崩した! これを平安はレフトオープンで返す。しかし四葉のディグが冴える! 高く上がったレシーブは両陣営体制を整えるのには十分だ。
 そしてここからが私の仕事……。

 睦美、お願い。五和先輩のサーブを繋いで! ブレイクし続ければ追い付いて、マッチポイント、そして……五和先輩のサーブで勝てる! 

「?!」

 疲労がたまるこの場面、それでも睦美は高く飛ぶ。睦美が空中で溜を作り、我慢して我慢してボールを叩く。
 しかし三咲のブロックが睦美を阻む。平安、ブロックポイント、そしてマッチポイント!

「睦美、ごめんです」
「ゔ~菜々巳ごめん~」

 私たちの交わす言葉を小耳に挟んだお姉ちゃんの苦笑いが目を掠めた。それが示唆するのはお姉ちゃんも疲れてる、それだ。
 きっとコートの誰もがしんどい場面。表面化するのを気力で補うクライマックス。



 ついに追い詰められた……次、サイドアウト取れなければ敗退……私たちが越えて行かなければならないこの壁は、厚く、高い……。あの日、決裂した私たち……環希先輩が残したバレーは、その根源は『にらめっこ』だ。

 我慢が続く、最後の1点をみんなで守る。私たちがコートにボールを落とさないのなら、ボールが床に着くのは相手のコート以外ありえない。
 だから守る(攻める)……しかし平安側コートもボールを繋ぐ。



 長いラリーが続く


 1分強にも及ぶ凡そ100打のラリー……。苦しい……時折バレーボールがこんなにも苦しいのか、と思い知らされることがある。それでもバレーを辞めることはない。

 風香のブロックが十色の強打に打ち抜かれる。風香の腕に当たってるものの球速は死んでいない。
 しかもレシーバーはブロックに当たったため球筋が変わって、レシーブコースからを外れてしまっている。


 八千の肩ほどに当たってボールはサイドライン外へと向かって小さな弧を描く。

 落ちる! 私が一番近い! ボールに飛びつく、これが落ちれば負けてしまう。届け! 私はサイドライン横、5メートル設けられたフリーゾーンに突っ込んだ! 綱引きされているのかと思えるほど腕が伸びた気がした、その手の先が辛うじてボールを掬い上げる!
 しかしボールは高く上がるわけもなく、自陣サイドラインの内側へと戻っていくだけだ。その3打目を強く打ち返すどころか、フォローできる人間が居るのか……引力は、リンゴが地面に落ちる法則は、ネットのこちら側にしか働いていないのか……またも自由落下のように床を目指すボール。
 空気すら落下に抗わないボールを阻んだのは八千!


 バレーボール正式競技基準では天井の高さは12.5メートル以上が必要。今日の天井の高さは13メートルから中央は17メートルある体育館。


「もう一回」

 八千の天井レシーブ!

 高く高く打ち上げられたボールは、天井すれすれまで舞い上がり加速度を付けて落ちていく。この高い軌道のボールは現代バレーボールには向いていない。なぜならリベロがいるからこのボールを対処して綺麗にセッターに返す。長い滞空時間の間に各アタッカーがそのポジションでの準備が容易となるからだ。それが天井サーブの衰退した理由。
 それでも八千がこの高いボールで打ち返したのは、こちらの状況の方がそのデメリットを差し引いても壊滅的であったからだ。相手セッターの位置も確認できていない状況、両の足より外側にある重心でコースをコントロールするよりも掬い上げる力をコントロールする方が容易い。
 リスクは大きいが、ここで相手に速い攻撃をされたなら対処できない。だったら、相手にも猶予を与えてしまうが、こちらも万全のシフトで迎え撃つ準備を作ろう。八千のメッセージあるレシーブ!