「っって、大丈夫か! どっか打ってないか?!」
私がぶつかった先、それは要くんだった。
なんでここに居るの? そう思いつつも、ビックリして固まってしまう。
「有紗! 有紗! どっか痛いのか?! 保健室か!」
そう言うなり今度は抱きかかえられそうになり、慌てて声を出した。
「ごめん、大丈夫! ビックリしすぎていただけで、痛い所はないよ。それより、私がぶつかっちゃった要くんは大丈夫?」
勢い込んで聞いてきた私に、大きく息を吐いて要くんがギューって抱きしめてくる。
「もうすぐ喫茶店の方の当番だから、迎えに行こうと向かっていたら階段から有紗が落ちてくるところで。本当にびっくりした……」
私を抱きしめるその手は、微かに震えていた。
「間に合ってよかった。有紗、今日これからは一緒に行動するから!」
その言葉には強い意志と力があって、私はうなずいて答えるしかなかった。
クラスに着くと、休憩に入る子達と店番を交代する。
着替えるのも面倒で今日は既に浴衣を着ていて、その姿で家庭科部の店番もしていた。
なので、ここに来て身につけるのは自分で作ったカフェエプロンだけ。
それを身につけると、私は控えのスペースから店のスペースへと移動して接客を始めた。
「いらっしゃいませ。和風喫茶へようこそ。お客様は二名様でよろしいですか?」
「はい、ふたりです」
「ただいまご案内します」
空いている席へと案内して、メニューを置いてご案内。
「こちらが当店のメニューになります。お好きなお菓子と飲み物をお選びください。決まりましたらお声をかけてくだい」
席を離れて、オーダーの準備スペースへ。
仕入れた和菓子と飲み物をカップに入れて、準備ができると和柄のマットと共に持っていきそのマットの上に注文の品を乗せて提供する。
そのマットも和柄の布を四角に縫うだけなので、エプロンの後に私が縫った。
飾りとしてあると、やっぱり雰囲気が良いので作って良かったと提供の様子を見つつニコニコしていた。
そんな私に日菜子が近づいてきて、聞いてくる。
「有紗! 階段から落ちたって聞いたけど大丈夫なの?! 店番なんかなんとでもなるから無理せず休みなさいよ!」
強めの剣幕に一歩後ろに下がりつつ、日菜子に返事をする。
「要くんが迎えに来てくれていたところで、運良く受け止めてもらったから怪我もないし大丈夫なの。そんな心配しなくて平気だよ」
私がしっかりと受け答えするから、心配そうな顔は変わらないけれど仕方なさそうに一息つくと、日菜子は言った。
「大丈夫なのね? でも無理しないでダメだったら保健室に行くのよ!」
「うん、無理はしないから。大丈夫だからとりあえずこの、オーダーの品届けてくるね」
当番の時間は二時間。
大盛況で常に席が埋まる人気ぶりに驚きつつ、店番をこなした。
そうして、店番の交代の時間になりエプロンを外すと同じくエプロンを外した日菜子と蒼くん、要くんが声を掛けてきた。
「有紗! もう家庭科部の店番も無いんでしょう? 一緒に校内回ろう!」
明るく元気いっぱいな日菜子に笑いながら返事を返す。
「うん、一緒に回ろう! まずどこ行くの?」
聞いてみれば、日菜子はニヤっと笑って言った。
「もちろん、茜のクラスのお化け屋敷でしょ!」
そんな訳で、私達はまず隣のクラスの茜が居るお化け屋敷へと行くことにした。
たまに悲鳴が聞こえてきていて、どうなっているのか気にはなっていたんだよね。
怖いもの見たさ的な?
すれ違うお化け屋敷から出てきた下級生たちの声が聞こえてくる。
「ヤバイ、なんなの。なんでこんなに怖いの!」
と言い合っていて、私達は顔を見合わせつつお化け屋敷に辿り着いて中に入ったのだった。
茜のクラスのお化け屋敷……。
誰だ、高校の文化祭にあんな高クオリティにしちゃった輩は!!
とだけ言っておこう……。
終始私は要くんの腕にしがみつき、キャーどころかギャーギャー言って叫び続けた。
ホラーが苦手な人が入っちゃダメなやつだった……。
高校生の文化祭のお化け屋敷でしょ? なんて思っていたのは間違っていた。
出てきた時には私も日菜子も叫び疲れていた。
それをなんと出口で待ち構えていた茜に再び叫ばされた。
「わー! ちょっとビックリさせないで!!」
そんなビクビクの私を見て茜はクスクス笑っている。
この友人は楽しいことに目がないのだ。
「あー、かー、ねー!!」
「ふふふ、よくホラー嫌いな有紗が入ったね! はい、これ割引券! 美味しかったから食べに行っておいで」
茜がくれたのは二年生がやっているクレープ屋さんの割引券。
「いいの?」
「私もう終わりまで当番で抜けられないからね! 行ってきなよ」
怖い思いをしたけれど、いい事もあるものだ。
「わ! クレープ屋さんのとこか! このあと行こうと思っていたからラッキー」
私の手元を見て日菜子も喜ぶ声を上げる。
「じゃあ、クレープ屋さんに行きますか!」
お化け屋敷を無事切り抜けた私達は、次は食事系の出し物が並ぶ中庭を目指して校舎を出るべく一階へと移動して行った。
もちろん、落ちた前科のある私はしっかり要くんと手を繋いでいた。
今回は手を引かれて無事に階段を降りた。
歩いている間、いろんな人に見られたけれど。
今日は馬の被り物とか、着ぐるみとか演劇をするクラスもあるから普段と違って様々な服装で入り乱れているので浴衣が目立つわけでは無い。
つまり、この手を繋いで歩いている相手が目立つわけだ。
要くんは、引退したけれどサッカー部のエースストライカー。
しかも、見た目も涼やかなタイプのイケメン。
そんな彼が浴衣で女子と手を繋いで歩けば……。
それは目立つよね! 注目浴びるよね!
なんでこんな簡単なことに気づけなかったの私!!
無事に階段も降りたので私は手を抜こうと動かそうとしたら、要くんが私を見つめて聞いてきた。
「どうした? 手を繋ぐのは嫌?」
その視線は、真っ直ぐでなにかあるわけではなさそうだけれど……。
色々言われている私は、最近なにかあるとすぐにドキドキしちゃうし、それが顔に出やしないかとヒヤヒヤもする。
「なんか、手を繋いでいると周りの視線が……」
徐々に小さくなる声、それでも要くんはしっかり聞いてくれたみたいで返事がくる。
「目立つ訳でもないだろ? 俺たちの前のリア充ふたりの方が目立っているからな」
その言葉に顔を上げて前を見れば、日菜子と蒼くんがいつも通り仲良くしている。
その二人を見て、周りの声を聞いてみる。
「水木先輩と瀬名先輩は相変わらず仲良しで羨ましいね!」
そんな声だ。
その声にホッと一息つくと、そんな私を見て要くんが柔らかく笑う。
「そんなに周りを気にするなよ。俺たちも多少は言われるだろうけど。有紗にとっては、逆に他の男に寄られなくなるからいいんじゃないか?」
そんな言葉を聞いて、確かにと思う。
毎年この時期は手紙やら呼び出しやらでそんな告白を受けたりしていて。
毎回断るのが大変だった。
気持ちはありがたいけれど、私は恋をしたくなかった。
だって、私には無理だもの……。
気持ちが少し沈んだのを見てとったのか、要くんが繋いでいた手を優しく引く。
「これだけ仲良くしていたら、今年は大丈夫だろ。ほら、クレープ食べるんだろ?」
会話していた私達は足を止めていたので、先にクレープ屋に着いていた日菜子と蒼くんにも呼ばれてしまった。
「有紗! 要! 早く、頼んで食べよう!!」
「はーい、今行く!」
そうして、私達はクレープ屋さんで、チョコバナナ生クリームとカスタードイチゴ生クリームを頼んだ。
「すごく甘い!」
日菜子のチョコバナナ生クリームを食べた蒼くんは、そんな感想を言う。
私もカスタードイチゴ生クリームというのを要くんに一口あげる。
「甘いな」
どうやら男子ふたりには甘過ぎたらしい。
美味しいけどな。
「蒼、フランクと焼きそば食べないか?」
「いいね! 俺もそれ食べたい」
そんな会話をしてふたりは食べ物系の出店へと買いに行った。
ふたりが買いに行っている間、私と日菜子は中庭の片隅に移動して買ったクレープを食べながら待っていたら、下級生の集団に声をかけられた。
「瀬名先輩、汐月先輩! おふたり良かったら俺らと回りませんか?」
そんな誘いを掛けてくる、下級生たちはなんだか軽そうな感じの子達。
私と日菜子は目を合わせてうなずくと、日菜子が口を開いた。
私がぶつかった先、それは要くんだった。
なんでここに居るの? そう思いつつも、ビックリして固まってしまう。
「有紗! 有紗! どっか痛いのか?! 保健室か!」
そう言うなり今度は抱きかかえられそうになり、慌てて声を出した。
「ごめん、大丈夫! ビックリしすぎていただけで、痛い所はないよ。それより、私がぶつかっちゃった要くんは大丈夫?」
勢い込んで聞いてきた私に、大きく息を吐いて要くんがギューって抱きしめてくる。
「もうすぐ喫茶店の方の当番だから、迎えに行こうと向かっていたら階段から有紗が落ちてくるところで。本当にびっくりした……」
私を抱きしめるその手は、微かに震えていた。
「間に合ってよかった。有紗、今日これからは一緒に行動するから!」
その言葉には強い意志と力があって、私はうなずいて答えるしかなかった。
クラスに着くと、休憩に入る子達と店番を交代する。
着替えるのも面倒で今日は既に浴衣を着ていて、その姿で家庭科部の店番もしていた。
なので、ここに来て身につけるのは自分で作ったカフェエプロンだけ。
それを身につけると、私は控えのスペースから店のスペースへと移動して接客を始めた。
「いらっしゃいませ。和風喫茶へようこそ。お客様は二名様でよろしいですか?」
「はい、ふたりです」
「ただいまご案内します」
空いている席へと案内して、メニューを置いてご案内。
「こちらが当店のメニューになります。お好きなお菓子と飲み物をお選びください。決まりましたらお声をかけてくだい」
席を離れて、オーダーの準備スペースへ。
仕入れた和菓子と飲み物をカップに入れて、準備ができると和柄のマットと共に持っていきそのマットの上に注文の品を乗せて提供する。
そのマットも和柄の布を四角に縫うだけなので、エプロンの後に私が縫った。
飾りとしてあると、やっぱり雰囲気が良いので作って良かったと提供の様子を見つつニコニコしていた。
そんな私に日菜子が近づいてきて、聞いてくる。
「有紗! 階段から落ちたって聞いたけど大丈夫なの?! 店番なんかなんとでもなるから無理せず休みなさいよ!」
強めの剣幕に一歩後ろに下がりつつ、日菜子に返事をする。
「要くんが迎えに来てくれていたところで、運良く受け止めてもらったから怪我もないし大丈夫なの。そんな心配しなくて平気だよ」
私がしっかりと受け答えするから、心配そうな顔は変わらないけれど仕方なさそうに一息つくと、日菜子は言った。
「大丈夫なのね? でも無理しないでダメだったら保健室に行くのよ!」
「うん、無理はしないから。大丈夫だからとりあえずこの、オーダーの品届けてくるね」
当番の時間は二時間。
大盛況で常に席が埋まる人気ぶりに驚きつつ、店番をこなした。
そうして、店番の交代の時間になりエプロンを外すと同じくエプロンを外した日菜子と蒼くん、要くんが声を掛けてきた。
「有紗! もう家庭科部の店番も無いんでしょう? 一緒に校内回ろう!」
明るく元気いっぱいな日菜子に笑いながら返事を返す。
「うん、一緒に回ろう! まずどこ行くの?」
聞いてみれば、日菜子はニヤっと笑って言った。
「もちろん、茜のクラスのお化け屋敷でしょ!」
そんな訳で、私達はまず隣のクラスの茜が居るお化け屋敷へと行くことにした。
たまに悲鳴が聞こえてきていて、どうなっているのか気にはなっていたんだよね。
怖いもの見たさ的な?
すれ違うお化け屋敷から出てきた下級生たちの声が聞こえてくる。
「ヤバイ、なんなの。なんでこんなに怖いの!」
と言い合っていて、私達は顔を見合わせつつお化け屋敷に辿り着いて中に入ったのだった。
茜のクラスのお化け屋敷……。
誰だ、高校の文化祭にあんな高クオリティにしちゃった輩は!!
とだけ言っておこう……。
終始私は要くんの腕にしがみつき、キャーどころかギャーギャー言って叫び続けた。
ホラーが苦手な人が入っちゃダメなやつだった……。
高校生の文化祭のお化け屋敷でしょ? なんて思っていたのは間違っていた。
出てきた時には私も日菜子も叫び疲れていた。
それをなんと出口で待ち構えていた茜に再び叫ばされた。
「わー! ちょっとビックリさせないで!!」
そんなビクビクの私を見て茜はクスクス笑っている。
この友人は楽しいことに目がないのだ。
「あー、かー、ねー!!」
「ふふふ、よくホラー嫌いな有紗が入ったね! はい、これ割引券! 美味しかったから食べに行っておいで」
茜がくれたのは二年生がやっているクレープ屋さんの割引券。
「いいの?」
「私もう終わりまで当番で抜けられないからね! 行ってきなよ」
怖い思いをしたけれど、いい事もあるものだ。
「わ! クレープ屋さんのとこか! このあと行こうと思っていたからラッキー」
私の手元を見て日菜子も喜ぶ声を上げる。
「じゃあ、クレープ屋さんに行きますか!」
お化け屋敷を無事切り抜けた私達は、次は食事系の出し物が並ぶ中庭を目指して校舎を出るべく一階へと移動して行った。
もちろん、落ちた前科のある私はしっかり要くんと手を繋いでいた。
今回は手を引かれて無事に階段を降りた。
歩いている間、いろんな人に見られたけれど。
今日は馬の被り物とか、着ぐるみとか演劇をするクラスもあるから普段と違って様々な服装で入り乱れているので浴衣が目立つわけでは無い。
つまり、この手を繋いで歩いている相手が目立つわけだ。
要くんは、引退したけれどサッカー部のエースストライカー。
しかも、見た目も涼やかなタイプのイケメン。
そんな彼が浴衣で女子と手を繋いで歩けば……。
それは目立つよね! 注目浴びるよね!
なんでこんな簡単なことに気づけなかったの私!!
無事に階段も降りたので私は手を抜こうと動かそうとしたら、要くんが私を見つめて聞いてきた。
「どうした? 手を繋ぐのは嫌?」
その視線は、真っ直ぐでなにかあるわけではなさそうだけれど……。
色々言われている私は、最近なにかあるとすぐにドキドキしちゃうし、それが顔に出やしないかとヒヤヒヤもする。
「なんか、手を繋いでいると周りの視線が……」
徐々に小さくなる声、それでも要くんはしっかり聞いてくれたみたいで返事がくる。
「目立つ訳でもないだろ? 俺たちの前のリア充ふたりの方が目立っているからな」
その言葉に顔を上げて前を見れば、日菜子と蒼くんがいつも通り仲良くしている。
その二人を見て、周りの声を聞いてみる。
「水木先輩と瀬名先輩は相変わらず仲良しで羨ましいね!」
そんな声だ。
その声にホッと一息つくと、そんな私を見て要くんが柔らかく笑う。
「そんなに周りを気にするなよ。俺たちも多少は言われるだろうけど。有紗にとっては、逆に他の男に寄られなくなるからいいんじゃないか?」
そんな言葉を聞いて、確かにと思う。
毎年この時期は手紙やら呼び出しやらでそんな告白を受けたりしていて。
毎回断るのが大変だった。
気持ちはありがたいけれど、私は恋をしたくなかった。
だって、私には無理だもの……。
気持ちが少し沈んだのを見てとったのか、要くんが繋いでいた手を優しく引く。
「これだけ仲良くしていたら、今年は大丈夫だろ。ほら、クレープ食べるんだろ?」
会話していた私達は足を止めていたので、先にクレープ屋に着いていた日菜子と蒼くんにも呼ばれてしまった。
「有紗! 要! 早く、頼んで食べよう!!」
「はーい、今行く!」
そうして、私達はクレープ屋さんで、チョコバナナ生クリームとカスタードイチゴ生クリームを頼んだ。
「すごく甘い!」
日菜子のチョコバナナ生クリームを食べた蒼くんは、そんな感想を言う。
私もカスタードイチゴ生クリームというのを要くんに一口あげる。
「甘いな」
どうやら男子ふたりには甘過ぎたらしい。
美味しいけどな。
「蒼、フランクと焼きそば食べないか?」
「いいね! 俺もそれ食べたい」
そんな会話をしてふたりは食べ物系の出店へと買いに行った。
ふたりが買いに行っている間、私と日菜子は中庭の片隅に移動して買ったクレープを食べながら待っていたら、下級生の集団に声をかけられた。
「瀬名先輩、汐月先輩! おふたり良かったら俺らと回りませんか?」
そんな誘いを掛けてくる、下級生たちはなんだか軽そうな感じの子達。
私と日菜子は目を合わせてうなずくと、日菜子が口を開いた。