温泉旅行の日がやってきた!
いつもより慌ただしく賑やかに朝の時間は過ぎていく。各自、一週間分の旅の準備を終えた順に魔王城のエントランスホールに集まるよう指示を出した。
自分の準備を進めながら、一生懸命準備をしている子らの様子も観察した。おもちゃやぬいぐるみ、そして本など持っていくものを選んでいる。ピンクは旅行が決まった日から自分の宝物であるシマエナガのぬいぐるみも連れていくとはりきっていたな。
「みんな、忘れ物はないか?」
「な~い!」
俺の質問に対し全員が自信満々に答えるも、きっと誰かは何かを忘れていそうだな。
準備を終えるとエントランスホールに行く。全体を見渡すと、さっそく黄色いリボンのついた皮のショルダーバッグが落ちていたのを発見した。
「イエロー、イエローはどこだ?」
「イエローは走って外に行ったよ」
俺が問うとレッドが答えた。
「もう外に行ったのか!」
ショルダーバッグを手に持ち、外に出ると走り回って遊んでいるイエローにバッグを渡した。ちなみに子らのショルダーバッグは、今日の旅行のために大人たちが夜中に作った。全員気に入ってくれて、家の中でもずっと身につけている子もいた。
全員外に出たのだが、動き回ってなかなか集まらない。
今、目の前にはユニコーンが引っ張る空飛ぶ馬車が三台並んでいる。その前に大人たちが並んだ。その時ふと気がついた。魔王は今日、変装をしていない――。俺の中では大きな出来事だ。気持ちに何か変化があったのか、今すぐに聞きたかったがその気持ちを抑えた。今は全員をまとめる時間だ。
「はい、魔王、執事、そして俺、勇者のチーム。どのチームが一番に集まるかな? よーい、どん!」
魔法にかかったかのように、一斉に急いで集まり出す。きっと急いで集まる理由も『負けたくないから』『チームに迷惑かけたくないから』『ただ楽しいから』……と、様々なんだろうな。
先日、誰が誰と馬車に乗るのか、大人ひとりずつと子らをバランスよく分けていた。
魔王チームには護衛として隣にいたいと自ら立候補したブラック。あとはブルーとスカイ、そしてギルバードが。執事のところにはグリーンとオレンジとイエロー、そしてホワイト。俺のところにはバイオレットとレッド、ピンクが乗ることに決まった。全チームが並ぶと、それぞれの場所に乗った。
空を飛んだ馬車は地上から離れていく。
「レッド、ピンク、見てみて! 魔王城が小さくなっていくよ」
窓から見下ろすと、地上が小さくなっていった。魔王城だけが他の街から離れていて孤独に見える風景は、少し寂しくも感じた。
「魔王城だけ他の街から離れてて、なんだか特別な場所みたい」
「魔王城は広いしカッコイイし、最高だ!」
「おうちが一番キレイ」
バイオレットが呟くとレッド、ピンクも反応した。
そんな捉え方もあるのだなと、感心する。
休憩を多めに挟み、スピードもゆっくり進む予定だから着くのは夕暮れ時になるのか。しばらく暇だなと思いながらウトウトしかけていたが、三人はしばらく目を輝かせながら「雲が隣にある!」などと盛り上がりながら外を見つめていた。
*
「みんな起きろ、着いたぞ!」
仲良く寄り添って眠っていた三人を起こす。
和国をイメージした温泉宿に着いた。とても大きくて立派な建物は、全体が木材で作られている。扉の上に『幸運夢(こううんゆめ)の宿』と書いてある看板が飾られていた。庭には直接初めて見る竹や石などの置物や池があり、赤い花も咲いている。夕陽の背景が、元々美しい建物をさらに際立たせていて、まるで本当に異国に来たと思わせるような雰囲気だった。
子らも建物を眺めながら、感嘆の声を漏らしていた。
「こちらへどうぞ」と、着物を身に纏う宿の女が泊まる部屋を案内してくれた。泊まる部屋はとても広く、床が畳だった。独特な香りもする。
子らは走り回ったり、畳を触ってみたり……とにかく、はしゃいでいる。荷物を置いて少し部屋で休むと全員で宿の中を探検してみることにした。
廊下の幅はそんなに広くないから人の邪魔にならないように、一列に並んだ。扉が開いている部屋をひとつひとつ覗きながら廊下を歩く。そして最後に大浴場と書かれている場所を覗いた。とにかく広かった。お湯の種類がいくつもある。野外にも露天風呂というものがあるらしい。温泉は全員で食後に入る予定だ。魔王はゆっくりしてほしいから、子らが寝静まった後に入ってもらおうか。少しでも魔王の癒しになれば良いなと考えながら中を眺めた。
部屋に戻る時、少し違和感を覚えた。一通り歩いたが、客とすれ違わなかった。そして宿の中はずっと静かだった。
ちょうど部屋に着くと夕食の時間になった。宿の男が部屋まで迎えに来て、案内してくれた。低いテーブルと座椅子という低い椅子がずらっと並べられてある和室に通された。
全員が席に着くと、廊下から聞き覚えのある声がした。声の主たちは部屋に入ってきた。
いつもより慌ただしく賑やかに朝の時間は過ぎていく。各自、一週間分の旅の準備を終えた順に魔王城のエントランスホールに集まるよう指示を出した。
自分の準備を進めながら、一生懸命準備をしている子らの様子も観察した。おもちゃやぬいぐるみ、そして本など持っていくものを選んでいる。ピンクは旅行が決まった日から自分の宝物であるシマエナガのぬいぐるみも連れていくとはりきっていたな。
「みんな、忘れ物はないか?」
「な~い!」
俺の質問に対し全員が自信満々に答えるも、きっと誰かは何かを忘れていそうだな。
準備を終えるとエントランスホールに行く。全体を見渡すと、さっそく黄色いリボンのついた皮のショルダーバッグが落ちていたのを発見した。
「イエロー、イエローはどこだ?」
「イエローは走って外に行ったよ」
俺が問うとレッドが答えた。
「もう外に行ったのか!」
ショルダーバッグを手に持ち、外に出ると走り回って遊んでいるイエローにバッグを渡した。ちなみに子らのショルダーバッグは、今日の旅行のために大人たちが夜中に作った。全員気に入ってくれて、家の中でもずっと身につけている子もいた。
全員外に出たのだが、動き回ってなかなか集まらない。
今、目の前にはユニコーンが引っ張る空飛ぶ馬車が三台並んでいる。その前に大人たちが並んだ。その時ふと気がついた。魔王は今日、変装をしていない――。俺の中では大きな出来事だ。気持ちに何か変化があったのか、今すぐに聞きたかったがその気持ちを抑えた。今は全員をまとめる時間だ。
「はい、魔王、執事、そして俺、勇者のチーム。どのチームが一番に集まるかな? よーい、どん!」
魔法にかかったかのように、一斉に急いで集まり出す。きっと急いで集まる理由も『負けたくないから』『チームに迷惑かけたくないから』『ただ楽しいから』……と、様々なんだろうな。
先日、誰が誰と馬車に乗るのか、大人ひとりずつと子らをバランスよく分けていた。
魔王チームには護衛として隣にいたいと自ら立候補したブラック。あとはブルーとスカイ、そしてギルバードが。執事のところにはグリーンとオレンジとイエロー、そしてホワイト。俺のところにはバイオレットとレッド、ピンクが乗ることに決まった。全チームが並ぶと、それぞれの場所に乗った。
空を飛んだ馬車は地上から離れていく。
「レッド、ピンク、見てみて! 魔王城が小さくなっていくよ」
窓から見下ろすと、地上が小さくなっていった。魔王城だけが他の街から離れていて孤独に見える風景は、少し寂しくも感じた。
「魔王城だけ他の街から離れてて、なんだか特別な場所みたい」
「魔王城は広いしカッコイイし、最高だ!」
「おうちが一番キレイ」
バイオレットが呟くとレッド、ピンクも反応した。
そんな捉え方もあるのだなと、感心する。
休憩を多めに挟み、スピードもゆっくり進む予定だから着くのは夕暮れ時になるのか。しばらく暇だなと思いながらウトウトしかけていたが、三人はしばらく目を輝かせながら「雲が隣にある!」などと盛り上がりながら外を見つめていた。
*
「みんな起きろ、着いたぞ!」
仲良く寄り添って眠っていた三人を起こす。
和国をイメージした温泉宿に着いた。とても大きくて立派な建物は、全体が木材で作られている。扉の上に『幸運夢(こううんゆめ)の宿』と書いてある看板が飾られていた。庭には直接初めて見る竹や石などの置物や池があり、赤い花も咲いている。夕陽の背景が、元々美しい建物をさらに際立たせていて、まるで本当に異国に来たと思わせるような雰囲気だった。
子らも建物を眺めながら、感嘆の声を漏らしていた。
「こちらへどうぞ」と、着物を身に纏う宿の女が泊まる部屋を案内してくれた。泊まる部屋はとても広く、床が畳だった。独特な香りもする。
子らは走り回ったり、畳を触ってみたり……とにかく、はしゃいでいる。荷物を置いて少し部屋で休むと全員で宿の中を探検してみることにした。
廊下の幅はそんなに広くないから人の邪魔にならないように、一列に並んだ。扉が開いている部屋をひとつひとつ覗きながら廊下を歩く。そして最後に大浴場と書かれている場所を覗いた。とにかく広かった。お湯の種類がいくつもある。野外にも露天風呂というものがあるらしい。温泉は全員で食後に入る予定だ。魔王はゆっくりしてほしいから、子らが寝静まった後に入ってもらおうか。少しでも魔王の癒しになれば良いなと考えながら中を眺めた。
部屋に戻る時、少し違和感を覚えた。一通り歩いたが、客とすれ違わなかった。そして宿の中はずっと静かだった。
ちょうど部屋に着くと夕食の時間になった。宿の男が部屋まで迎えに来て、案内してくれた。低いテーブルと座椅子という低い椅子がずらっと並べられてある和室に通された。
全員が席に着くと、廊下から聞き覚えのある声がした。声の主たちは部屋に入ってきた。



