窓から差し込む月明かりに照らされた寝室のベッドで、横になり色々考える。

 俺が食べた飴玉は、金持ちになりたいと願った飴玉ではなかったのは事実だろう。子をあやす能力を願った僧侶ウェスタは別の飴玉でも満足している様子だったが、俺が子をあやす能力を得ても意味は無い。国に問い合わせたが、本当に貴重な飴玉らしく、もう一度飴玉を授けるのは難しいと回答が来た。

 もう金持ちになる願いは叶わない。さて、どうしたものか――。

魔王討伐してから感謝の気持ちだと、あちこちから食べ物やら生活用品が色々送られてきた。それに国からの報酬もあった。しばらくは生活に困ることはないだろう。ただ、一生を考えると新たな仕事を探さないとならないし、想像していた贅沢な暮らしは出来ないだろう。一生働かないで楽をして、一生豪華な暮らしをしたかった。

 俺は勇者という職業に憧れていた。周りから注目を浴び、とにかく恰好いいからという理由でだ。鍛錬を積み試験を受け、夢が叶い勇者に選ばれた。だが魔王を倒し平和になると、討伐直後までは注目を浴びていたが、俺に向けられていた視線は、今はもう、それぞれの大切な者や事に向けられていた。

 今、やりたいことは特にない。
 
 注目されていた時期が俺の黄金期だったなと、その頃を思い返していると、倒した魔王の姿が頭の中に浮かんできた。

 そういえば、魔王は今どこにいるのか? まだ生きているのだろうか? 城で捕らえられたままなのだろうか? 

 考えていると、左腕につけていた銀のブレスレットが震えた。外部から連絡が来た合図だ。右手人差し指でブレスレットをタッチすると、目の前に大きな画面が現れる。飴玉について問い合わせた時に対応してくれた女が画面の中にいた。

「ラレス様、先日お問い合わせいただいた飴玉の件なのですが~」

 もしかして、もう一度飴玉を貰えたりするのか?なんて淡い期待を寄せ、勢いよくベッドから降り、立ち上がった。

「なんでしょう?」
「あの、子育てが得意な能力を手に入れられたということでしたので、お仕事を紹介したかったのですが……」

 予想とは違う話か……。
 ベッドに座った。

「どんな仕事ですか?」
「あの、子育てをするお仕事で……報酬はなかなか良いかと。如何でしょうか?」
「あぁ、どうしよっかな」

 正直まだ休みたい気がするし、子育てする仕事とか、未知で上手くできるか分からない。いや、でも手に入れた能力で上手くこなせるのか?

「ひとまず、現場に行ってみませんか?」

 少し迷ったが、今、他にやることないし。

「とりあえず、現場に行ってみるかな。それから仕事の話を受けるか、考えます」
「よろしくお願いいたします。なかなか条件の合う人が見つからなくて……それでは、地図や詳細は後程お送りいたしますので」

 そうして、とりあえず現場に行くことになった俺。
 送られてきた地図を見るとなんとそこは――。