「菜々、私に感謝して欲しいな!」
「?」

 第一セットを落としたにもかかわらず、キャプテン唯一パイセンは悲壮感も無ければ、追い詰められた感じもしない。第2セットを女体付属に取られたら負けが決まるのに余裕すら感じる世間話だ。

「私が平安学園に入ってたら菜々はどうしてた?」
「私は……あのときはもうお姉ちゃんとバレーしたくなかった……から……唯一パイセンが柏手に行ったから、唯一パイセンとならって……」

「あたしはそのおかげで相当苦労したよ、バカなあたしは必死こいて勉強しなくちゃだったし」
「でも~結局~スポーツ推薦だし~すぐ勉強辞めてた~」

「引退してすぐ猛勉強始めて、推薦貰ってすぐやめた」
「ハチは~バカのまま~」
「ハチじゃない! バカだ!」
「……」
「一番先に決まったの八千だったもんね」

 八千と睦美が話題に入り込んでくる。この二人はいつだって私を気にかけてくれている。

「私も偏差値の低い平安学園なんて行きたくなくてさ、あの辺じゃバレーが強いのは私立の『平安学園』か公立の『柏大手高校』じゃない? 零華が三咲先輩たちを追って平安に行かないって言うなら私も零華に便乗しちゃおう、みたいな……」

「わたしは~菜々巳と~おんなじガッコに~行くって決めてた~」
「あたしもだ!」

 ふふっ、と唯一が笑うと、少し顔を上げて宙に言葉を放つ。高い高いオープントスのように。

「私たちの代だけなんだよね、一緒のとこに進学しなかったの……」

 きっとそれは零華先輩へ向けられていたんだと思った。

「パイセン……」
「あと、喜多田四葉も頭良くって、柏手高校志望ってどっかで聞いてたし」

 そう言うと、私が四葉先輩へと話をするための呼び水のようなセリフを残して八千たちを連れてこの場を離れた。


◆◇◆◇


 あからさまにコート内でのコミュニケーションが増えた。今まで避けてしまっていただけで四葉とは趣味が合った。
 休みの日はカフェ巡りに出かけたり、お菓子作りが趣味なこと、同じB型でB型女子同士は相性が良いなどなど。



 年齢が低ければ低いほど、縮まった距離への気持ちは大きい。元来二人とも練習が支えるバレーボールをする選手だから、2人コンビは技術的な精度よりも、メンタルの部分で相乗効果が表れる。
 気持ちがonすることで勝負の掛かった場面でしか出せない『あと数ミリ』の単位をinさせる。個々の力では辿り着けない力が発揮される。

 バレーボールは『落としてはいけない』と誰にでも分かりやすい点が感情移入しやすく、互いが想い合う気持ちが伝播しやすい。


『本気を出した零華』よりも『当たり出した四葉』が止まらない。


 唯一パイセン(ミドル)を活かしたトスワーク。真ん中からライトゾーン(睦美)=『強気のトスワーク』という意識が、エースの存在という大きな礎によって完成された。