幌馬車を休ませて、キャンプにした。

 夕飯は食べてきている。朝食も、あらかじめ買っておいた。

 魔物よけの結界を張って、馬車ごと包む。結界装置の真下に火を炊いておけば、ずっと魔物から守ってくれる。

 あとは、休むだけ。

 テントも兼ねる馬車って、便利だね。

『キャル、アタシ様が見張っておくから、ゆっくり休みな。モンスターが出てきたら、起こしてやるよ』

「ありがとう、レベッカちゃん」

 わたしは、レベッカちゃんを元のサイズに戻す。

「クレアさん、しんどくないですか?」

「どうってこと、ありませんわ」

 寝袋にくるまるクレアさんは、どこか楽しげだ。

「わたくしたちは災害時や有事の際に備えて、訓練もしていますから。いざというときに『非常食がおいしくない。食べられない』なんてワガママ、言っていられませんもの」

 王国では、相当厳しく育てられたみたい。

「あなたのお知り合いが、目的地にいらっしゃるのですわね? どんな方?」

「わたしのひとつ上の先輩で、エクスカリオテ魔法学校の卒業生です。わたしと同じ平民出身ですよ」

「先輩自体は、どんな方ですの?」

「破天荒ですね。同じ錬金科にいたんですが、とにかくワイルドでした」

 錬金術のアレンジ方法は、たいていあの先輩から授かったものである。

「修学旅行で水泳の課外授業があったとき、浜辺の貝殻を使って水着を錬成したんですって。『貝殻ビキニや!』といって、クラス中の注目を浴びていたそうです」

「アイザッカー地方の方言ですわね? たしかにあそこは、うるさくて人懐っこい方が多いと聞きますわ」

 卒業式でわたしにつっかかっていた先生が、先輩の担任なんだったっけ。そりゃあの人、平民を目の敵にするよね。

「ただ、腕は確かなんですよね」

 ケンカは強かったが、冒険者にはならなかった。人と話す方が好きだったため、この先にある村で店を開いたという。

「で、よかったら店専属の素材収集冒険者にならないかと、打診がありまして」

 わたしは二つ返事で、「やります」と書いたのである。

「お店番をやってと言われたら、お客さんが怖くてできません。でも、素材集めなら多少の知恵はありますので」

「このキャンプをする前も、えらく大量に素材を集めていらしたわね。ただの木片から、石ころに至るまで」

「訓練用です。すぐに魔剣を作るわけには、いきませんから」

 木や石の成分は、個体によってかなり違う。
 枝一本でも、どれだけの雨を吸ってきたか、日差しをどれだけ浴びてきたか。
 そんな些細なことも、錬成には関わってくる。「石なんだから、こう錬成すればいい」わけじゃない。

「錬成をしているキャルさん、楽しそうですわ」

「ありがとうございま――」

 レベッカちゃんが、ピコンピコンと点滅した。

「どうしたの?」

『敵だ。オウルベアだね』

 ウマと御者さんを隠し、わたしたちは結界から出た。

 いくら弱いモンスターを避ける結界と言っても、オウルベアクラスとなると放っておけない。結界を壊す可能性があるからだ。

「オウルベア討伐はギルドの依頼書にもあったね。ちょうどいいよ」

 わたしは、手配書を確認する。

 あらかじめ、わたしたちは冒険者ギルドで討伐依頼を受けていた。道中でモンスターと遭遇したら討伐し、目的地の街で報酬を受け取ろうと考えたのである。

 やっつけてほしいオウルベアの数は、冒険者一人につき三体と書かれていた。

「てっとり早く仕留めますわ」

「まってください。ちょっとやりたいことが」

 わたしは、レベッカちゃんを地面に突き刺す。

「我が呼びかけに応じて、いでよ。しもべたち! 【スパルトイ召喚】!」

 スキル振りのときに、見つけたんだよね。ガイコツを召喚する魔法を。

「グガー」「ウオー」「ムキュー」

 三匹のスケルトンが、地面から這い出てきた。それにしても、四等身とは。

 剣と盾を持つタンクに、斧を持つ前衛戦士は、スケルトンである。三角帽子と杖を持つ魔法タイプは、ゴーストをベースにした。

 わたしは基本、ぼっちプレイである。
 なので、前衛が必要だなと考えたのだ。
 スケルトンの骨粉と、不要な装備品をリサイクルしたかったし。

「がんばって!」

 わたしが声をかけると、一同が「わー」っと声を上げてオウルベアに立ち向かう。

 剣と斧がオウルベアの動きを止めている間に、魔法使いがファイアーボールを撃って仕留める。

 ファンシーな光景だが、彼ら的に必死だ。

 ただ、普通にわたしたちが斬ったほうが早かった。

 クレアさんが仲間になるなんて、想定していなかったもんよ。

「あまり役に立っている感じじゃないですね」

「ですが集団戦となると、変わってきますわ」

 いわく、「数を増やせば、ザコ戦では重宝するかも」とのこと。そんなすごい戦いがあればいいけど、戦争がしたいわけじゃないからなあ、わたし。

『見張りというか火の番はコイツらに任せな。あとはアタシ様が、しっかり見ておいてやるよ』

「ありがとう、レベッカちゃん」

 わたしたちは、就寝することにする。

 朝起きると、スパルトイ軍団の数が五体に増えていた。一体は、やたらゴツい。もう一体は、犬っぽかった。

『あの後、オウルベアやウルフの襲撃が、三回あったのさ。面倒だからスパルトイ共で適当に始末して、配下にしてやったよ』

 わっはっはーと楽しげに、レベッカちゃんが笑う。

 レベッカちゃんのレベルが上っていたので、【スパルトイ召喚】にさらにスキルポイントを振ってあげた。これで操れる数もさらに増えるし、維持できる時間もアップする。

 で、オウルベアとウルフをさらに一体ずつ増やした。

『賑やかになったね』

 かなりアレなパーティだけど。

「スパルトイたちに、スキルは振らなくていい?」

『構わないよ。アタシ様がのレベルが上がれば、勝手に強くなるよ』

 よかった。スパルトイが増えたら、そちらのスキル振りも考える必要があるかもって、思っていたからなあ。

「朝食が、できましたわ」

 クレアさんのいる方角から、おいしそうな香りが。

 うお、いつの間に。

 オウルベアの肉で、サンドイッチとスープを作っている。御者さんが、もう食べてるじゃん。

「いただきます! おおーっ。おいしいです!」

「お料理を覚えた甲斐が、ありましたわ」

 簡単な料理を、クレアさんはメイドさんから、教わっていたらしい。

 これで、結婚する気がないっていうんだからなあ。



 旅に出て三日が過ぎた。


 わたしたちは、森で採取を始める。

 ガイコツウルフの軍団が、よく働いてくれた。上に乗っているレンジャー型スケルトンが指揮を取り、薬草やキノコを取ってきてくれる。錬成がはかどって、仕方がない。

「ワタクシたちの出番が、ありませんわ」

「ホントですね。ここまでの数になると」

 はい、わたしのせいですよね。ゴブリンの集落を壊滅させようなんて思ったから。

 もはや、ガイコツの群れは三〇体を越えていた。どれも四等身サイズだが、これだけの数がいればかなり強い。

 ウルフやオウルベア、オバケキノコなどをターゲットにしていた。そのうち、ゴブリンの集落を見つけたのである。
 討伐依頼があったので、わたしたちは集落を撃滅させることにした。

 ガイコツたちで集落を襲撃して、またガイコツが増えるという状況に。

『アハハ! 絶景だね! スパルトイの大行列だよ! これなら、世界だって征服できそううさね!』

 ただ、レベッカちゃんだけが上機嫌だ。

 なにごともなければいいが。



 しかし、わたしの願いは脆くも崩れ去る。

 目的地である、トリカンの村が見えたときだ。

「そこのモンスター使い、止まれ!」

 門の前で早々に、わたしは門番にヤリを突きつけられた。

 やっべ。スケルトンを引っ込めるのを忘れてたよ!

「まって! ウチのお客さんや!」

 オオカミ獣人族の女性が、村からわたしたちの元に駆け寄ってくる。豊満な胸を、ユッサユッサと揺らしながら。

「フワルー先輩!」