魔王討伐してから一ヶ月が経った。
 俺の生活は予想とは裏腹に、パーティーを組む前と比べると、何も変化はなかった。

 他のメンバーたちはどうなのかと疑問を抱き、各メンバーが暮らしている街に訪れてみる。戦士ゼロスは、本当に岩も碎ける程の強い腕力を得たようだ。筋肉、特にタンクトップからはみ出た上腕二頭筋がモリモリになっていた。重たそうな木を片腕で軽々と担ぎ仕事をしている。魔法使いエウリュは人の心を読める能力を使い、話すと気持ちが楽になる有能占い師として街で大活躍していた。

 そして最後に僧侶ウェスタが住んでいる街に訪れる。僧侶ウェスタはなんと豪邸に住み、家の外壁には豪華な宝石が沢山埋め込められていた。

 僧侶ウェスタの家の中に入ると幼子が泣きながら俺の元に駆け寄ってきた。俺は抱き上げる。幼子を抱いたことはなかったのだが、すんなりと抱けた。子供は苦手だったはずなのに。摩訶不思議な言動をし、未知で苦手なジャンルだったから。そしてなんと、抱っこした瞬間に泣き止んだ。

「一瞬で泣き止んだわ、珍しい……ラレスは子供に慣れているの?」
「いや、全く触れたこともない」
「そうなのね。でも泣き止んだし、ラレスに抱かれた息子はなんだか、心地よさそうだわ。良かった、ずっと泣き止まなかったから……」

 僧侶ウェスタの息子を抱きながら、俺は家の中全体を見渡した。家の中にも高そうな絵や宝石が沢山ある。

 それらを見て、ある疑問が噴水のように湧く。

「ウェスタの家って、金持ちだったのか?」
「いいえ、そうなったのは最近よ」
「最近?」
「そうなの、大儲けしたの」

 詳しく聞くと、どうやら売りたいけど金にもならないし、どうしようか?と悩んでいた土地の価値が急に跳ね上がり、かなりの高値で売れたらしい。他にも旦那が株で大儲けしたり。

「間違えたのかもしれない……」と、俺は呟く。
「何が?」
「あの時の、能力の飴玉をもしかしたら――」

 僧侶ウェスタははっとする。

「もしかして、願った飴玉、わたくしとラレスの、逆に手に取ってしまった?」
「そうかもしれない」

 驚き、岩のように動かなくなった俺と僧侶ウェスタ。幼き子供は俺の胸の中で機嫌良く、キャッキャと笑っていた。