よく晴れた日、漫画喫茶で
 過ごしたアシェルは、
 買ったばかりのスーツに袖を通した。
 
 左腕のスイッチを押して、
 時間を把握する。
 新着メッセージはありませんと
 表示されている。
 
 ハンガーにかけていたネクタイを締める。

 小さい鏡で身だしなみをチェックする。
 どうしてもはみ出る胸の毛は
 流れを整えた。

 牙の色を見て、白いことを確認した。

 今日は、いよいよ舞台【赤ずきん】の
 狼役のオーディション。
 
 午前10時から東駅のスタジオAにて
 行われる。

 シャッターが完全に開いたスタジオに
 足を踏み入れると、
 たくさんのスタッフで溢れていた。

「あ…あの。」

 アシェルは大道具を持ったスタッフに
 声をかける。
 
「え?」

「きょ、今日、オーディションの
 アシェルと言うものですが…。」

「あー、ああ。出演者?
 それならあそこのテントで受付だよ。」

「あ、ありがとうございます。」

 東の方に白いテントがあった。
 何人かの同じ応募者が並んでいた。

 慌てて、その最後尾に並んだ。

「おはようございます。
 オーディション参加の方は
 こちらに記入をお願いします。」

 受付のアルパカの女性がテキパキとバインダーにはさんだアンケート用紙を差し出した。

 アシェルは、ボールペンを回しながら、
 アンケートを記入する。

 内容は名前などの個人情報の記入と
 狼としての希望する出演作品を下から選び
 ◯をつけてください。

 【おおかみと7匹のこやぎ】
 【3匹のこぶた】
 【オオカミ少年】
 【赤ずきん】

 と書かれていた。

  悩みに悩んで、アシェルは募集していた
 赤ずきんに◯をつけた。

 せっかくに募集してると言って
 来ているのに他の作品を選ぶのは
 変だと思った。

 まさか、この◯が重要な選択だとは
 思わなかった。

「すいません、記入終わりました。
 お願いします。」

「はい、お預かりします。」

 アルパカ女性は笑顔で受け取ってくれた。

「アンケートのご記入を終えた方は
 こちらでお待ちください。」

 待合室へ案内された。

 そこにはたくさんの童話の絵本が
 置かれていた。
 狼の作品はもちろん、うさぎ、かめなどの
 作品がところ狭しと並んでいた。
 小さな図書館のようだった。

「俺は…赤ずきんか。」

 本棚から赤ずきんの本を取り出した。

 ごくごく普通のストーリーだった。
 
 女の子がおばあちゃんのお見舞いに行ったら狼だったって言う話だった。

省略はされていたがそんな感じだ。


アシェルはその狼を望む。

そもそも応募しているメンバーは全て
それを目指して来ているはず。

アシェルを含めて5人の狼が
立ち並んでいた。

それぞれ緊張している。

白線に均等に並ぶよう指示されて
プロデューサーとスタッフ2名は長テーブルを前にして座っていた。

オーディションの本番がはじまった。