空の上から、株式会社Spoonの屋上を
見ると、楽器や歌う声が響いている。
防音といっても、多少は聞こえるようだ。

レッスンスタジオの中では、
個人ではなく、
メンバー全員集まって、
演奏することが多くなった。

フルートを何度も演奏するクレアは
楽譜を何度もペラペラとめくって、
アシェルに歌うところを確認した。

リアムはキーボードのタイミングと
オリヴァのドラムのタイミングはここで
合ってるか楽譜をお互いに再確認した。

前よりも、メンバーがお互いを認め合い、
良いところとダメなところを言えるようになり、さらに磨きがかかってきた。

「なぁ、あのさ、
 今頃なんだけど、俺らのバンド名って
 何かわかる?」

「え、気づかなかった。
 全然気にしてないから。
 売れ残ったチケットあったから
 見てみようか。」

リアムは、バックの中から前の会場チケットをよく見てみた。

「え!?
 どういうこと?」

「何?なんていうの?」

「アシェル、見てよ。
 これ、適当すぎない?
 気づかないはずだ。
 『ライブ』って書いてる。」

「意味わからないよな。
 バンド名、変えてやり直そうぜ。
 ルークはどこ行ったか知ってるか?」

「アシェル、今日、ルークは本職だよ。
 スプーンの工場行ってる。」

「ルークの本職って、そっちが副業だろ?
 わかった。聞いてくるわ。
 みんなは、練習続けてて。」

「行ってらっしゃい。」

 アシェルは、リアムから渡された
 売れ残りチケットを持って、
 ルークがいるスプーン工場の方へ
 移動した。

 たくさんの大きなロボットが並べられた
 スプーン工場では、ルークがロボットの
 修理をしていた。

 溶接していたマスクを外した。

「あれ、アシェルさん?
 手伝ってくれるんですか?
 助かりますよ。」

「違うって、バンド名のことで
 確認したいことがあって…。」

 ガコンガコンと機械が大きな音を立てて
 動いていた。
 次々と小さなスプーンができていた。
 売れ行きの良いレインボースプーンの他に
 アイスをすくって食べる小さなスプーンも
 作っていた。溶けやすいスプーンだった。

「へ? バンド名言ってなかったでしたっけ。
 『バンド』か『ライブ』で
 迷ったんですが、ボスと相談して
 『ライブ』に決まったんですよ。」

「それなんだけど、俺らで考えた名前が
 あってさ。採用できないかなと
 思ってさ。」

「え、なんだ、考えていたのがあったら
 すぐに教えてくださいよ。
 なんて名前ですか?」

「余りものの俺らだから
 『ブレーメン』って
 かっこいいかなと思って。
 どう?」

「ブレーメンのおんがくたいのことですね。
 確かにぴったりな名前です。
 ボスと相談しておきますね。
 即採用だと思いますけど…。
 このロボット直したいんですけど、
 できませんか?」

「だよな。
 その名前で決まって欲しいな。
 え、これ直すの?
 ここにねじ回して開ければいい
 じゃないの?」

  そう言うと、
 ルークはマイナスドライバーを
 アシェルに無言で渡す。

 自然の流れで受け取ってしまった。
 結局、最後まで修理を一緒にすることに
 なった。

 いやいやながらも
 アシェルは手先が器用だった。
 不器用だと言いつつ、細かい作業も
 案外いけるなとルークは目を光らせた。
 
 スプーン作りのスタッフを
 1名増やした瞬間だった。