素材の荒い紙と絵の具を用意して、シューくんがわたしの全身像を描き始めた。

「ボクがキャルさんの体型や戦闘スタイルを分析して、提案するのは、こちらです」

 シューくんから提案されたのは、赤いドレス型のアーマーだ。
 真紅のドレスの上に、金属製のプロテクターを埋め込むというものである。

 ドレスといっても、ロングスカートで下半身を覆うって程度だ。
 レースを使うとか、豪華なものではない。

 ただ、ドレスというとクレアさん、ってイメージなんだよなあ。

「クレアさんは、どう思いますか?」
 
「ワタクシなら、ドレスアーマーは自前で持っていますわ」

 城攻めなどが発生した場合は、ドレスアーマーを着込むという。

「使ったところは、見たことがないですね?」
 
「スカートが、めちゃくちゃ重くて。とても、立ち回れませんの」

 なるほど。
 クレアさんは、飛び跳ねまわる戦闘スタイルだからね。
 
「キャルさんのイメージに合わせて、赤いドレスアーマーなんていかがでしょう」
 
「ヨロイの下には、タートルネックのホーバージョンを着るんだね?」
 
 つまり、黒いキルトのインナーを着るのか。

「はい。その上にホーバーク、いわゆる薄手の鎖帷子(くさりかたびら)のシャツを着てもOKですね。鎖帷子の利点は、重ね着ができることですから」

 シューくんからの言葉に、わたしはちょっと待ったをかけた。
 
 この上からさらにプロテクターを付けると、ずんぐりむっくりした出で立ちになりそう。
 
「フムフム。じゃあ、キルトのみで」

「わかりました。では、下の方はどうします?」

 こちらは、金属製ニーハイで固めようかなと、考えている。

「いいですね。前はミニスカートタイプで、動きやすさ重視と、で、死角となっている後方は、ロングスカートで覆うんですね?」

 薄手の生地の上に、さらにプロテクターを重ねるイメージだ。

「うん。その感じで行くよ」


 完成したイラストを、見てもらう。


「ボツですわ」

「ないわー」

 クレアさんとヤトから、強烈なダメ出しを食らう。

「キャルのアイデンティティが、全部死んでるでヤンス」

「せやな」

 リンタローと、フワルー先輩からも。

「えーっ? なんでですか?」

「なんかこう、しっくり来ませんわ。キャルさんの持ち味がすべて、消え去ったような」

 クレアさんからは、抽象的な意見が返ってきた。

「キャルは生足を出さないと、キャルじゃない」

 かなり具体的なコメントが、ヤトから飛んでくる。

「いや、生足出すってそんなに重要?」

「少なくとも、キャルに限って言えば」

 スカートの部分に、ヤトが大きくバッテンを付けた。

「こんな、足が隠れてしまうようなプロテクターは、アウト」

「マジに言うと、ソレガシもあまり賛成できかねるでヤンスよ」

 なんと、リンタローからもダメ出しを食らう。

「どうして? 足が隠れるってのは、いいことなんじゃ?」

 足の動きから、こちらの戦法を読み取るって聞いた。
 だから足が隠れるドレスアーマーは、かなり最適だって思ったんだけど。

「それは、達人の領域でヤンス。単に足を隠しているだけだと、邪魔なだけでヤンスよ。ましてや、重めのヨロイを着るんでヤンス。足さばきどころの話じゃなくなるでヤンスよ」

「さっき、自分で言っていなかった? 『鈍重だから、相手の攻撃はすべて受けてカウンターを狙うのだ』って。だから、気を配る必要はなし」

 リンタローとヤトの二人から、具体的な反論が返ってくる。

「そうでしたわ。だからワタクシも、ドレスアーマーに抵抗があるのですわ」

 だとしたら、クレアさんにドレスアーマーはこしらえないでおこう。

「キャルさんに至っては、あまりオシャレな気がしませんの。この絵のままだと、ドレスに着られていると言うか」

「そもそも、キャルはドレス姿が似合う子じゃない。どちらかというと、使用人って感じが当てはまりそう」

 お姫様二人から、トドメを刺される。

 わたしは、清楚ではないんだな。

「ですので、こういうのをご提案いたしますわ」

 クレアさんシューくんから、余った紙をもらう。

 余った用紙で、クレアさんがイラストを描く。

「シュー様。こういったものはいかがでしょう?」

 できあがったイラストを、クレアさんはシューくんに見せた。

「ボクには、判断できかねます」

 お手上げと言った感じの意見を、シューくんは述べた。

 クレアさんは、どんなイラストを描いたんだ?

「どれどれ」

 シューくんの肩の上から、イラストを覗き込む。
 
 おお。抽象画みたいになっていた。
 なんのイラストか、まったくわからん。
 これがわたしだというなら、いったいわたしはクレアさんからどんな風に見えているんだろう?

「クレア、あまりえが上手じゃない」

「ですわね。キャルさんをイメージしてみたんですけれど」

「それだと、古代の壁画。貸してみて」

 ヤトがあとを引き継いで、イラストを描き始めた。

「おお、うまいっ」

 意外な才能を、ヤトが発揮する。

「絵日記が大好きなんでヤンスよ」

「バラさないで。ばか」

 赤くなったヤトが、頬を膨らます。
 
 出来上がった絵を、ヤトがみんなに見せた。

「これは!」

「クレアの絵を参考にしてイメージした、メイドアーマー」

 メイド服タイプのアーマー、ってことかな?

「ドレスアーマーもいいけど、なんだかキャルって印象じゃない。豪勢すぎ。あと、ドレスアーマーってゴツい。だから案外、かわいくない」
 
 あくまでも見た目重視である、と。

 使用人の服なら、機能性なども重視されているから、たしかに動きやすいかも。

「ミニスカメイドなのは?」

「足を見せないキャルは、キャルじゃない」

 さいですか。
 やはりそこは、譲れないんだろうな。
 
「肩のパフスリーブが、かわいいね」

「これ。これが一番のポイント。ここ重要」

 トントントントン! と、ヤトが紙を指でノックする。

「他の部分はマジおまけ。大事なのは、パフスリーブ」

 ヤトが、やたら力説した。

「わかったよ。これでいくね」

 みんなに出て行ってもらい、わたしは装備の錬成を始める。

 今まで使っていた外套も、錬成に使おう。
 クレアさんに仕立ててもらったやつだし。

「キャル!」

 扉が開き、フワルー先輩がなにか黒いものを投げてよこす。
 メイド服だった。

「あ、ありがとうございます」

「赤メイド、黒ニーハイでお願い致しますわ!」

 先輩の後ろから、クレアさんがひょっこり顔を出す。

「はい。わかりましたクレアさん」

 半ば棒読みになりつつ、改めて作業を再開した。

 クレアさんって、あんなに食い気味な人だったっけ?

「錬成!」

 外套、魔法石、メイド服を錬成した。

「これで、しばしの辛抱」

 あと一五分もすれば、完成するだろう。
 
 他に、改良しておきたいのは、左腕まですっぽりと覆う手甲だ。

「これさ、勝手に動かすことってできないかな?」

『キャル。あんたって、ほんとにヤバイことを考えるよなあ?』

 レベッカちゃんが、呆れ果てる。 

「だってせっかくイソギンチャクが寄生したから、なにか使い道がないかなって」

『可能っちゃ可能だろうね。スパルトイの腕だけを、活用すればいいんじゃないか?』

「なるほど!」
 
『そんで、盾でも持たせておけばいいよ』

 そうだよね。わたしは今回、壁役を担当する。ならば、シールドは欲しいかも。

 スパルトイの腕を、肩にかけるホルスターとくっつけて錬成した。
 腕だけで、タワーシールドを担いでみる。

「結構、いい感じ?」

『上等じゃないか。イソギンチャクが骨の筋組織になってくれて、うまいこと機能してくれているよ』

 突然、ドアがノックされた。

「キャルさん、よろしくて?」

「まだ、ヨロイは完成していません。あと五分、待ってください」

「承知しました。我々は、山にある廃墟にいますので」

 なんだろう? 依頼かな?
 
「どうしたんです?」

「廃墟に強力なモンスターが出現したと、報告がありましたの。調査に向かいますわ」