暑苦しいほど体育会系ノリ。下手な奴は努力するしかない。練習は不安を和らげる唯一つの手段。唯一と零華の才能に追い詰められる2人。
 先輩が後輩たちの道を切り開かなければならない。みじめな姿を見せるわけにはいかない。環希はいつだって後輩たちの憧れだった。
 そのプレッシャーが二人のバランスを難しくしている。

「そんなんだからトスが読まれるんだッ」

 三咲は菜々巳に厳しい。三咲は唯一の才能を恐れている。同じポジション、そのすごさが分かる。いつも8割程度の力で120%の結果を出せる能力。三咲より下手な菜々巳がもっと必死にならなければ恥ずかしい。
 そう、恥ずかしい……妹の菜々巳が下手打つことは、三咲まで失敗したかのように恥ずかしくなる。それが苛立たせる。

(もっと努力しろ! バレーは勉強より厳しいに決まってる! もっと自分を追い込め!)

「センターから逃げるな! レフトを助けろ!」


◆◇◆◇


 サーブもアンダーもオーバーも技術的な差はほとんどない、ジャンプ力、持久力、視野などのスキルも変わらない。しかしスパイクの決定力……その差が埋められない。

 それはエースに求められる、期待感の差とも言えた。

 十色も優秀なスパイカーだ。器用で多彩でミスが少ない。十色に託したのなら失敗しない安心感がある。十色の強みは、零華との差別化はこの安心感で測ろうと考えた。

 その為にはセッターの助けが不可欠だ。預けられたボールを最善手で乗り切るための選択肢を増やすトス。環希のようなトスを……。

(努力する気がないのなら、辞めろ。下手がみんなの足を引っ張るな)

 三咲は親友である十色の代弁者となって菜々巳に要求する。三咲にだって十色を心配している余裕などない。何か特別な……唯一に対抗できる特別な武器を手にれなければ……。

 努力と根性の練習でしかそこから逃れる術を見いだせない。

 そして三咲はついに手に入れた……鎌のような手首を作りあげ、腕の振り、身体の向きを変えずに手首一つでクロスとターンを打ち分けられる。更には手首を返すか、返さないかで強打と軟打の変化さえも可能とする必殺の武器を。

「これで唯一にも勝てる」

 そして三咲は『将来を最も期待されるミドルブロッカー』としてその評価を得た。



「凡人が努力や根性で勝とうなんて考えるな。半端な努力が取り付く島なんてない」

 菜々巳に言って後悔した……。どの口がそんなこと言ってんだって……。三咲の身体はボロボロだった……『ケガがない選手ほど名選手』……その通りだと思った。

 バレーのない人生……それを視野に入れるしかなかった。そして……大学で開三咲はプレーヤーとしての終止符を打った。

(菜々巳……努力だって『過ぎたるは何とやら……』だ。セットアップは焦ってやるもんじゃない。部活なんて人生のセットアップ段階だったんだよ)