「菜々……菜々は環希先輩という強い光で見えなくなっていただけよ。強すぎる光は時に人を惑わせる……それに零華は環希先輩のトスに慣れ過ぎてしまったのよ、完璧すぎるトスに。零華は菜々に求めるものが多すぎた……そして受け入れられなかったんだと思う」

 もうすぐ完全下校の時間だ。唯一パイセンが前触れもなく歩を進めた。私たちも何となくそれに合わせてパイセンの後ろを歩きだす。

「環希先輩の一番すごいところ、何だか知ってる?」
「え? 何だろ?」
「ゔ~分かんないぃぃぃ」

「耳、ですよね」
「さすが、菜々。正解」

 視覚よりも聴覚は360度感知する事ができることや、音程や音量などで位置や行動を読み取ることができる。環希はこの感覚と感度が抜群に優れていた。
 それは司令塔に位置するセッターというポジションにおいて抜きに出る能力と言える。

 校門の前で不自然に立ち止まった唯一パイセンに少し違和感を覚えながらも皆一様に足を止める。

「はっきり聞いたことないけど、環希先輩は人が怒ってるとかの感情を声質から判断するのと同じように、シューズの音で走り出しの距離から、位置は勿論、跳躍の高さ、今日の調子まで感じ取っていたと言われていた。もう今では確かめようもないけれど……」
「あたしも嗅覚なら負けないわ」

 徐に八千が対抗心を燃やす。

「あたしは直近1時間くらいの範囲内に食べたものが分かるわ。唯一パイセン、パイセンは部活を終えて着替えて部室を出た後、再びあたしたちの前に現れるその直前、校門前の『やまもと商店』でお好み焼きをテイクアウトで食べてから来ましたよね?!」

「……何で分かったの? 八千! 青のりは完璧にチェックしてバレるはずないのに……まさか本当にそんなことが分かるというの?」

 雷に打たれたように唯一パイセンが衝撃を受けているのが見て取れる。分かるわ唯一パイセン……バレたくなかったですよね……。私たち後輩と『やまもと』に行けば奢らないと恰好が付かないし、独りだけ食べてから来たなんてもっと恰好悪い……。素直に認めてしまう唯一パイセン……憎めないです……。

「校門前で不自然にパイセンが止まったのが怪しかったのよね。パイセンは『やまもと』のおばちゃんがいつも通り完全下校が過ぎて丁度今、店を閉めてるのに気付いたから、またばったり顔を合せないよう立ち止まった……」

「八千の勘の良さ(嗅覚)には恐れ入ります」
「ズルいっス……唯一パイセン……」
「わたしも~お腹空いたぁ~」
「なんかごめん……」