翌朝、最近共に過ごしている美しい毛並みのユニコーンに乗り、地図に描かれた目的地に向かった。
 目的地に着くとユニコーンから降り、目の前にある建物を眺める。今、俺の目の前にある大きな城は、はっきりと見覚えのある場所だった。

 魔王リュオンが、かつて住んでいた城だったから。つまり、俺が魔王を倒した場所。

 今は誰か、別の者が住んでいたりするのだろうか?

 警戒しながら扉を叩くが、反応は一切ない。
 誰もいないのか? そっと少しだけ扉を開き、隙間から中を覗いてみた。

 薄暗く誰の姿も見えないが、どんどんと大きな音を立てて走るような音や、騒がしい子らの声が聞こえてきた。

 新しい住人がいるのか――?

 静かに中へ入り、長い廊下を進んでいくと「助けてください……」と背後から掠れた声がした。驚き振り向くと、黒いタキシードを身に纏う、気配が完全に消えている魔族がいた。見覚えあるその姿を目にし、警戒心は一気に高まる。勇者の時代に常に所持していた強力な剣は、国に返した。だから手元には今、護身用の小さなナイフしかない。手強い魔族を相手にするには役立つのか分からないが、何も手にしないよりはマシかと、ナイフを握りしめた。

「お前、魔王の手下だな?」と、威圧的な声で尋ねると「そ、そうです。リュオン様の執事でございます……」と、か細く、怯えるような声でそいつは答えた。攻撃してくる様子はみられないが、その弱々しい言動も俺を油断させてから攻撃を仕掛け、俺を陥れるための罠かもしれない。気を緩めず、ナイフの刃を執事に向けたままにし、構えていると「こんにちは!」と、幼きモフモフな者達が駆け寄ってきた。

 一瞬でそれらに囲まれた俺。
 抱っこ抱っこと、次々に襲いかかってくる。

 これは、魔族による幻影魔法か? 
 自然と警戒心が解かれていく。

「これこれ、お客様ですので皆様、離れてください!」

 執事がそう言うも、誰も言うことを聞かない。すると「ご飯だ!」と奥の方から強く苛立つ様子の声がした。そして声の主が目の前に現れた。

「何故そこにいるんだ?」

 続けて声の主は、はっとしながら俺を見てそう言った。
 俺はナイフを強く握り、攻撃態勢になる。

 目の前に現れたのは、純白色のモフモフな赤ん坊を抱いている、暗黒色の衣を身に纏う魔王だったからだ――。