「クレアさん、あそこですかね?」

 わたしたちは、火山地帯に到着する。

「酷い有様ですね」

 そこは、見事に土砂崩れが起きていた。自然現象ではない。明らかに、魔物などの強い外部の力が働いている。

「キャルさん、岩を壊しましょう」

「待ってください。クレアさん。スパルトイのオウルベア軍団、来て!」

 わたしはスパルトイの中から、オウルベアのガイコツを呼んだ。あと探索用にウルフのガイコツも。

「オウルベア、ガレキをどけて!」

 指示を出すと、オウルベアはよいしょと岩石をどけ始める。

「そうそう。その調子……うわ!」

 モンスターが、押し寄せてきた。

「なんて数ですの!」

 赤いワニ、黄色い巨大クモ、炎の弾を吐くてんとう虫が。中央には、イノシシ頭の亜人種がいる。トサカが燃え盛っていますが、平気なの?

「火山に適応した、オークまでいますわ!」

 わたしの知っているオークとは、かなり違うけど。

 これは……いいスパルトイの材料になりそう!

 とはいえ、やっつけないと仲間にならないよね。 

「ええい、負けるかっての」

『残りのスパルトイも、出てきやがれ!』

 わたしより早く、レベッカちゃんが指示を出した。

 数には、数で勝負だ。やってやれないことはないっ!

 オウルベアには引き続き道を作ってもらいつつ、岩で遠投をしてもらう。

 炎のワニが、岩に叩き潰された。

 だが、炎のてんとう虫が岩を溶かしてしまう。

「あーっ、オウルベアがーっ!」

 オウルベアが、溶岩をかぶって溶けちゃった。後で治してやるから、待っとれい。

『ゴブリン・毒弓部隊! 出番だよ!』

 ならば、弓矢で撃ち落としてやる。

『仕込んだ特製の毒弓で、混乱しちまいな!』

 矢に貫かれたてんとう虫が、敵味方問わず火の玉を乱射する。

「うわ、結構被害がデカい! レベッカちゃん、やっぱ普通に仕留めて!」

『あいよ。聞いての通りさ。通常の矢を浴びせな!』

 結局ノーマル弾で、てんとう虫砲台を撃ち落とす。

 オウルベアが、オークに岩を投げつけた。

 片手に持った蕃刀を振り下ろし、オークが岩を切り裂く。並のモンスターではないようだ。火山の魔力を吸って強くなったのか、あるいは、なんらかの作用が働いているのか。

「オークは、ワタクシが仕留めますわ!」

 蕃刀を持ったイノシシ頭が、クレアさんを見てニヤリと笑った。うええ。

「メスをエサにしようとなさって? おあいにくさま」

 クレアさんは、レイピアを所持している。わたしが作った剣の中で、どうにか雷属性に合いそうな品だ。柄のガードに魔法石を埋め込んであり、魔法増幅装置として働く……ハズ!

「サンプルの魔剣、試させていただきます」

 わたし作のレイピアを構え、クレアさんが魔物と向き合う。

 オークは油断しているみたいだ。「そんな細い剣で何ができるのか」という、顔をしている。

 だが、彼はすぐに肉塊となった。何をされたのか、想像もつかなかっただろう。クレアさんが動いた瞬間に、ボロボロの炭になったから。

 とはいえ、魔剣も壊れちゃったんだよなあ。

「調節を間違えました。すいません」

 クレアさんの力を、甘く見積もっていた。魔力に耐えきれない剣なんて、作っちゃダメだよね。

「いいえ。ワタクシの魔力調節に、問題がありました。全力を出しすぎて、せっかくの武器が。所持者として、情けないですわ」

「とんでもない! もっと頑丈な武器を作りますんで」

「お願いしますわ」

 オークが落とした蕃刀を、手に取る。

「これを、錬成できれば」

 わたしは、壊れた魔剣と蕃刀を錬成し、かけ合わせた。

「蕃刀の頑丈さと、レイピアのきめ細やかさを両立させてみました。今度は、耐久力も上がるかと」

「ありがとうございます。先へ進みましょう」

 わたしたちは、先を急ぐ。

「見えてきましたわ」

 壊れた馬車が、視界に入った。

 以前、店に来てくれた冒険者たちも、馬車の周りを守っている。

「来てくれたのか。ありがとう!」

 リーダーの男性が、わたしたちに礼を言った。

「応援は我々だけですわ。申し訳ありません」

「来てくれただけでも、感謝するよ! 本当にありがとう」

 冒険者だけではない。行商人さんも、何度も頭を下げている。

「しかし、積み荷が」

「そんなの、置いていけ! 逃げるぞ!」

「積み荷のほうが、大事なんだ!」

 冒険者リーダーが、行商人を馬車から離そうとした。たしかにウマは逃げちゃったから、もう馬車は意味をなしていない。

「アイテムは、こちらで預かります」

 わたしのアイテムボックスは、ドロップアイテムである【龍の眼:極小】のおかげで、無限だ。何でも入り、腐らない。

「何から何まで、助かるよ」

「それはいいですから、逃げてください。早くしないと……」

 何者かが、空からこちらを見ている。デカい。一五メートルくらい、体長があるな。全身が黒く、頭部から首にかけて青い。虹色のトサカを持っている。

「ヒクイドリだ!」

 とうとう、ヒクイドリに見つかってしまった。派手に暴れたもんな、わたしたち。いくら、街道を修復しようとしていたとはいえ。

「みなさんは、逃げてください!」

 冒険者たちが、駆け出した瞬間だった。

 巨大ヒクイドリが急降下し、蹴りを放つ。獲物をとらえるかのように、オウルベアごと岩石を掴んだ。再度宙を舞い、空中でオウルベアと岩を粉々に砕く。

「ひいいい!」

 行商人が、恐怖で駆け出していった。

 声に反応したのか、ヒクイドリが行商人を視認する。

 いけない。魔物が彼をターゲットにした。

 わたしは、即座に【ファイアボール】を放つ。

 ヒクイドリが行商人さんに蹴りを繰り出した。

 そのタイミングで、火の玉が魔物の足にクリーンヒットする。威力は低いが属性を無効化する、【原始の炎】を込めた火の玉で。

 射撃ダメージしかないものの、ヒクイドリから行商人を守ることだけはできた。

「逃げて! 応援を呼んできて!」

 もう一度冒険者たちに叫び、わたしはヒクイドリをこちらへ引き付ける。

『さあ、どうしたよ。アタシ様はここだよ、このコケコッコー野郎!』

 魔剣を振り回して、レベッカちゃんにヒクイドリを挑発してもらった。

 相手は、わたしがディスったと思っているんだろうなあ。 

「キャルさん。今度もワタクシがいただきますわ」

「どうぞ」

 わたしが言った瞬間、クレアさんが足元に【雷霆(らいてい)蹴り】を繰り出した。ヒクイドリより、高く跳躍するためである。

 空中戦なら負けないと、ヒクイドリも高く舞い上がった。

「キック対決など、無粋なマネはいたしませんわ」

 なんと、クレアさんが空中を蹴る。上空でナイフを足場にして静電気を発生させ、空中から急降下したのだ。

 攻撃モーションに移っていたヒクイドリが、あっけにとられた顔になる。

「もう、遅いですわ」

 ヒクイドリの首をハネて、クレアさんが急降下した。

 魔物の身体が、空中で炭化する。

「ヒクイドリのクチバシと、トサカ。肉もゲットしましたわ」

「すごいです、クレアさん」

「本当にすごいのは、キャルさんの魔剣ですわ。今度は、壊れておりません。ワタクシ、本気で全力の雷光を注ぎ込みましたのに」

 勝ったというのに、クレアさんは少しむくれていた。

『……キャル! もう一匹くるよ!』

 とっさに、わたしはクレアさんを突き飛ばす。

 同時に、背中に強烈な打撃が入った。

「キャルさん!」

「平気です!」

 わたしは、レベッカちゃんで攻撃を防ぐ。レベッカちゃんが気を遣って、わたしに憑依してくれたおかげだ。とはいえクリスさんの避難を優先したので、結構なダメージが入ったけど。

「クレアさんは逃げてください! コイツは、わたしが仕留めます!」

「でも!」

「まだコイツらには、仲間がいるかも知れません!」

 わたしがそう言うと、クレアさんは自分のすべきことを悟ったらしい。すぐにわたしを置いて、行商人さんの元へ。

 それでいい。

『さて、遊んでやるよ。クソコケコッコーが!』