太陽が雲の下に落ちて眠る頃、静かな公園の片隅のブランコで僕たちは話をしていた。
「悠馬はこれからどんな絵を描いていきたいの?」
 月明かりが紗希の瞳に映り込んでいる。
「僕はただ描いていればいいと思っている…でも、いま少し迷っている」
「何を迷ってるの?」
 紗希の言葉がすかさず覆いかぶさる。
「うん…伝えたいことはまだまだあるんだけど、描くことが怖いときもあるんだ」
「それは、悠馬がまだ本当に自分と向き合ってないんだよ。ちゃんと自分の気持ちと向き合ってみて」
 紗希は僕を真っ直ぐに見て言った。
「紗希は向き合ってるの?」
「どうかな。ただ、自分に正直に生きてる。自分に嘘をついて生きたくないの」
 紗希は自分自身に言い聞かせるように、月を見つめながら答えた。
「そうだね。一度きちんと自分と向き合ってみるよ」
 この日はそれ以上、会話も続かなく別れを告げた。
 帰路で紗希の言葉が何度も心に浮かび上がった。紗希は僕以上に僕のことを客観視している。どこか達観した一面も持ち合わせている。まだまだ自分は世界の一部でしかないという気持ちが突然込み上げてきた。僕は何だか気恥ずかしくなり、その日は絵を描かず、早々と眠りについた。