「ほら、お待ちかねのマドレーヌとパウンドケーキよ!」
「キャー、有紗! 愛してる!」
「現金な」
笑い合いながらお菓子を渡すと、日菜子はとっても喜んでその場でマドレーヌを口へと運ぶと幸せそうな顔をした。
「あー。幸せ! 美味しい!」
「それにしても、その髪型とメイクの犯人は、茜ちゃんね?」
日菜子と茜も面識がある。
私達は去年同じクラスだったのだ。
今年、茜だけ別クラスになってしまったのが残念だ。
「うん、要くんと蒼くんにも同じの持ていったのだけど。そこに行くって言ったら、いじり出しちゃって……」
苦笑いして返すと、日菜子はニコッと笑いながら言った。
「ま、茜ちゃんは人にヘアメイクするのが大好きだから仕方ないね。しかし、その可愛さは要にはかなりキタだろうよ」
なにか分かりにくいことを言った日菜子だが、説明する気は無いみたいだ。
「もう帰るの?」
「うん。日菜子、練習頑張ってね!」
「ありがとう! 有紗、気を付けて帰るんだよ!」
無事に今日のお菓子を渡して、私は帰るべく駅へと向かってのんびりと歩き出した。
駅から電車に乗って、電車を降りればバスに乗り換え家へと向かう。
出たり入ったりで暑さと快適さを交互に味わう。
今年の夏はなにをしよう。
花火を見に行きたいし、海かプールも良いな。
テーマパークも行ってみたいし。
なにかしら、したいな。
日菜子や松島くん達の引退試合も応援に行こうか。
そんなことを考えて、自然と緩んだ顔になりつつ私は帰宅したのだった。
テスト期間明け。
週明けから続々と返却されてくるテスト。
三人は今回も赤点を免れて、引退試合に向けてしっかりと部活に励む日々を送っていた。
私も無事に終えて一安心。
たまに部活で作ったお菓子を三人に差し入れたり、家で作ったのを持ってきて差し入れたりしていた。
来週から夏休みという所で、恒例行事の球技大会が始まった。
競技は、バレー、バスケ、野球にサッカー。
自分の所属の部活の競技には出られないと言うルールで、蒼くんと要くんはバスケに、日菜子はバレーに出る。
私は見学だ。
物との距離感が取りづらくなった去年の秋から、私は病院の診断書を提出し体育は見学で免除されている。
球技大会も、端っこでスコア付けのお手伝いである。
お陰で、見渡しがいのある場所でバレーもバスケも見られるといった感じ。
「日菜子も、要くんも蒼くんもやる気いっぱいだったから試合見るの楽しみだな」
呟きつつ、一年対二年の試合のスコアをつけていく。
そこに、まだ自身の試合は無い三人が見に来る。
「思うんだけどさ、有紗のスコアの付け方は凄い……」
日菜子の言葉に、要くんも蒼くんも頷いで同意している。
「この位置から、バスケとバレー両方見て得点付けるとか。有紗ちゃんはどうなっているの?!」
「有紗は、たまに凄いことを平気な顔してするよな……」
等と言われるので、私も三人に言葉を返す。
「別にファールを取る審判をするわけじゃなくて、どっちが点を入れたかを見てればいいんだもの。難しい事じゃないと思う」
それには、こっちに来た茜が突っ込む。
「それが、早々できる人が少ないから三人が驚いているんだよ。有紗は、自分がかなり要領良く優秀だっていう自覚が無いよね」
ため息混じりの茜の突っ込みに、私以外は同意している。
「別に優秀だからとかじゃなくて、ただスポーツ見るのが好きなだけ」
そんな私に、四人は言った。
「うん、それはわかるけど。好きで片付けるレベルじゃないから凄いって自覚してね?」
「わ、わかった……」
四対一では勝てないので折れました……。
でも、そんなに特別じゃないと思うんだけどな。
そんなこんなで、球技大会中も私たちは和気あいあいとしつつ、試合はとっても白熱していて見ごたえ抜群だった。
蒼くんと要くんはボールがバスケになっても背の高さと運動神経の良さを発揮してバンバン得点していく。
スピード感もあって、とっても見ていて楽しい。
なにより、二人が楽しんでいるのがよく分かる。
目線だけで合図を出し合い、パスを回してゴールを決めていく。
普段からサッカーで鍛えられているからか、二人の息はピッタリなのだ。
こんなに上手く出来たら、バスケするの気分良さそう。
「確かに、要と蒼くんくらいの連携とれたら怖いもの無しな感じね」
「あれ? 茜、私声に出していた?」
「いや、顔に羨ましそうなのが出ていた。有紗、バスケ好きだもんね」
そう言われる。
まだ、病気が酷くなかった頃。
小学生時代私はミニバスをやっていた。
体を動かすのも、運動するのも好きだった。
しかし、次第に症状は出始めて。
先々のことを考えて、手芸などのインドアな趣味にシフトチェンジした形だ。
手先を動かすのも楽しいので、別に不満はない。
「ふふ、そうね。今も観戦するのは好きよ。男子はやっぱりスピード感があって見応えがあるわ」
私の返しに、茜も言う。
「そうね、女子のバレーがゆっくりに見えちゃうくらいにはスピード感に差があるわね」
女子のバレーも決してゆっくりしている訳では無いのだが、こういう所に男女の差があるのか。
スピード感は男子の方が上だ。
展開の速さとして見ているのは、男子の試合の方が面白かったりする。
「あ、松島くん3Pシュート。サッカー部のはずなのに上手いし安定感あるなぁ」
茜も感心して見ている。
なんとなく、要くんはバスケ経験者な気がしている。
要くんたちの試合の結果は38対19で要くん達の勝ち。
順調に次のコマに進んでいる。
試合の終わった要くんと蒼くんが歩いてくる。
「お疲れ様。次は二年生とだよ」
伝えると、二人はまだまだ余裕そうな顔をして言った。
「二年か、油断大敵だな」
「要がいればこっちは余裕だろ?」
その会話に、私の考えは正解だったと気付く。
「要くん、バスケ経験あるでしょ?」
ニコッと聞けば、要くんは驚きつつ頷いて答える。
「うん、小学生時代はミニバスやっていたから」
やっぱり、当たりだ。
考えが当たって嬉しくて、ついニコニコしていると蒼くんが質問してきた。
「なんでそう思ったの?」
「試合見ていたら動きが良かったし、身のかわし方、動き方は慣れた人のものだったから」
私は素直に見たまま、感じたことを答えた。
「本当に有紗ちゃんは、よく見ているよね」
そして、私達は会話しつつ視線の先では現在日菜子がバレーで奮闘中。
「いくよー!」
バーン!
「日菜子、サーブが鋭くて強い……。あれ現役部員でも手こずりそうよ?」
日菜子のサーブが強すぎて、サーブだけで得点が積まれていく……。
「あぁ、日菜子は馬鹿力だからな……」
「日菜っちはテニスのサーブも凄いからね」
遠い目の要くんとニコニコ顔の蒼くん。
対比はすごいけど、言っていることは同じ。
「日菜子自身は水を得た魚ね。楽しくて仕方ないみたい」
とっても楽しそうにサーブを決めてく日菜子。
「私、このまま日菜子が勝つと次で当たるのよね……」
ちょっと嫌そうな茜。
「でも、あのサーブなんとか出来るのは茜くらいじゃないかな?」
私が言うと、要くんと蒼くんが驚いて茜を見る。
「え? 茜ちゃん経験者?」
「あの力技サーブなんとか出来るのか?」
二人は驚いている。
知らなきゃ分からないわよね。
「あ、茜は中学時代がバレー部でね。関東ベスト4入りしていた時のキャプテンでアタッカーだよ? 高校では辞めちゃったけど、私立高校からスカウト来ていたくらい上手なの」
ニコニコと伝えれば、二人は納得して頷くと言った。
「あれとの対決楽しみにしている」
「日菜っち悔しがりそうだね」
二人はそれぞれ言うと、試合に向き直る。
いい音は続き、日菜子のチームはしっかりと勝利をもぎ取ってきた。
「有紗! 勝ったよー!」
ぴょんぴょん元気よく戻ってきた日菜子を撫でつつ、言った。
「次の試合は茜とだよ?」
「えぇ!! チーム競技とはいえ、あの茜ちゃんと? 茜ちゃん調子は?」
それにピースで返事する茜は既にやる気だ。
「お手柔らかに、お願いします」
あの日菜子の態度に男子二人が驚いているが、それをものともせず返すのが茜だ。
「私が勝負事で手加減すると? しかもバレーで」
がっくり項垂れた日菜子は言った。
「せめて、せめて決勝で当たりたかった……」
「チーム対戦表の運が悪かったわね」
私はそう返したのだった。
「負けないからね」
実に楽しそうに茜は返すので、男子はやり取りを見るばかり。