最悪な状況になった――下手な発言をすれば今まで積み上げてきたもの全てが一瞬で崩れてしまう。

 緊迫した雰囲気。子らも集まってきて、いつもと違う圧力を感じているのか、怯えていた。

 その時だった。魔王が奥の方から現れた。
 
 おい、魔王。何故お前までこのタイミングで現れる。部屋にいろって言っただろうが――もう、お終いだ!

「ギルバード」

 魔王は冷静にギルバードを呼んだ。ギルバードはゼロスから飛び降り「魔王パパ!」と走って魔王に飛びついた。魔王はいつものようにギルバードを優しく抱き上げる。そして「大丈夫だ」と、ギルバードの頭を撫で左手で抱くと、右手から何か半透明な魔法が出てきた。

「魔王よ、その子は魔王の子か? というか何故封印したはずの魔法を? まさか我らを消そうと――」

 王の話を全く聞いていない様子の魔王。手から出てくる謎の魔法は大きくなってくる。

「今すぐふたりを捕らえろ!」

 おまつりの屋台にいた者たちは変装を解いた。すると真っ黒な格好になる。なんと、暗殺集団だったのだ。王の命令に対し躊躇った様子も見せたが、彼らは剣を手に取り攻撃する体制になった。

「やめろ! 何もせずにふたりが捕えられるのをただ眺めているぐらいなら、俺はふたりを守るために、お前たちと戦う!」

 魔王から遂に魔法が放たれた。すると半透明だった魔法は数え切れないほどの虹色の美しい花に変わった。そしてギルバードが壊した壁に花が集まり、壁を包み込む。しばらくすると花は壁から離れて扉から出ていき、空高く飛んでいった。

 壁が元通りになっていた! そして全員が花に見惚れて、空から完全に消えるまで花を目で追っていた――。

「まさに、コングラッチュレーション……」

 王が呟くと全員拍手した。そしてしばらく盛り上がっていた。

 俺は魔王に駆け寄る。

「魔王、今のは?」
「この花の風景も子供たちに見せるために、魔法が再び使えるようになったら使いたいと思っていた」
「すごいな魔王。魔王は最強だ!」

 子らが魔王に巻きついてきた。そして以前と同じように、魔王が冬のモフモフなコートを着ているような光景になった。ただし今回は、和服のカラフルなバージョンで。
 
「魔王、我はとても感動した。魔王の子育ての様子は暗殺集団から詳しく聞いていた。子供たちの魔王への態度を見ていてもよく分かる。子供たちを大切に育てていることが。魔王の魔力はもう封印しない。これからも子供たちのために存分に使うがよい!」

――よかったな、魔王。

 俺は暗殺集団に近づいた。
 リーダーっぽい若い男に話しかける。

「直接会った時にお礼を言いたいと思っていた。朝食の件や壁の穴を直してくれたこと、そして屋台で俺らを楽しませてくれたこと。本当にありがとな!」
「お礼なんていらない。ただ助けたいと純粋に思い、勝手にやったことだ。こちらこそありがとう」
「何に対してのお礼だ?」
「ブラックを幸せにしてくれて、だ」

 ブラックはどこだと騒がしい中を探す。珍しくブラックも魔王に巻きついていた。

 少し経つと帰る時間がやってきた。

「帰る時間が来たぞ! 荷物を持って集まれ!」

 魔王を見ると、宿の者と何かを話していた。話終えると玄関の近くにある部屋の中に入っていった。俺も魔王について行き、中に入る。魔王は壁に両手をかざし、魔法を出した。

「この部屋は物置になっているようだな。魔王は今、何をしているんだ?」
「今後使うか分からないが、この壁と魔王城の壁を繋げる」
「いつでも温泉に来れるのか?」
「あぁ、そうだ。子供たちが帰りたくないって騒いでいたからな」
「もしかして、さっきギルバードがああなってしまったのも、帰りたくなくて怒ったからか?」
「あぁ、そうらしい」

 魔王城と繋がる壁を眺めた。これで、また全員でここの星空を見上げられる可能性は高くなったのか。

「魔王、勇者、遅いよ! 早く並んで!」

 レッドが外から叫んできた。

「ごめんな、今行く! 魔王、家に帰ろうか」

 魔王は微笑みながら頷いた。
 俺たちは手を繋ぐと外に向かった。


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