奉仕活動、最終日。

 憂鬱な気分で学校を終え、昇降口へ向かうとすでに立花がいた。
 俺は重たい足を引きずりながら、外へ出る。

「昨日は、その……」
「ごめんね」

 先に謝罪を口にしたのは、立花だった。
 立花は続ける。

「他人の悩みを軽んじるなって言ったくせに、私のほうこそ横村くんの悩みを勝手にこういうもんだって決めつけてた。
 そんなつもりはなかったって、言い訳だけど」
 軽んじてたんだと思う。私が助けられる程度の悩みだって」

 そういって立花はもう一度、深く頭を下げた。
 だから俺も、慌てて頭を下げた。

 なんだこの状況。
 なんなんだ、俺たちの関係は。

 初めて会った時はぎすぎすして。
 そのあとは言い争って。
 そして今は、なにも言わずに頭を下げあっている。

「なんだこれ」

 どちらからともなく笑いがこみあげ、俺たちは顔を上げた。
 立花は昇降口のそばへふり向き、呟く。

「あの時、すごくうれしかったんだよ。ほら、私の話を笑わずに聞いてくれた時。
 私の家族の話を、黙って聞いてくれたことも。
 あぁいう話すると、すぐ同情されたり、逆に私が悪いって説教食らったりもするからさ」
「別に。そのくらい」
「そのくらいじゃない。少なくとも、私にとっては」

 立花は凛とした声に、俺はなにも言えなくなった。
 立花の言葉を借りるならば、俺は軽んじていたのかもしれない。
 立花の俺に対する感謝の気持ちを。

「だから、私も何かしたいと思ってる。今も。
 だから教えてほしい。横村くんの悩み」

 俺の悩み。
 そんなこと、立花に言ったところで理解されるはずがない。
 そもそも、誰に言ったって理解されない。
 だって。

「……自分でも、あんまり分かってないから」

 自分で理解できていないことを、他人が分かるわけがない。
 だから俺は、いつまでたっても一人なんだ。
 家族といたって、矢野と一緒にいたって、ますます孤独が強まるばかりだった。
 そうして今、差し伸べられた手の掴み方だって分からない。

 気持ちがまたどんどんと深く、暗い場所へ沈んでいく。
 しかし、そんな俺の腕をつかんだのは小さい手。
 立花の手だった。

「じゃあ、どうしてロングヘアになりたいのか教えてよ」
「え?」
「憧れたきっかけとか、ほかの髪形はしたくないの、とか。あとは……」
「……話しても、わかんないよ」
「わかるよ。横村くんが言ったんだよ」

 そういうと、立花はにやりと笑った。

「悩みは分からないけど、憧れは分かるんでしょ?」

 確かにそれは、俺が言った言葉だった。

「だったら、私にもわかる。私だって、サラサラのロングヘアになりたいんだよ」

 そういって立花は美容シャンプーのCMのように頭を振り、髪をなびかせる。
 しかし、CMのようなさらさらではなく、くるくるの髪の毛はうまくなびかず、ぽわぽわとはねる。
 そんな立花の姿が、やっぱりまぶしくて、最高で。
 気を抜けば涙がこぼれそうで、俺は必死に上を向いてこらえた。

 空には新緑の葉が、さざめいていた。