4話

 天才は孤独だ。
 凡人からは共感されず、秀才からは妬まれる。なんなら学生の頃は社会の輪から協調という二文字で排他される始末だ。
 そのため強制的に天才は消えていく。天才の中でもさらなる天才だけがこの世に残れる。

 西園寺さんとの会話を終えた後、俺は郁人たちに連絡を入れてからそのまま帰路に就いた。
 あの後から部活をするほどの余裕はなかったためだ。

「演奏会か……」

 帰り道、俺は彼女に言われたことを思い返す。
 俺が軽音部として演奏会に出る予定だったことは西園寺さんは知っているのだろうか。
 どちらにしても俺は選ばなければならない。
 郁人たちのバンドを取るのか。西園寺さんを取るのか。
 正確にはこう言うべきだろうか。

 凡人であり続けるのか、天才としての道を進むのか。

 両方に参加するという選択肢は俺にはなかった。
 今までの俺なら間違いなく郁人たちを選んでいた。初対面の西園寺さんの手を取る理由がない。
 けれど今の俺は間違いなく揺らいでいた。目の前で天才を実際に見てしまったから。

「俺の曲があれば……」

 先ほどから考えないようにしようとしても妄想が止まらない。
 俺の作った曲を歌う西園寺さんの姿が目に浮かぶ。俺の演奏でどうやって盛り上げようか何パターンも思いついてしまう。
 俺の才能と彼女の才能による化学反応をどうしても見てみたかった。
 おそらくそれは西園寺さんも同じだろう。だからわざわざ俺を探してまで誘ったのだ。
 
「でもそれじゃ裏切ることになる」

 もし西園寺さんの手を取ればそれは郁人たちのバンドを抜けることを指す。
 中途半端にどちら友の手を取るなんて甘い考えは通用しない。
 そして彼女の手を取った場合、今まで俺が偽りの実力を見せてきたこともバレるだろう。彼らからすれば裏切られたと感じてもおかしくはない。
 最悪の場合、交友関係さえも悪化しかねる。それが天才の道を進むということなのだ。
 その道を進むためなら他の何もかもを排他する。覚悟というより執念に近いかもしれない。

「…………」

 ここで大人しく郁人たちの手を取ればこのまま平和な生活が続く。
 凡人として平凡な人生で平凡な生活を送ることが出来るのだ。
 俺はそのためにわざわざ誰も知り合いのいない高校にまで来た。今更何を迷うことがあるのだろうか。

「でもこのチャンスを逃したくはない」

 西園寺さんの運命の分岐点でもあるように、ここは俺の運命の分岐点でもある人生のターニングポイント。

 西園寺さんはこれからDivaとして一人でも勝手に有名になっていくだろう。
 それこそ俺などでは二度と手の届かないような場所まで羽ばたくはずだ。
 もし俺が彼女の活動に携われることがあるとすればこれが最後の機会となる。

 高校からなったように平凡にならいつでもなれるのではないか、そう思うかもしれない。
 けれど今回彼女の手を取ればそれは叶わなくなる。
 天才にかかわるということはすなわち天才の領域に踏み込むということ。
 一度領域に踏み入れてしまえばよっぽどのことがない限り逃げることは出来なくなる。

「俺は…………」