「柄が大人すぎたかな? これ本当はお姉ちゃんのなの。今回は日菜子も着ることになってこっちを借りて着たんだけれど……」
なんだか照れくさくて、ちょっと顔を逸らしつつ聞いた私に要くんは答えてくれる。
「似合っているよ、すごく。大人っぽくて綺麗で困るくらい……。もしかして、今日は化粧もしている?」
要くん、よく見ている……。
「うん、お姉ちゃんが珍しくお休みで家に居たからメイクしてもらったの。お姉ちゃん美容部員でメイクに関してはプロだから……」
メイク似合ってなかった?
そんなに派手にはしてないはずだけど……。
不安が顔に出ていたのか、要くんが慌てつつも返事をくれる。
「浴衣とメイクで一気に大人の綺麗な感じになったからちょっと焦っただけ。有紗は元から綺麗で可愛いよ」
要くんのストレートな賛辞に、私の顔は真っ赤になる。
そんな私達を蒼くんと日菜子は微笑ましげに見守ってくれていた。
「よし、それじゃあまずは花火まで出店を楽しんじゃおう!」
蒼くんと日菜子カップルを先頭に、私達はお祭り会場に向けて歩き出した。
この間の水族館デートの時のように、今日もしっかりと要くんと手を繋いで……。
辿り着いた出店の辺りは、両端にたくさんの出店が並びカラフルなテントと美味しそうな匂いと、賑やかな音に溢れていた。
「まず、なに食べる?」
「とりあえず、かき氷!」
「いや、俺は肉食べたい!」
「私も、かき氷かな?」
ここで男女の意見が割れる、ありがちなパターン。
「かき氷食べながら歩きつつ、美味しそうな肉の出店を探す! どうよ?!」
日菜子、かき氷はゆずれないのね。
「うーん。男子は肉を求めていて、女子はかき氷なんだね……。お互い近い店に並ぼうか? はぐれないように」
その蒼くんの提案は彼も肉が食べたい証拠だった。
聞き役だったけど、やっぱり食べたかったんだね。
そうして互いに焼鳥屋とかき氷屋が隣のところに並んで順番を待つ。
最近のかき氷屋さんはシロップかけ放題なのが嬉しい。
たっぷり掛けて食べるかき氷は甘くて美味しい。
順番が来て、お金を払いかき氷を受け取ると、前面に並んだシロップの中から選んでガッツリかけた。
私が選んだのはイチゴ。昔からかき氷はイチゴだ。
日菜子が選んだのはここ近年見かけるようになったぶどう味。
ちょっと気になったので互いのを一口ずつ食べる。
こういう気兼ねないシェアもお祭りならでは。
「んー! 冷たくて美味しい!」
「ぶどう味。初めてだけど、まぁまぁ美味しい!」
そんな感じで二人食べている所に焼鳥屋さんで思った以上の焼き鳥を買ってきた二人が戻ってきた。
その手の袋はパツパツに膨らんでいる。
「ねぇ、いったい何本買ったの?」
聞いている日菜子は呆れ顔だ。
私は驚いた顔しか出来てないと思う。
「ん? 20本ずつ、いろんな種類買ってきたよ!モモにネギマにつくねにぼんぢり、軟骨もあってね! 塩とタレに分けてきたよ!」
それは得意そうに返事をした蒼くん。
隣の要くんも、心なしかウキウキした空気を出している。
「他にも屋台の食べ物はいっぱいあるのにそんなに食べるの?!」
日菜子のツッコミはごもっとも。
私もびっくりしていたくらいの量だから。
「ん? みんなで食べればすぐ無くなるよ! 俺と要だけでコレ三分の二は食べるし」
そんな自信たっぷりの返事に、私と日菜子は、顔を合わせて笑いだしてしまった。
「え? なんかおかしいの?」
蒼くんは、訳が分からずキョトンとしている。
「それじゃあ、少しどこかに落ち着いて食べよう」
少し行った先の駐車場のタイヤ止めに座りつつ、みんなでワイワイと焼き鳥とかき氷を食べる。
宣言した通り。
私は各種を1本ずつ、日菜子はモモとぼんぢりは2本とその他各種は1本ずつ食べて、あとの残りは男子二人の胃袋にすんなり収められてしまった。
運動部の男子高校生の食欲は、やっぱり凄いんだと実感した場面だった。
食べ終われば、再び屋台の方へと繰り出す私達。
男子は射的をしたり、私はキャラクターのベビーカステラを買ったり、みんなで1パックのたこ焼きや広島焼きを食べたりして楽しく遊んで周りが暗くなる頃、花火の打ち上げアナウンスが流れ始めた。
その頃には再び食べ物を買って私達は見やすい公園の一角へ移動していた。
そこでポテトや唐揚げ、チーズ揚げにりんご飴、焼きそば、とうもろこし等をみんなでつまみながら打ち上がる花火を見上げる。
上がる花火はニコちゃんマークの変わった花火から色が変わっていく大玉や、しだれ柳のように降ってくるもの。
次々に打ち上がる花火はどれも綺麗で一瞬で消えてしまう……。
きっと、こんなふうに見られる花火は今年が最後だから……。
私は空から目を離さずに、打ち上がる花火を見つめていた。
「有紗、このチーズ揚げ美味しいから一緒に食べよう?」
声をかけられるまで十分堪能した私は、笑顔で振り返り日菜子や蒼くん、要くんと食べつつ話しつつ、夏の風物詩を満喫した。
きっとこの思い出は、私から消えることは無いだろう……。
今年の夏、私はたくさんの思い出を作るために動くと決めたから。
それに応えてくれる、素敵な友人とお姉ちゃんに宏樹くんがいるから。
まだまだ始まったばかりの夏休みは、きっと充実するだろう……。
花火の打ち上げも終わり、周りも帰路につき始めたので名残惜しい気持ちを抱えつつ、私達も帰る支度を始めた。
ゴミをまとめて、持ちつつ要くんと手を繋いで歩く。
人混みの流れに合わせて、ややゆっくりと進む。
「花火も綺麗だったし、みんなで食べたり騒いだり楽しかったね!」
顔を見ながら言うと、要くんは優しい顔をして返事をくれる。
「あぁ、綺麗だったな。みんなで遊ぶのも楽しかったし、今日一緒に来られて良かったよ」
今回のお祭りは私の地元なので、これから三人は駅へと向かい電車で帰るのだ。
きっと駅はごった返しだろう。
私だけ先にうちに帰れちゃうのが、今回のお祭りに行こう! のお誘いで少し引っかかっていたところだ。
ただ、市内で有名なお祭りなので毎年行っていると3人が言ってくれたので一緒に行きたいと言えたのだった。
ゆっくり歩いても会場から家までは実は徒歩五分。
花火は実は、家から見えたりする……。
でもみんなで過ごしてみたくて、今年はみんなと回ることを提案した。
誘って来てもらって、一緒に過ごせてとっても楽しかったのでお誘いは大成功だったと言えるだろう。
そうして三人で私を家まで送ってくれた。
家から駅までは徒歩でも15分くらい。
充分徒歩圏内である。
「今日は本当にありがとう!とっても楽しかった!次は8月にみんなでキャンプに行こうね!お姉ちゃんと彼氏さんが車出してくれるから」
次の約束を持ち出した私に三人も頷いて答えてくれた。
「もちろん、楽しもうね!」
「本格的なキャンプなんて初めてだから俺もワクワクしているよ!」
「お姉さんと彼氏さんにお世話になるな。よろしく伝えてくれ」
「うん! 伝えとくね!」返事を返して、そうしてうちの前で別れた。
夏休みの予定はまだまだたくさん。
始まったばかりのこの夏を楽しい夏にするために……。
私はまた今日からしっかりキャンプの準備を始めるのだった。
かなり、ウキウキと楽しさを滲ませている私の姿を家族は嬉しそうに見守ってくれていた。
課題や復習をしつつ過ごせば、あっという間に世間はお盆を迎えようとしている。
今年、お姉ちゃんと宏樹くんはこの時期に合わせて休みが取れた。
そんな二人が出かける話をしていた時、私も近くで日菜子達とBBQでもしようと思うとお母さんに話していた。
すると、その側でお姉ちゃんと話していたアウトドア大好きな宏樹くんが言ったのだ。
「それなら、俺と和紗が休みの時にみんなでキャンプに行こう! 楽しいぞ!」
その言葉の響きに私も乗って、日菜子達にも相談すれば各家庭私のお姉ちゃんやその彼氏である大人の付き添いがあるので、お泊まりキャンプへ行くことが許された。
お盆の混雑時期にキャンプ場の予約が取れたのは宏樹くんのおかげ。
宏樹くんは芸能人も通う、雑誌などのメディアで取り上げられる有名な美容院で働いている美容師さん。
いずれ独立するために、今は有名店でひたすら修行しているという。
器用な宏樹くんはたまに家に遊びに来ると練習になるからと、毛先や前髪をカットしてくれる。
ここ数年は茜のお母さんより、私の髪を切る美容師さんは宏樹くんだ。