宿から出て、大きな荷物を背にギルドの建物をとぼとぼと歩いていく。一人分の宿泊代を払ってしまったので、手持ちのお金はたった金貨二枚。

「……すみません。クリスタル・フォスター・アーチャーです。パーティから抜けることになりました」

 ギルドの中心にあるカウンターで、私は顔を上げずに伝えた。

「ディエゴさんのところだよね?」

 後ろの棚から台帳のようなものを取り出し、受付の人はパラパラと紙をめくる。

「あー、上級冒険者。……うん」

 ついにその人の顔を見てみた。ほぼ表情がなかった。胸の奥で何かが沈んでしまったような感覚を持つ。
 ダンジョンから帰ってくるたびに、ここで毎日私の悪口を言ってたんだから当たり前の反応か。

「それじゃあ、他のパーティに入るの? それともソロ?」
「もう冒険者やめます」
「やめちゃうの? お父様には何て言うの?」

 あ……引き止めてくれないんだ。
 冒険者ではないこの人でさえ、私が冒険者に向いてないこと分かってるんだ。

「何て言うのか……本当のことを言うしかないですよ」
「分かった。冒険者台帳から削除しておくね」

 私でも驚いている。冒険者をやめるのってこんなに簡単なの。

「はい、お世話になりました」

 私はそれだけ言ったあと、(きびす)を返してギルドの出口へ歩いていく。
 今日の討伐に向けて、こんな朝早くから『慣らし』をしに行く人が何人か目についた。視線を感じる。討伐に行くには多すぎる荷物を持って、外に出ようとしているのだ。それはそれは目立つだろう。

 私の表情とこの荷物の量で、私が今どんな状況なのか、気づかれちゃってるよね。あの下手くそ、ようやくやめる気になったんだって思われてるよね。

 考えれば考えるほど、心が(むしば)まれていく。赤く充血した目を見られないようにしながら、ギルドの建物から姿を消した。