Cスタジオで舞台【赤ずきん】の
オーディションが行われていた。

本格的な大きなセットの中に
おばあちゃんの部屋とされるインテリア、
ピンク色の天蓋がある
大きなふわふわのベッドが置かれていた。

赤ずきん役のオーディションで、
まだオーディションは終了してないはず
だったが狼役はロックが
演じてくれるようだ。

マネージャーとされる羊の女性に
うちわで仰がれていた。
横にはコーヒーのカップがある。
優雅に雰囲気を醸し出していた。

王子様のような対応なのか。

ちょっと鼻につく。

クレアは
このオーディションの段取りが
書かれたプリントを読んで、
指定席に座った。


「このたびはお忙しい中、
 お集まりいただきありがとうございます。
 早速、舞台【赤ずきん】の赤ずきん役
 オーディションを開催します。
 進行させていただくのは
 私、エレノアが担当いたします。
 よろしくお願いします。」

  ADのような立ち姿のカピバラのエレノアは
 軽くお辞儀した。
 
 「また、今回の審査員であります
 プロデューサーのジェマンドさんです。」
 
 ジェマンドは名前を呼ばれて
 耳をキュッと動かした。
 席から立ち上がった。

「審査員のジェマンドです。
 今回、応募が5人も集まっており、
 大変こちらとしても嬉しいです。
 とても可愛らしい皆様ですし。
 最後までよろしくお願いします。」

「では、応募者の方々の自己紹介を
 お願いします。
 えー、それでは、
 左から…はい、マージェさんから
 お願いします。」

 は、左から順番にということで
 妖精のマージェから指名した。

「はい! マージェと申します。
 空のフロンティアから来ました。
 映画、ドラマ、CM、雑誌の仕事は
 経験あります。
 これまでの経験を活かして、
 赤ずきんの赤ずきん役を希望します!」

 ふわふわのくるくるパーマの茶髪が
 なびいていた。目がねこのように大きく、
 肌は雪のように白く、まつげが長かった。
 身長は小柄で可愛らしかった。
 キラキラと青い羽根が背中についている。
 大手事務所に所属している。
 人当たりも良く、評判は上々だった。

 審査員のジェマンドは、手首につけていた
 ハイテクなウォッチのボタンを押して、
 マージェのエントリーシートを液晶画面に
 うつし空中に表示させた。
 
「はい。ご紹介ありがとうございます。
 前もっていただいていました
 エントリーシートを拝見しました。
 かなり実績のあるんですね。
 経験も豊富ということで。
 本日、渡しましたアンケートにも
 【赤ずきん】の赤ずきん役ということ
 でご希望ですね。」


「はい。もちろんです。
 応募していたものにぜひとも
 出演したいので
 ○をつけました。」


 ジェマンドは納得したように
 頷いていた。

「うんうん。
 わかりました。
 では、早速模擬試験ということで
 狼役のロックさんと
 一緒に出演していただきませんか?
 エレノアさん、台本、ありますか?」

「はい、すぐ準備できます。」


「そしたら、すぐ始めましょう。」

マージェは、台本を渡されるとすぐに
赤ずきん役と狼役の両方の
セリフを覚えた。


「準備はいいですか?
 見せ場のおばあさんの姿になった狼の
 ところを赤ずきんと演じていただきます。」

 エレノアはカメラにカチンコを向けて 
 準備をした。

「アクション!!」

 という声かけとともにカチンコを
 鳴らした。

狼役のロックはベッドの上に寝ていて
おばあさんの着ていたパジャマを着ていた。
赤ずきんはその横まで近寄っていく。

「あら。おばあさん、なんて大きな耳ね。」

「それはね。遠くからでも
 お前の声が聞こえるようにだよ。」

「あらら。耳もだけど、
 なんてギョロギョロした目だね。」
 
「それはね、お前の顔が見えるように
 こんな目をしてるんだよ。」

「あーら、耳も目も変だけど、
 大きなお口になってるわ。」

「それはね…。」

ロックは体を大きく見せた。

「お前を大きな口で丸飲みするためだ。」

「がぁおおおおお。」
 ロックは腹の底から悪魔が出たような
 恐ろしい声で叫んだ。

「カット!!」

エレノアはカチンコを叩いた。

「お疲れ様でした。」

「ありがとうございました。
 さすがは経験者ですね。
 赤ずきん適役だと思います。」

「お褒めの言葉、光栄です。」

 深々とお辞儀した。

「では、次の方どうぞ。」

エレノアの指示で
順番で同じように
軽く面接をした後、
模擬試験を受けるという
流れができていた。

 2人目はオードリーという妖精だった。
 薄茶色のそばかすが目立ち、
 金髪ストレートで
 面長な顔、唇厚めで
 目の下にほくろがあった。

 おどおどした様子で
 自己紹介していたが、
 本番の演技ではハキハキしていた。

 3人目はマチルダという妖精だった。
 黒髪ストレートでまつ毛も長く
 身長も高かった。
 丸メガネをつけて
 知的、おしゃれだった。
 
 演技は棒読みに近かったが
 リアクションはうまかった。

 4人目はオリビアという妖精だった。
 目が大きく、鼻高めで 
 声が透き通っていた。
 まばらに茶髪に
 青いインナーカラーを入れていた。
 
 演技は真面目に的確な印象を受けた。
 

 5人目はクレア。

 羽根の色が虹色で手が細く白い。
 目が小さく、ぽっちゃりめ。
 短足で肌は色黒。
 まつ毛は長かった。

 演技は可もなく、不可もなくと
 言ったところ。

「カット!!お疲れ様でした。」

「クレアさんでしたっけ。
 声はとても良い声で聴き心地は
 いいんですけど
 演技になると緊張なんですかね
 イントネーションが…。」

「あ、すいません。
 本番になると…緊張してしまって。」

「この世界は本番が命だからね。」

「そうですよね。本当にごめんなさい。」

 なんとも言えない表情をするクレア。


「それでは、このオーディションの結果は
 1週間後、選ばれた方にお電話を
 差し上げます。
 電話がなかった方は
 ごめんなさい。
 またの応募をお待ちしております。
 よろしくお願いします。
 本日はお忙しい中、
 ありがとうございました。」

 エレノアはお開きということで
 応募者に出口を案内した。

 トボトボと歩いていると
 プロデューサーのジェマンドは、
 ロックとマージェを追いかけ、
 何かを話している。

 明らかに悪い話ではなさそうで、
 マージェの表情が明るくなるのがわかる。

 1週間後なんて勿体ぶってないで
 すぐに結果は出るのではと
 頬を膨らますクレア。

「ねぇねぇ、聞いた?
 アンケートに答えたものに
 私、出演できるって。
 安心、安心。」

「本当?よかったじゃない。
 私もさっき、言われたわ。
 私は【不思議の国のアリス】の出演が
 決まったのよ。
 オードリーは何にしたの?」

 オリビアが聞く。

「私は、【ヘンデルとグレーテル】よ。
 てか【赤ずきん】って募集してたけど
 どこかに出演できるなら
 願ったり叶ったりよね。」


「確かに。
 配役があるだけ救いだわ。」
 
 オリビアとオードリーは笑顔で言う。

 そう言いながら、2人は出口に
 向かっていた。
 
 それを聞いたクレアは、
 近くにいたマチルダに話しかけた。

「ねぇねぇ、聞いてもいい?」

「え、なに?」

「何に出演決まったか教えてもらえる?」

「えっと、私は…。」

 バックにしまったプリントを見返して
 話すのはマチルダだ。

「【ゆきばらとべにばら】よ。
 まだ、どっちにするかは
 決まってないみたいだけど…。」

 マチルダはプリントをすぐにしまった。

 クレアは納得できなかった。
 結局は誰がやるか
 始めから決まっていた
 ようだ。
 
 募集していた赤ずきんはマージェが
 やることになった。
 目に見えてわかった。
 自分はなんのためにこれに
 応募したんだろう。
 
 クレアは答えがわかる返事を
 何も言わず待っているのは苦痛だと
 感じた。
 
 すぐに答えを聞こうと
 マージェと談笑している
 プロデューサーのジェマンドに
 そっと近寄った。