこないかもしれないよ』
馬車のメンツが、ゲラゲラと笑う。
「ワシは先程まで斧を振るっておったが、もうじき引退するんじゃ。鍛冶業を営もうと思うておる」
ヘルムースさんの斧も、自前だそうだ。
店舗も買って、今は奥さんが留守を預かっているという。
「あの。武器の鍛え方を教えていただけますか?」
「うむ。よかろう」
よし。これで、レベッカちゃんをさらに強くできるぞ。
「フルーレンツ王子よ。あなたにふさわしい剣を打って差し上げましょうぞ」
ヘルムースさんが力こぶを見せた。
「ありがたい。よろしく頼むぞ、ヘルムースよ」
ローブの下から、フルーレンツ王子がお礼を言う。
「お安い御用です」
ただし、店によるのは、王都で用事を済ませてからになる。
王城の前に、辿り着いた。
案の定、門番さんたちに止められる。
「騎士団長の、ヘルムースである。国王様と姫君に、お目通りをお願いしたく」
「それは結構です、ヘルムース殿。しかし、部外者を城の中へ入れるには」
門番さんも、困っていた。
「お待ちを」
「あなたは?」
「クレア・ル・モアンドヴィルと申します。これを王様か、位の高い方にお見せくださること、お願いできますか?」
小さいペンダントを、クレアさんは外す。
門番さんに、ペンダントを渡そうとした。
しかし、門番さんは受け取らない。
「そう、申されましても」
「お待ちなさい!」
通りかかった貴族風のおねえさんが、スタスタとこちらにやってきた。「失礼」と、クレアさんのペンダントを凝視する。
「もももももも申し訳ございません! これ! モアンドヴィル家の姫君ですよ! 早く通しなさいまし!」
「は。失礼しました。グーラノラ様。みなさん、お通りください」
門番さんが、道を開けた。
グーラノラ様と呼ばれたおねえさんは、クレアさんにしきりにペコペコ頭を下げている。
「もうしわけありません、クレア様。あとで叱っておきますので」
「いえ。構いませんよ。入らせていただくだけで、結構ですから」
「お気遣い、感謝いたします。して、どのようなご用件で?」
「少々、お話をうかがいたく。コーラッセン王国のことなど」
ピタ、と、グーラノラさんが立ち止まった。
「ああ、あちらの王国ですか」
神妙な面持ちで、グーラノラさんがクレアさんと正面から向き合う。
「実は……あたしもよくわかんないんですよねー」
さんざん思わせぶって、この対応かいっ。
「ですが、ちゃんと調べますよー。それまで、お待ちを」
わたしたちが、廊下に出たときだった。
「……我が妹だ」
一枚の絵の前に、フルーレンツさんが立ち止まる。静かに、わたしに耳打ちをしてきた。
「こちらの方は、どなたですの?」
事情を察したクレアさんが、グーラノラさんに問いかける。
「この絵の方は、王都ツヴァンツィガーの第一王女、クリームヒルト様です」