ニッコリ伝えれば、日菜子も満面の笑みを浮かべて言う。
「それで、その手提げは?」
「もちろん、日菜子の大好きなチョコバナナマフィンだよ! 頑張ってね、応援しているから」
私の言葉にやる気モチベーションが上がった日菜子は、その瞳をキラキラさせて答えた。
「絶対勝つ!!」
そうして試合が始まった頃、要くんと蒼くんもテニスコートにやって来た。
二人は練習着姿なので、どうやら部活中にグラウンドから抜け出して来たみたい。
「二人とも、お疲れ様」
声を掛ければ、二人もニッコリしつつ首にかけたタオルで汗を拭いながら答えてくれる。
「有紗ちゃんも、この暑い中お疲れ様。日菜っちどう?」
蒼くんは試合の始まったコートを見つつ言う。
「まだ、始まったばかり。交流引退試合だからワンセットマッチなんだって。すごく気合い入ったみたい」
言いながら私は手提げを見せて、微笑む。
「有紗の美味しいおやつの差し入れ付きなら、日菜子も俄然やる気出すだろ」
ニヤリと笑った要くんに、蒼くんも頷いて言う。
「有紗ちゃんの手作りお菓子美味しいものね! そりゃ日菜っち、やる気だわ」
会話をしつつも、私たちの視線の先には今日も楽しそうにテニスをしている日菜子の姿がある。
スポーツを楽しむ友達の姿は、キラキラと夏の日差しの中で輝いている。
コールを聞けば日菜子が先にポイントを取った。
しかし、今日の対戦相手は因縁の相手。
そのうち追いつかれ、激戦の末、日菜子は県大会の雪辱を晴らした。
見事勝利を勝ち取って仲間と笑い合っている日菜子。
素敵な試合を見られて、私も自然と笑みが浮かぶのだった。
中一日置いて、次はサッカー部の三年生の引退試合。
こちらも我が校に交流のあるチームを招いて試合をするのだという。
その日はとっても暑かったので、調理室を借りて日菜子にも手伝ってもらって差し入れの準備をした。
この日準備したのはサイダーを使うフルーツポンチだ。
フルーツをカットして、1番大変なのは小玉とはいえスイカをくり抜く作業だった。
これを日菜子と半分に割ったスイカを二人でこれでもかとくり抜き、フルーツもサイダーも冷蔵庫を借りて保管した。
その準備が済む頃には、試合がそろそろ始まるので私と日菜子は大急ぎで試合会場のグラウンドへと向かった。
うちのサッカー部のユニホームは黒に白なのでゼブラな感じだ。
上だけタテ縞で下は黒一色でソックスも黒。
ソックスは折り返し部分に白のライン二本入りの物。
ユニホーム姿は初めて見るけど、結構カッコ良い。
みんなスラッと背が高く、足の長さが際立つ姿をしている。
フェンス越しに眺めている私と日菜子に、キーパー服で暑そうな蒼くんが気付いた。
「日菜っち、有紗ちゃん。今日は見に来てくれてありがとう。俺もバシッとキメるし、要は最高にかっこいいからしっかり見といてやってね」
走り寄って来て、そう声をかけると蒼くんは再びグラウンドの中央付近へと戻って行った。
今回の試合は引退試合とは言え他校との交流戦で、三年生のあとは下級生同士でも一試合やるらしい。
まずは三年生からで、ホイッスルが鳴り響き試合が始まった。
高校生男子のサッカーの試合は迫力があった。
ボール回しも本人達の動きも、テレビで見るプロ選手に引けを取らずとっても早いのだ。
見ていてハラハラしたりドキドキしたり、忙しない動きに見ている方も気持ちが高揚してくる。
そして、相手が攻めてきたボールをしっかり止めるキャプテンの蒼くんはゴールから仲間に声を飛ばしている。
「石津!中に飛ばせ!要もボール貰ったら攻めろ!」
そんな声がけとともに、蒼くんがボールを蹴り飛ばす。
この激からの、みんなの動きはさらにスムーズになり互いに声をかけあいつつ、相手のゴールへと攻めていき前半十分で先に先制ゴールを決めた。
入れたのは要くん。
綺麗に相手選手をドリブルで交わしてパスも回しつつ、最後はかなり強い力でガツンとゴールを決めた。
その姿はとてもカッコよくて、笑顔は弾けるように眩しかった。
その後も気づけば順調に点数を重ね、一時間ちょっとの試合はあっという間に終わる。
うちの高校が完全勝利をおさめて、要くんたちは気持ちよく引退試合を終えた。
三年の試合が終わるとちょうど昼になり、交流校と一緒にお昼休憩を挟んでから下級生の交流戦になるようだ。
それを見越して、私と日菜子は急いで調理室に戻り差し入れのフルーツポンチと取り皿、スプーンを携えてグラウンドへと戻った。
「蒼くん! 差し入れだよ!!」
そんな日菜子の掛け声に、サッカー部の部員がワっと喜びの声が上がる。
私もお皿などを持って、更に大きなタッパー四つにごっそり詰まったフルーツを抱えていると、要くんが走ってきて荷物を持ってくれる。
「調理室からここまで重かっただろ? 言ってくれれば運んだのに……」
少し、眉根を寄せている。
そんな顔もちょっと不満げなのに、かっこいい。
「試合で一時間駆け回ったあとの選手に声掛けられないよ。お疲れ様。初めて見たけどカッコよかった……。もっと早く知って、たくさん見とけば良かったって思ったよ」
微笑んで言えば、要くんは薄らと頬を染めつつ言葉を返してくれた。
「それは、俺も少し残念だけど。有紗とはまだこれから沢山思い出作るし、一緒に過ごすだろ?」
その言葉に私は微かに笑みを浮かべるだけにとどめた。
私は日菜子にも蒼くんにも、要くんにもしっかり話せていないから……。
「この夏、たくさん遊ぼうね!」
私は確かに出来ることにしか、上手く答えられなかった。
差し入れのソーダーのフルーツポンチは大好評で、高校生男子の胃袋にごっそりと持っていかれた。
暑い中の試合だったので、冷たいデザートはとても喜ばれた。
もしかしたら余るかな? なんて予測はかなり大間違いだったようで、あっという間に消えていったのだった。
そして、週末の今日は地元の夏祭り。
花火も上がる大きなお祭りは、花火の上がる三時間前から海岸沿いの道を歩行者天国にして両脇に多くの出店が並ぶ。
地域一のお祭りだ。
そこの近くのスーパーで待ち合わせ。
私と日菜子は私の家で浴衣に着替えた。
たまたま休みで居たお姉ちゃんが私と日菜子に軽くメイクをして、髪までセットしてくれた。
美容部員のお姉ちゃんは手先が器用で、ナチュラルな感じなのに、顔がいつもと違うのだ。
恐るべき、メイクテクニック。
褒めたら、ひと言返ってきた。
「だって、それが私のお仕事よ!」
そんな弾んだテンション高きお姉ちゃんは、お母さんと手分けしつつ、しっかり浴衣まで着せてくれたのだった。
待ち合わせ場所まで歩く中、キラキラとした目で元気に日菜子が言う。
「有紗のお姉ちゃん、凄腕の美容部員っぽいね! 器用だし、優しいし! あんなお姉ちゃん羨ましい!」
「あぁ、確か去年社内の売り上げ上位者研修でヨーロッパ研修に行っていたよ」
お姉ちゃんの仕事を直に見ていないから、なんとも言えないけれど、社交的で物怖じせず気遣いの出来るお姉ちゃんは確かに接客業向きの性格なのだ。
「えぇ!!有紗のお姉ちゃんって、あの大手化粧品メーカーの星花堂だよね?」
「そうそう。苑田百貨店の星花堂の美容部員」
答えると、ビックリしながら日菜子は言った。
「研修行けるほど売り上げを上げているなんて、有紗のお姉ちゃんかなり優秀な美容部員だよ!」
多分、日菜子の言うとおりなのだろう。
お姉ちゃんは昔から器用で気立てが良く、要領もよかった。
きっと、大変なこともいっぱいあるだろうけれど笑顔を絶やさずに仕事も生き生きとこなすお姉ちゃんは、私にとって目標であり尊敬する人でもある。
「うん! 自慢のお姉ちゃんだよ」
そうニッコリ答えた頃、見えてきたスーパーの前には背の高いイケメン二人が並んでいた。
「蒼くん! 要! ほら見なさい、この可愛い有紗を!」
言うなり、私の背中をグイグイ押す日菜子。
押し出された先は要くんの前。
「有紗、今日は綺麗。人に見せたくないな……」
「有紗ちゃん、綺麗だね! 日菜っちも可愛いよ!」
そこから日菜子と蒼くんはすっかり二人の世界だ。
相変わらず二人は仲が良い。
今日の浴衣、日菜子は白地にオレンジや赤の金魚と朝顔の柄の浴衣。
私の浴衣は紺地に牡丹に蝶々の柄の浴衣だ。
この浴衣はお姉ちゃんので、日菜子に着せたのが私のだったりする。
だから柄も色も落ち着いて大人っぽいのだ。