――やばい!
突然、見知らぬ若い男が襲いかかってきた。
俺はとっさに武器を手に持とうとしたが、魔王のことが心配で急いで外に出てきたため、何も武器は持ってきてはいなかった。魔王も魔力はなく現在弱っている状態だ。絶体絶命のピンチが訪れた。しかも相手はナイフを手にしている。
魔王の盾になろうと、とっさに魔王の前に立つ。どの辺りを攻撃してくるか瞬時に予想する。俺がよければ、ヤツはまっすぐ魔王だけを狙うだろう。そうはさせない。俺が魔王を守る――反撃と今後の子育てのために利き手ではない左を犠牲にする! 左腕を曲げ、前に。両足を前後に開き、ぐっと全身に力を入れた。
ナイフが俺の腕に当たると思った瞬間、男が何かに弾き飛ばされ、数メートルぐらい離れた場所に飛んでいった。尻を地面に打ち、痛かったらしくひとりでもがいている。男は再び立ち上がろうとしたが、近くにある木の上から細い紐のようなものがしゅるしゅると落ちてきて、男はあっという間にぐるぐる巻きにされた。魔王も立ち上がり、俺と魔王は驚きながら身動きとれない男を凝視した。唖然としていると、木から何者かが素早く降りてきた!
「魔王、勇者、大丈夫か?」
助けてくれた者の正体を知り、更に驚く。
「ブラック、何故ここに? この男を弾き飛ばしたのも、ぐるぐる巻きにしたのも、ブラックなのか?」
ブラックは頷いた。
「ブラック、俺たちに詳しく教えてくれ」
「分かった。仲間にこいつを渡してくるから待ってて?」
男を軽々と持ち上げ担ぐと、ブラックはどこかに消えていった。
今ブラックは、仲間に男を渡してくると言った。
仲間とは一体誰なのか。どういうことだ?と思いながら、魔王の顔を見る。目が合うと、魔王は無言で「何も知らない」と言うように、首を横に振った。無言でブラックを待つ。木がザワザワと風に揺れていた。
「そなたに迷惑をかけた。悪かったな」
「迷惑ってどれだよ?」
「我のせいで、そなたが怪我をするところだった」
「ははっ! それが迷惑か! 俺を誰だと思ってる? 俺は――」
世界を救った勇者だぞと言いかけたが、喉の辺りで言葉を止めた。世間では魔王を倒した結果、世界が救われたことになっている。そんな言葉、魔王が聞いたらどうなる? それに、魔王は俺の怪我を心配してくれたが、俺は、魔王に怪我をさせてしまった張本人だ。あの時、流れで魔王を斬ることになったとはいえ、今ではものすごく後悔している。
「いや、迷惑のうちに入らない。むしろ魔王には、もっと周りに迷惑をかけてほしい。一人で頑張りすぎなんだよ! 魔王、これからは沢山俺に迷惑をかけろ!」
「……」
眉を寄せ俯く魔王。俺は場の空気に耐えられなくなり、急いで話題を探した。
「そういえば、聞きたいことがある」
「なんだ?」
「魔王は、魔王スゴロクを壁に貼ったのか?」
「いや、我は貼っていない」
「魔王ではなかったか……じゃあ、俺が描いた魔王のコマは誰が拾ったんだ?」
「……それは、我だ。よく見ると個性的であの絵も悪くはない」
勢いよく魔王の顔を見る。
魔王が拾ってくれたのか。
そして、魔王が、褒めてくれた?
魔王に褒められると、力がみなぎるような明るくなれるような。不思議で、何か特別な気持ちになる――。
「あ、ありがとう」
俺がお礼を言ったタイミングでブラックは風のように戻ってきた。
突然、見知らぬ若い男が襲いかかってきた。
俺はとっさに武器を手に持とうとしたが、魔王のことが心配で急いで外に出てきたため、何も武器は持ってきてはいなかった。魔王も魔力はなく現在弱っている状態だ。絶体絶命のピンチが訪れた。しかも相手はナイフを手にしている。
魔王の盾になろうと、とっさに魔王の前に立つ。どの辺りを攻撃してくるか瞬時に予想する。俺がよければ、ヤツはまっすぐ魔王だけを狙うだろう。そうはさせない。俺が魔王を守る――反撃と今後の子育てのために利き手ではない左を犠牲にする! 左腕を曲げ、前に。両足を前後に開き、ぐっと全身に力を入れた。
ナイフが俺の腕に当たると思った瞬間、男が何かに弾き飛ばされ、数メートルぐらい離れた場所に飛んでいった。尻を地面に打ち、痛かったらしくひとりでもがいている。男は再び立ち上がろうとしたが、近くにある木の上から細い紐のようなものがしゅるしゅると落ちてきて、男はあっという間にぐるぐる巻きにされた。魔王も立ち上がり、俺と魔王は驚きながら身動きとれない男を凝視した。唖然としていると、木から何者かが素早く降りてきた!
「魔王、勇者、大丈夫か?」
助けてくれた者の正体を知り、更に驚く。
「ブラック、何故ここに? この男を弾き飛ばしたのも、ぐるぐる巻きにしたのも、ブラックなのか?」
ブラックは頷いた。
「ブラック、俺たちに詳しく教えてくれ」
「分かった。仲間にこいつを渡してくるから待ってて?」
男を軽々と持ち上げ担ぐと、ブラックはどこかに消えていった。
今ブラックは、仲間に男を渡してくると言った。
仲間とは一体誰なのか。どういうことだ?と思いながら、魔王の顔を見る。目が合うと、魔王は無言で「何も知らない」と言うように、首を横に振った。無言でブラックを待つ。木がザワザワと風に揺れていた。
「そなたに迷惑をかけた。悪かったな」
「迷惑ってどれだよ?」
「我のせいで、そなたが怪我をするところだった」
「ははっ! それが迷惑か! 俺を誰だと思ってる? 俺は――」
世界を救った勇者だぞと言いかけたが、喉の辺りで言葉を止めた。世間では魔王を倒した結果、世界が救われたことになっている。そんな言葉、魔王が聞いたらどうなる? それに、魔王は俺の怪我を心配してくれたが、俺は、魔王に怪我をさせてしまった張本人だ。あの時、流れで魔王を斬ることになったとはいえ、今ではものすごく後悔している。
「いや、迷惑のうちに入らない。むしろ魔王には、もっと周りに迷惑をかけてほしい。一人で頑張りすぎなんだよ! 魔王、これからは沢山俺に迷惑をかけろ!」
「……」
眉を寄せ俯く魔王。俺は場の空気に耐えられなくなり、急いで話題を探した。
「そういえば、聞きたいことがある」
「なんだ?」
「魔王は、魔王スゴロクを壁に貼ったのか?」
「いや、我は貼っていない」
「魔王ではなかったか……じゃあ、俺が描いた魔王のコマは誰が拾ったんだ?」
「……それは、我だ。よく見ると個性的であの絵も悪くはない」
勢いよく魔王の顔を見る。
魔王が拾ってくれたのか。
そして、魔王が、褒めてくれた?
魔王に褒められると、力がみなぎるような明るくなれるような。不思議で、何か特別な気持ちになる――。
「あ、ありがとう」
俺がお礼を言ったタイミングでブラックは風のように戻ってきた。



