「ようやくできたぞ、儂の最高傑作が!」
どこからか、声が聞こえる。
「あれ?でも、動かないぞ?」
そりゃあ、突然でしょ。私、たぶん死んだし。
「あ。儂としたことが仕掛けるのを忘れた」
突然、視界が開けた。
どうやら、死んでなかったみたい。
仕事が終わらなかったことをどうやって部長に謝ろう。
「お、目が開いたな」
「え?」
目の前には大河ドラマで見るような服を着た男がいたせいで、驚きが声に出ちゃった。
今の職場ってスーツの人がいっぱいで着物で行く人なんて見たことない。
ほら、周りだって、サラリーマンとか私みたいなOLさんがいっぱい......
「は?」
さっきから語彙力がないような言葉しか出ないけど、仕方ないよね?
右には兼六園みたいな庭。うん、ここは仕事場じゃない。
左に襖。こんなの無かった。私の左は廊下だったし。
正面に爺。
「ここどこなんですか?!私の職場、1日でリホームしちゃった?!」
「この人形に話すからくりは仕込んでなかった......。
つまり、儂の秘術は成功だ!お主、どこから来たんだ?リホームとか南蛮のような言葉を使っていたが」
南蛮ってことは、ここは戦国時代なのかな?
「今って何年ですか?」
「今年で元亀元年だ」
え?!
元亀元年って確か1570年ぐらいだよね。
「お主の質問に答えたから、今度はこっちの質問に答ええてくれないか?」
「答える前にもう一つ質問があって......。あの、私がどこから来たなんて、どうして分かったんですか?」
「ああ、それか。それなら簡単だ。私が幻術でお主の魂を呼んだのだからな」
はぁ⁈
いや、いくつかの書物には記されていたけど、まさか、本当にあるなんて......。
一体、この爺何者なんだ?
「私は、えーっと、今からざっと400年ぐらい後の時代から来ました、以上!あなた、一体何者なの?」
「え、儂?儂は、果心居士だ。なあ、儂、未来で有名か?」
果心居士って、本当に存在したんだ......。
現実離れしているから、てっきり本の中の人だと思ってた。
「まあ、忍者の本には載っていますよ。そこまで、知名度はないけど」
知る人ぞ知るみたいな感じかな。
「未来で知られているとは......。忍びとして不覚」
「いや、そんなに落ち込むことないよ。凄すぎて、伝説上の人物になっているから」
「それなら、安心だ。ところで、お主、名は?」
前の人生で使っていた名前もあるけど、せっかく、戦国時代に転生したからそれっぽい名前が欲しいな。
「名前はあるんですけど、こっちに来たので名前を変えたいなって」
「そうか。なら、儂がつけよう。......文女なんてどうか?文月に作った女の人形だからな」
『あやめ』か~。
良い響きだけど、ちょっと待って。文月に作った女の人形で、『あやめ』......。
まさか、
「『文』に『女』で『文女』ですか?」
「そうだが」
マジかよ。
まあ、漢字さえ見なければ可愛いし気に入ったからいっか。
「ねえ、果心居士さん。私をこれからどうするの?」
「?当然、お主を儂の娘にして育てる気だったが、不服か?」
「いや、不服とかなくて......。娘になるのは特に問題ないけど、年齢的に、娘じゃなくて孫では?」
果心居士は私が爺呼びしているぐらい、どこからみても老人。
今の私の外見は分からないけど、爺が私を人形呼びして視線がかなり下になったからかなり幼い人形に転生したんだ。
この時代の結婚は私がいた未来よりもかなり早いから、老人の娘として注目浴びそう。
孫にした方がまだ世間から注目されない気がする。
てか、そもそも人形だしどっちにしても注目するか。
「ん?......うっかりして、変装解くの忘れてた!ちょっと待っててな」
急に爺の姿が消えた。
流石、現役忍者。
何か忍術使っているのかな?
爺がいない間に自分の姿確認しておこっと。
まず、手。
赤切れなんてない白くてすべすべ.......!まさに白魚の手!本物の手みたい!
次に体。
って、私何も着てないじゃん!
......それは置いといて、どうやって作ったんだ?前世の化学技術を使ってもこんなの出来ない。
普通に弾力があるし、この体は幼いながらもなかなかなだな。成長した姿が恐ろしい。
でもさ、やっぱり、手と体よりも顔が見たい。
こんなに凄い体ならきっと顔も中々な気がする。
鏡みたいなもの......。
あ、あったあった。
机の上に置いてある水の入った皿をのぞき込むと今世の顔が映し出された。
これ、本当に私⁈
一言で言うと、人形。
いや、確かに私は人形だけど、何というか、感情が欠落しているというのか、人間離れしているというのか......。
幼さが残っているけど既に完成された顔のパーツ。
前世の私、一欠片も伝わっていない。
ここまではいい。前世の姿も全く感じることが出来ないけど想定の範囲内。
問題は目。
全く瞬きしないし、感情が入っていない。完全に闇がありそう。
闇なんてないんだけどな。
「どうだ、自分の姿は?」
「わ⁈急に後ろから声をかけないで......」
後ろを振り向いたら、爺じゃなくてめっちゃ美人なお姉さんがいた。
「だっ誰⁈」
「誰って、あなたのお母さんよ~」
「いやいやいや。さっきのしわがれた声は?あの姿は?」
声がマジの女性になっている......。
「さっきの姿は変装よ~。こっちに戻るの忘れちゃった」
語尾に『てへっ』が付きそう。
「人格変わりすぎない?」
「そお?いつもこんな感じよ~」
いつもなんて知らないわ。
今、来たばかりだし。
「さっきの姿に戻ってくれない、お爺ちゃん?」
「お、か、あ、さ、ん、よ?」
めんどくさっ。
それに、お母さん呼びはちょっと......。
「......おねえちゃん、元に戻って」
「え、嫌。それに、この姿だからできることもあるのよ~。今みたいに、文女に服を着せることもできるのよ。女子用の服持ってきたから」
そういえば、私、何も来ていなかったんだっけ。
でも、着物なんてどうやって着るんだ?
「心配しないで~。私が着せるから」
「ありがとうございます」
「ねえ、文女。さっきから色々混ざっているから、どちらかに統一した方が良わよ〜」
「分かったよ。......お姉ちゃん」
「まだ、恥ずかしいの?その反応、初々しくて可愛い。お母さん呼びしても良いのよ?何だったら、お父さん呼びでも」
初々しいってしょうがないじゃん!
私、前世で一人っ子だったから、読んだことないもん。
お母さんだけではなくお父さん呼びもOKなんて、今はお姉さんだけど、本当の性別はどっちなんだ?
取り敢えず、お姉ちゃん呼びにしておくか。
いつになったら慣れるのかな......。
「よし、出来た!よく似合ってるわ〜」
お姉ちゃんがどこからか磨かれた金属を出して、私の前に置いてくれた。
ヤバい。
さっき、水を鏡の代わりに使って見たけど、服を着ると着ないじゃ大違い。
あの顔に紫の着物で相乗効果が半端ない。
何か良い感じに見えるオーラでも出ているのかな?
「着物を着れないなんて、文女がいた時代は何を着ているのかしら?もしや、着ないで......」
「いや、着ているわ!洋服っていう、外国から来た服。着物は夏祭りとかしか着ないかな」
「外国って?」
「えっと、南蛮のことかな」
南蛮はヨーロッパのことを言うけど、外国だから大体一緒だよね。
「へ~。南蛮の。最近、南蛮で作られた布も市で見かけたりするのよ。でも、文女が着ている物はここで作られたものなの~。この着物は私たちの仲間が作っているから、いろいろと特殊なの」
特殊?
見た感じ、普通の着物にしか見えない。
「生地が薄いとか?」
「それだけじゃないのよ。私の仕事は文女も知っている通り、忍び。情報収集や暗殺が主な仕事。普段着のままで行ったりするから、たくさんの武器が入るようになっているし、生地も丈夫で着られにくくなっているの。他にも、殺菌作用のある植物で染められているから、川とかの水をすくってそのまま飲めたりできるのよ」
この着物ってそんな凄い物だったんだ。
ただ、着物とは関係ないけど、お姉ちゃんの説明で一個だけ危ないことがあったから伝えとこう。
これが原因で病気とかになったら嫌だしね。
「お姉ちゃん、川の水はそのまま飲んじゃだめ。お腹壊すよ」
「殺菌作用の植物で染めているから、大丈夫よ?」
そっか。
当然だけどこの時代はまだそんなに医療技術が発達していない。
一応、歯科とか眼科とか専門分野が細分されているし、金創医っていうヤブ外科医(一部は優秀)もいるけど、まだ西洋医学は伝わっていなくて、手術は麻酔なし。
傷口を縫うようになったのは戦国末期。
治療法もヨモギとかを布に巻き付けて使用しているし、間違った治療法のせいで傷が悪化して命を落とすのも少なくない。
「そんなんじゃ菌は死まないから、水を加熱しないと。それに、加熱する前に水の中に何か入っているかもしれないから、布とかを通した方が良いと思う」
「へ~。加熱だけで病人を減らせるのね。それは未来で?」
「そうそう」
「他には!医療だけじゃなくて技術とかも」
これ、言って大丈夫なのかな?
私が言ったせいで歴史が変わるとか洒落にならないぞ。
「......他言無用できるなら」
「出来ないとこの仕事できないわよ」
確かに。
忍者なんて絶対に漏らしたらダメだもんね。
というわけで、元いた時代の化学技術とか医療技術とか知っている範囲で話した。
「四百年でこんなに進むのね~。好奇心が刺激されてくるわ。特に科学とか後で試してみようかしら」
人に見られないように、後で言っとこっと。
「ということは、未来から来ている文女はこの後何が起こるのかも知っているのね?」
「それなりに」
嘘です。
戦国時代を愛して、数少ない休日は戦国雑誌を、連休だったら城巡りしてました。
あぁ、読めなかった最新刊が見たくなってきた......。
「ということは、誰が天下取るのかも?」
「うん。そういえば、お姉ちゃんは誰に仕えているの?」
もちろん誰にも仕えていない忍者もいるけど、読んでいた忍者本に出てくる忍者は大体が誰かしらに仕えていた。
「私は家康様よ。放浪していた私を拾ってくださったのよ〜」
家康って、あの徳川家康?!
私の推しじゃないけど、そんな有名人が身近にいるなんて......。
いや、でも、ワンチャン、私が知らない武士で家康という人がいるかもしれない。
「家康様って、徳川の?」
これで違うとか言われたら、私の期待返して欲しい。
「そうよ。最近、帝から徳川の性を許されたから、松平から徳川になったのよ」
徳川の性になったのは、1566年だから今から4年前。
意外と前だな。
4年あればオリンピックが開かれるぞ。
でも、スポーツにはそんなに興味がなかったから、オリンピックは開会式と閉会式だけ見ていたっけ。
「それで、誰が天下取ったの?」
「最終的には徳川家康かな。まあ、その後も色々ごたついていたけどね」
「流石、家康様ね。でも、天下を取ったのに戦があるなんて、意外だわ。天下を取ったら、戦のない世界にはならないのね」
「まあ、でも、その後すぐに戦がなくなるから」
「まだ先の天下統一された光景を見てみたいけど、戦がないなら、忍びをいらなくなるのね。別のことを仕事にしないと」
「そんな必要はないかな。戦がなくなっても忍者のことは記録に残ってあるよ。まあ、今よりは数とか減ると思うけど、幕府の監視とかをするようになるから、仕事はあると思う」
記録に残っているのは黒船来航の幕末までだから、その後は分からないけど。
「それなら、安心ね。よし、文女から色々と聞けたし、鍛錬がてら外に行くわよ」
「え?私、運動とかは無理なんだけど」
「大丈夫よ、この人形には色々な仕掛けがあるから。準備したいから、先に外で待っているね〜」
「あ、待っ」
言っている途中で、姿を消した。
人の話を最後まで聞けよ!全く......。
あの、私、この家の構造分からないんですけど?
それに、この部屋には窓とか襖なんて見渡す限り存在しないんですけど⁈
ということはこの家ってあの有名なからくり屋敷なのでは?
やばすぎ!うぉぉぉぉぉぉぉぉ!
めっちゃ興奮する。
本で読んだり伊賀の忍者博物館でからくり屋敷に行ったことあるけど、やっぱり当時の時代で本当に機能している忍者屋敷に今いるなんて、今日一番嬉しいことかも!
いや、一番は戦国時代に転生したことだから二番目か。
......興奮して目的を忘れるところだった。
早く外に出よう!......ここから外に出れるかな?
自宅で迷子とか洒落にならない。
とりあえず、今どこにいるか考えよう。
この部屋には窓があって襖もあるけど戸がないし、天井が屋根の茅葺じゃないから現在地は二階。
ここの戸棚はさっきお姉ちゃんが使っていたから、仕掛けがないはず。荷物なんておいたら通行の妨げになるからね。
でも、一応見ておくか。
扉を開けると、中にはいっぱい木材とかが入っている。
奥とかにもなさそう。
後、怪しいのは床の板と壁かな。だけど、壁から一階に降りるのは場所的に無理だから床な気がする。
というわけで床の板を一つずつ触っていくと、一か所だけ動いた!
他のところも確認してみると、もう一つある。
最初に見つけた床板を外してみると、階段になっている棚が真下に見えて、一階の畳の床が見える。目的達成!
ここから降りれば一階に行けるけど、もう一つも気になるんだよね~。それに壁も知りたいし。
一階に降りた後二階に上るのは効率が悪いので、後で見つけた床板と壁も今調べちゃおっか。
床の板をさっきと同じように開けると中は空間があって、入ってみると一階の様子が丸見え。一階の様子を見る監視部屋か。
空間から出て、四方にある壁を押しながら歩くとなんと、回転した!
予想していたけどこれがからくり屋敷といえば絶対にありそうなどんでん返しか。
しかも、一回転じゃなくて半回転というところがまた良い。
半回転だと回した方が回らなくなるからより侵入者を翻弄できる。
押した方と反対側を押して中に入るとビンゴ!
三階に行く階段はっけーん。
二階がお姉ちゃんの趣味部屋化しているし一階は日常空間だから三階に忍者関係の物はありそうだけど、勝手に行くのも後でばれた時が怖いから行かないでおこか。......いつか絶対に三階に行ってやる!
壁を抜けて、一階の階段があるところまで戻ったけど、ここで一つ問題が発生。
ここから、どうやって降りよう?
階段は上り専用だから下ろすことは出来ない。
となると、ここから飛び降りるしか方法はないんだけど......。それなりの高さがあった。
普通に一メートルは超えてそう。
それぐらいの高さから落ちても折れたりしないよね?
ううぅ、転生した直後に飛び降りるなんて......。でも、これしかないし......。
取り敢えず、ぎりぎりまで降りて長さを減らそう!うん、そうしよう!
上に上がっている階段に足を掛けて降りようとすると、着物の裾を踏んで足が滑った。
あ、やばい、落ちる!
穴の入り口に手を掴もうとするけど、穴が何故か無くなっていて掴めない。
二メートルから落ちても人形ってもつのかな?床が畳だから痛そう。
軽く現実逃避していると、急に体が動いて畳に着地した。
何で体が反応したのか分からないけど、ラッキー!
体を一通り動かしても痛くないから、怪我はしていないみたい。
もしかして、この現象って、異世界好きの友達がよく言ってた、チートとかいうものでは⁈
異世界ファンタジーあるあるの主人公のチート能力。
それなら納得いく。なんせ、私、主人公の鉄板ネタの転生したし。
歴史も好きだったけど、異世界とかに行くファンタジーとかも好きだったんだよね。
裾で滑るというなんとも言えないことしたけど、凄いの持っていそうなことが分かったから落ちて良かったかも。
よし、気を取り直して外に行くための玄関を見つけよう。
流石にからくり屋敷とはいえ、玄関くらいはありそうだし。
玄関って家の端らへんにあるイメージだから、こことは反対の方にありそう。
戸と襖があるけどどっちからいこうかな?
部屋の構造的に横には一つぐらいしか部屋がなさそうだし戸から行こうかな。
四つの戸があって、ここを開けると隣の部屋に行ける仕組みね。
なら、ここは端を開けよっかな。
こういう戸って人間の心理を利用していて、一番最初に手に掛けがちな真ん中は開かずに両端が開く仕組みになっているからね。
左端の戸を開けると動いたので、部屋に入ってみると仏壇と掛け軸がある。
壁と襖で囲まれいて、罠とかありそう。いや、絶対にある!
今のところ私が通ったところ全部に何かしらの仕掛けがあったし。
でも、なんの罠かを考えるのはいつでもできるから、気になっている掛け軸から動かそう!
水墨画が描かれた掛け軸の裏には、これまた定番の通路を発見!
中は暗くてよく見えないし、危ないから入らないでおくけど外に繋がる道があるよね、きっと。
てか、このままだと家の捜索だけで終わって、外に出られなくなりそう......。
掛け軸を元に戻して来たものとは別の襖を抜けると広間みたいになっていて、囲炉裏があった。
ここは現代でいうリビングダイニングかな。
囲炉裏って何かあるよね〜。
......外に行くための玄関もきっとこの近くにあるし、調べても大丈夫。
囲炉裏の火が消えていることを確認して横に引くとやっぱりあった。
これ考えた人凄いと思う。
だって、囲炉裏が引き出しみたいになっていて、その下には外に出れる地下通路があるんだから。
知らないと分からないんよね。
初めてみた時驚いたもん。
からくり屋敷の中で一番凄い仕組みな気がする。
囲炉裏を弄った痕跡が残らないよう元に戻して、ようやく目的の玄関までたどり着いた。
いや〜、長かった、長かった。
玄関には竈があったり、奥には物を置くスペースをある。
私の家の玄関よりをはるかに広い。
......ちょっと羨ましい。ちょっとだけだよ。ちょっとだけ。
丁寧に置かれた草履を履いて、外に行こうとすると、......あれがあった。
玄関のすぐに落とし穴。
この家作った人って防犯対策がすごい。
下見てなかったら、嵌っているところだった。
しかも、この落とし穴、場所が嫌らしい。
玄関から大体一歩目くらいの場所にある。
何も知らない人、なんだったら住んでいる人も意識しないと落ちるよ。
家に帰ってきたら穴に落ちたとかイライラしちゃう。
落ちなくても足を引っ掛けて転びそう。
落とし穴を慎重に避けて外に出ると、
「お、遅かったね〜。迷った?」
動きやすそうな袴姿のお姉ちゃんが待ってた。
「あ〜、まあ、そんな感じ」
迷ってません。
部屋の仕掛けに興奮して、家を調べてました。
「ほら、鍛錬するから、こっちに来て」
鍛錬?!
そんなの聞いてない。
「よいっしょっと〜。文女は小さいから軽いわ」
立ち止まった私は軽々と抱き抱えられ奥に連れて行かれた。
「今日は文女が自分の体について知るために、私と木刀で稽古しま〜す。はい、これ文女のね」
「ありがとう?」
差し出された木刀をうっかり貰ってしまった。
「よし、準備できたし、初めよっか」
え?
始めるって......。
「行くよ〜」
呑気な声とは裏腹にめっちゃ早い。
お姉ちゃん、人間やめた?
どう見ても人間じゃないよ、その動き!
本当に稽古?
当たったら、私壊れるよ?
今まで避けていたけどこのままじゃいつか壊れるので自分の身を守るために木刀で応戦した。
前世で剣道やってて良かった〜。
「やりたくなさそうだったけど、やれば出来るじゃん!このままついて来れるかな?」
「頑張るよ」
余裕を持ってる風に返したけど、内心では全く余裕なんてない。
避けた瞬間に次の攻撃が来る。
どこに来るのかなんて分からないから、今までの経験と感覚で避けてる。
攻撃も、剣道の癖で頭と腕とお腹と首しか出来ない。
「はい、一旦休憩〜」
終わった。
息は切れないし体も疲れていないけど、精神的に疲れる。
「未来でも剣術ってあるのね〜。そんなに上手いんだったら鍛錬から逃げなくても良かったのに」
忍者の鍛錬て剣道の稽古よりもキツそうな感じがしたので、逃げようと思いました。
「私が剣道をしているってよく分かったね」
「こう見えても見る目はあるのよ。文女の動き、私が人形に仕込んだものじゃないもの」
「もしかして、階段から落ちても着地出来たのは、その仕掛けのおかげ?」
「そうよ。剣術とか避け方とか、後、鉄砲とかも入れた気がする」
思っていたよりも色々できるっぽい。
「鉄砲ってどうするの?ここに鉄砲なんて物騒なものないよ?」
視界に入るのは、弓道部が使っていそうな小さい的に倉庫ぐらい。後、でかい庭。
「そりゃあ、ないわよ~。万が一敵が来た時に武器が取られたら大変でしょ?だから、武器は隠しているのよ。そういうことだからね、文女の鉄砲はあなたの中に入っているのよ。試しに、そうね......あそこの的をめがけて撃ってみなさいな」
「撃つってどうやって?」
この体には鉄砲なんて見当たらないけど。
「心でしてほしいなって願うとできるから」
抽象的な......。
まあ、やってみるか。
ゴム鉄砲をするときの指にして、あそこの的に当たって欲しいな......なんだったら中心で。
......やっぱり、お願いするだけじゃ出来な......。
バンッ!
え?
なんか的の、しかも中心に穴が開いてる......。
出来たんだ......。
的に穴空くって、殺傷能力高そう。
これは封印だね。
「どう?初めての鉄砲は」
「もう二度使わん」
「文女は鉄砲が苦手みたいね〜」
苦手じゃないけど、こんな危険なものを私の中に仕込むな!
もう、いっそうこの機会に私の体に仕込んだもの全部教えてもらおう。
「鉄砲と剣と回避以外に何仕込んだ?」
「......」
「お姉ちゃん、他にな・に・を仕込んだの?」
この人の扱い方も慣れてきた気がする。
「......でも、刀だけよ?さっき、文女から科学?を教えてもらったからもっと改良する予定だけど」
これよりももっとやばくなるのかよ。
「ほどほどでお願いします」
「それはちょっと無理かな〜。自分の身は自分で守る。これは、戦国の鉄則だからね。みんな自分のことで精一杯だから助けなんて考えちゃだめよ」
そういうお姉ちゃんの顔には戦国を生きる強い覚悟と決意が見えた。
どこからか、声が聞こえる。
「あれ?でも、動かないぞ?」
そりゃあ、突然でしょ。私、たぶん死んだし。
「あ。儂としたことが仕掛けるのを忘れた」
突然、視界が開けた。
どうやら、死んでなかったみたい。
仕事が終わらなかったことをどうやって部長に謝ろう。
「お、目が開いたな」
「え?」
目の前には大河ドラマで見るような服を着た男がいたせいで、驚きが声に出ちゃった。
今の職場ってスーツの人がいっぱいで着物で行く人なんて見たことない。
ほら、周りだって、サラリーマンとか私みたいなOLさんがいっぱい......
「は?」
さっきから語彙力がないような言葉しか出ないけど、仕方ないよね?
右には兼六園みたいな庭。うん、ここは仕事場じゃない。
左に襖。こんなの無かった。私の左は廊下だったし。
正面に爺。
「ここどこなんですか?!私の職場、1日でリホームしちゃった?!」
「この人形に話すからくりは仕込んでなかった......。
つまり、儂の秘術は成功だ!お主、どこから来たんだ?リホームとか南蛮のような言葉を使っていたが」
南蛮ってことは、ここは戦国時代なのかな?
「今って何年ですか?」
「今年で元亀元年だ」
え?!
元亀元年って確か1570年ぐらいだよね。
「お主の質問に答えたから、今度はこっちの質問に答ええてくれないか?」
「答える前にもう一つ質問があって......。あの、私がどこから来たなんて、どうして分かったんですか?」
「ああ、それか。それなら簡単だ。私が幻術でお主の魂を呼んだのだからな」
はぁ⁈
いや、いくつかの書物には記されていたけど、まさか、本当にあるなんて......。
一体、この爺何者なんだ?
「私は、えーっと、今からざっと400年ぐらい後の時代から来ました、以上!あなた、一体何者なの?」
「え、儂?儂は、果心居士だ。なあ、儂、未来で有名か?」
果心居士って、本当に存在したんだ......。
現実離れしているから、てっきり本の中の人だと思ってた。
「まあ、忍者の本には載っていますよ。そこまで、知名度はないけど」
知る人ぞ知るみたいな感じかな。
「未来で知られているとは......。忍びとして不覚」
「いや、そんなに落ち込むことないよ。凄すぎて、伝説上の人物になっているから」
「それなら、安心だ。ところで、お主、名は?」
前の人生で使っていた名前もあるけど、せっかく、戦国時代に転生したからそれっぽい名前が欲しいな。
「名前はあるんですけど、こっちに来たので名前を変えたいなって」
「そうか。なら、儂がつけよう。......文女なんてどうか?文月に作った女の人形だからな」
『あやめ』か~。
良い響きだけど、ちょっと待って。文月に作った女の人形で、『あやめ』......。
まさか、
「『文』に『女』で『文女』ですか?」
「そうだが」
マジかよ。
まあ、漢字さえ見なければ可愛いし気に入ったからいっか。
「ねえ、果心居士さん。私をこれからどうするの?」
「?当然、お主を儂の娘にして育てる気だったが、不服か?」
「いや、不服とかなくて......。娘になるのは特に問題ないけど、年齢的に、娘じゃなくて孫では?」
果心居士は私が爺呼びしているぐらい、どこからみても老人。
今の私の外見は分からないけど、爺が私を人形呼びして視線がかなり下になったからかなり幼い人形に転生したんだ。
この時代の結婚は私がいた未来よりもかなり早いから、老人の娘として注目浴びそう。
孫にした方がまだ世間から注目されない気がする。
てか、そもそも人形だしどっちにしても注目するか。
「ん?......うっかりして、変装解くの忘れてた!ちょっと待っててな」
急に爺の姿が消えた。
流石、現役忍者。
何か忍術使っているのかな?
爺がいない間に自分の姿確認しておこっと。
まず、手。
赤切れなんてない白くてすべすべ.......!まさに白魚の手!本物の手みたい!
次に体。
って、私何も着てないじゃん!
......それは置いといて、どうやって作ったんだ?前世の化学技術を使ってもこんなの出来ない。
普通に弾力があるし、この体は幼いながらもなかなかなだな。成長した姿が恐ろしい。
でもさ、やっぱり、手と体よりも顔が見たい。
こんなに凄い体ならきっと顔も中々な気がする。
鏡みたいなもの......。
あ、あったあった。
机の上に置いてある水の入った皿をのぞき込むと今世の顔が映し出された。
これ、本当に私⁈
一言で言うと、人形。
いや、確かに私は人形だけど、何というか、感情が欠落しているというのか、人間離れしているというのか......。
幼さが残っているけど既に完成された顔のパーツ。
前世の私、一欠片も伝わっていない。
ここまではいい。前世の姿も全く感じることが出来ないけど想定の範囲内。
問題は目。
全く瞬きしないし、感情が入っていない。完全に闇がありそう。
闇なんてないんだけどな。
「どうだ、自分の姿は?」
「わ⁈急に後ろから声をかけないで......」
後ろを振り向いたら、爺じゃなくてめっちゃ美人なお姉さんがいた。
「だっ誰⁈」
「誰って、あなたのお母さんよ~」
「いやいやいや。さっきのしわがれた声は?あの姿は?」
声がマジの女性になっている......。
「さっきの姿は変装よ~。こっちに戻るの忘れちゃった」
語尾に『てへっ』が付きそう。
「人格変わりすぎない?」
「そお?いつもこんな感じよ~」
いつもなんて知らないわ。
今、来たばかりだし。
「さっきの姿に戻ってくれない、お爺ちゃん?」
「お、か、あ、さ、ん、よ?」
めんどくさっ。
それに、お母さん呼びはちょっと......。
「......おねえちゃん、元に戻って」
「え、嫌。それに、この姿だからできることもあるのよ~。今みたいに、文女に服を着せることもできるのよ。女子用の服持ってきたから」
そういえば、私、何も来ていなかったんだっけ。
でも、着物なんてどうやって着るんだ?
「心配しないで~。私が着せるから」
「ありがとうございます」
「ねえ、文女。さっきから色々混ざっているから、どちらかに統一した方が良わよ〜」
「分かったよ。......お姉ちゃん」
「まだ、恥ずかしいの?その反応、初々しくて可愛い。お母さん呼びしても良いのよ?何だったら、お父さん呼びでも」
初々しいってしょうがないじゃん!
私、前世で一人っ子だったから、読んだことないもん。
お母さんだけではなくお父さん呼びもOKなんて、今はお姉さんだけど、本当の性別はどっちなんだ?
取り敢えず、お姉ちゃん呼びにしておくか。
いつになったら慣れるのかな......。
「よし、出来た!よく似合ってるわ〜」
お姉ちゃんがどこからか磨かれた金属を出して、私の前に置いてくれた。
ヤバい。
さっき、水を鏡の代わりに使って見たけど、服を着ると着ないじゃ大違い。
あの顔に紫の着物で相乗効果が半端ない。
何か良い感じに見えるオーラでも出ているのかな?
「着物を着れないなんて、文女がいた時代は何を着ているのかしら?もしや、着ないで......」
「いや、着ているわ!洋服っていう、外国から来た服。着物は夏祭りとかしか着ないかな」
「外国って?」
「えっと、南蛮のことかな」
南蛮はヨーロッパのことを言うけど、外国だから大体一緒だよね。
「へ~。南蛮の。最近、南蛮で作られた布も市で見かけたりするのよ。でも、文女が着ている物はここで作られたものなの~。この着物は私たちの仲間が作っているから、いろいろと特殊なの」
特殊?
見た感じ、普通の着物にしか見えない。
「生地が薄いとか?」
「それだけじゃないのよ。私の仕事は文女も知っている通り、忍び。情報収集や暗殺が主な仕事。普段着のままで行ったりするから、たくさんの武器が入るようになっているし、生地も丈夫で着られにくくなっているの。他にも、殺菌作用のある植物で染められているから、川とかの水をすくってそのまま飲めたりできるのよ」
この着物ってそんな凄い物だったんだ。
ただ、着物とは関係ないけど、お姉ちゃんの説明で一個だけ危ないことがあったから伝えとこう。
これが原因で病気とかになったら嫌だしね。
「お姉ちゃん、川の水はそのまま飲んじゃだめ。お腹壊すよ」
「殺菌作用の植物で染めているから、大丈夫よ?」
そっか。
当然だけどこの時代はまだそんなに医療技術が発達していない。
一応、歯科とか眼科とか専門分野が細分されているし、金創医っていうヤブ外科医(一部は優秀)もいるけど、まだ西洋医学は伝わっていなくて、手術は麻酔なし。
傷口を縫うようになったのは戦国末期。
治療法もヨモギとかを布に巻き付けて使用しているし、間違った治療法のせいで傷が悪化して命を落とすのも少なくない。
「そんなんじゃ菌は死まないから、水を加熱しないと。それに、加熱する前に水の中に何か入っているかもしれないから、布とかを通した方が良いと思う」
「へ~。加熱だけで病人を減らせるのね。それは未来で?」
「そうそう」
「他には!医療だけじゃなくて技術とかも」
これ、言って大丈夫なのかな?
私が言ったせいで歴史が変わるとか洒落にならないぞ。
「......他言無用できるなら」
「出来ないとこの仕事できないわよ」
確かに。
忍者なんて絶対に漏らしたらダメだもんね。
というわけで、元いた時代の化学技術とか医療技術とか知っている範囲で話した。
「四百年でこんなに進むのね~。好奇心が刺激されてくるわ。特に科学とか後で試してみようかしら」
人に見られないように、後で言っとこっと。
「ということは、未来から来ている文女はこの後何が起こるのかも知っているのね?」
「それなりに」
嘘です。
戦国時代を愛して、数少ない休日は戦国雑誌を、連休だったら城巡りしてました。
あぁ、読めなかった最新刊が見たくなってきた......。
「ということは、誰が天下取るのかも?」
「うん。そういえば、お姉ちゃんは誰に仕えているの?」
もちろん誰にも仕えていない忍者もいるけど、読んでいた忍者本に出てくる忍者は大体が誰かしらに仕えていた。
「私は家康様よ。放浪していた私を拾ってくださったのよ〜」
家康って、あの徳川家康?!
私の推しじゃないけど、そんな有名人が身近にいるなんて......。
いや、でも、ワンチャン、私が知らない武士で家康という人がいるかもしれない。
「家康様って、徳川の?」
これで違うとか言われたら、私の期待返して欲しい。
「そうよ。最近、帝から徳川の性を許されたから、松平から徳川になったのよ」
徳川の性になったのは、1566年だから今から4年前。
意外と前だな。
4年あればオリンピックが開かれるぞ。
でも、スポーツにはそんなに興味がなかったから、オリンピックは開会式と閉会式だけ見ていたっけ。
「それで、誰が天下取ったの?」
「最終的には徳川家康かな。まあ、その後も色々ごたついていたけどね」
「流石、家康様ね。でも、天下を取ったのに戦があるなんて、意外だわ。天下を取ったら、戦のない世界にはならないのね」
「まあ、でも、その後すぐに戦がなくなるから」
「まだ先の天下統一された光景を見てみたいけど、戦がないなら、忍びをいらなくなるのね。別のことを仕事にしないと」
「そんな必要はないかな。戦がなくなっても忍者のことは記録に残ってあるよ。まあ、今よりは数とか減ると思うけど、幕府の監視とかをするようになるから、仕事はあると思う」
記録に残っているのは黒船来航の幕末までだから、その後は分からないけど。
「それなら、安心ね。よし、文女から色々と聞けたし、鍛錬がてら外に行くわよ」
「え?私、運動とかは無理なんだけど」
「大丈夫よ、この人形には色々な仕掛けがあるから。準備したいから、先に外で待っているね〜」
「あ、待っ」
言っている途中で、姿を消した。
人の話を最後まで聞けよ!全く......。
あの、私、この家の構造分からないんですけど?
それに、この部屋には窓とか襖なんて見渡す限り存在しないんですけど⁈
ということはこの家ってあの有名なからくり屋敷なのでは?
やばすぎ!うぉぉぉぉぉぉぉぉ!
めっちゃ興奮する。
本で読んだり伊賀の忍者博物館でからくり屋敷に行ったことあるけど、やっぱり当時の時代で本当に機能している忍者屋敷に今いるなんて、今日一番嬉しいことかも!
いや、一番は戦国時代に転生したことだから二番目か。
......興奮して目的を忘れるところだった。
早く外に出よう!......ここから外に出れるかな?
自宅で迷子とか洒落にならない。
とりあえず、今どこにいるか考えよう。
この部屋には窓があって襖もあるけど戸がないし、天井が屋根の茅葺じゃないから現在地は二階。
ここの戸棚はさっきお姉ちゃんが使っていたから、仕掛けがないはず。荷物なんておいたら通行の妨げになるからね。
でも、一応見ておくか。
扉を開けると、中にはいっぱい木材とかが入っている。
奥とかにもなさそう。
後、怪しいのは床の板と壁かな。だけど、壁から一階に降りるのは場所的に無理だから床な気がする。
というわけで床の板を一つずつ触っていくと、一か所だけ動いた!
他のところも確認してみると、もう一つある。
最初に見つけた床板を外してみると、階段になっている棚が真下に見えて、一階の畳の床が見える。目的達成!
ここから降りれば一階に行けるけど、もう一つも気になるんだよね~。それに壁も知りたいし。
一階に降りた後二階に上るのは効率が悪いので、後で見つけた床板と壁も今調べちゃおっか。
床の板をさっきと同じように開けると中は空間があって、入ってみると一階の様子が丸見え。一階の様子を見る監視部屋か。
空間から出て、四方にある壁を押しながら歩くとなんと、回転した!
予想していたけどこれがからくり屋敷といえば絶対にありそうなどんでん返しか。
しかも、一回転じゃなくて半回転というところがまた良い。
半回転だと回した方が回らなくなるからより侵入者を翻弄できる。
押した方と反対側を押して中に入るとビンゴ!
三階に行く階段はっけーん。
二階がお姉ちゃんの趣味部屋化しているし一階は日常空間だから三階に忍者関係の物はありそうだけど、勝手に行くのも後でばれた時が怖いから行かないでおこか。......いつか絶対に三階に行ってやる!
壁を抜けて、一階の階段があるところまで戻ったけど、ここで一つ問題が発生。
ここから、どうやって降りよう?
階段は上り専用だから下ろすことは出来ない。
となると、ここから飛び降りるしか方法はないんだけど......。それなりの高さがあった。
普通に一メートルは超えてそう。
それぐらいの高さから落ちても折れたりしないよね?
ううぅ、転生した直後に飛び降りるなんて......。でも、これしかないし......。
取り敢えず、ぎりぎりまで降りて長さを減らそう!うん、そうしよう!
上に上がっている階段に足を掛けて降りようとすると、着物の裾を踏んで足が滑った。
あ、やばい、落ちる!
穴の入り口に手を掴もうとするけど、穴が何故か無くなっていて掴めない。
二メートルから落ちても人形ってもつのかな?床が畳だから痛そう。
軽く現実逃避していると、急に体が動いて畳に着地した。
何で体が反応したのか分からないけど、ラッキー!
体を一通り動かしても痛くないから、怪我はしていないみたい。
もしかして、この現象って、異世界好きの友達がよく言ってた、チートとかいうものでは⁈
異世界ファンタジーあるあるの主人公のチート能力。
それなら納得いく。なんせ、私、主人公の鉄板ネタの転生したし。
歴史も好きだったけど、異世界とかに行くファンタジーとかも好きだったんだよね。
裾で滑るというなんとも言えないことしたけど、凄いの持っていそうなことが分かったから落ちて良かったかも。
よし、気を取り直して外に行くための玄関を見つけよう。
流石にからくり屋敷とはいえ、玄関くらいはありそうだし。
玄関って家の端らへんにあるイメージだから、こことは反対の方にありそう。
戸と襖があるけどどっちからいこうかな?
部屋の構造的に横には一つぐらいしか部屋がなさそうだし戸から行こうかな。
四つの戸があって、ここを開けると隣の部屋に行ける仕組みね。
なら、ここは端を開けよっかな。
こういう戸って人間の心理を利用していて、一番最初に手に掛けがちな真ん中は開かずに両端が開く仕組みになっているからね。
左端の戸を開けると動いたので、部屋に入ってみると仏壇と掛け軸がある。
壁と襖で囲まれいて、罠とかありそう。いや、絶対にある!
今のところ私が通ったところ全部に何かしらの仕掛けがあったし。
でも、なんの罠かを考えるのはいつでもできるから、気になっている掛け軸から動かそう!
水墨画が描かれた掛け軸の裏には、これまた定番の通路を発見!
中は暗くてよく見えないし、危ないから入らないでおくけど外に繋がる道があるよね、きっと。
てか、このままだと家の捜索だけで終わって、外に出られなくなりそう......。
掛け軸を元に戻して来たものとは別の襖を抜けると広間みたいになっていて、囲炉裏があった。
ここは現代でいうリビングダイニングかな。
囲炉裏って何かあるよね〜。
......外に行くための玄関もきっとこの近くにあるし、調べても大丈夫。
囲炉裏の火が消えていることを確認して横に引くとやっぱりあった。
これ考えた人凄いと思う。
だって、囲炉裏が引き出しみたいになっていて、その下には外に出れる地下通路があるんだから。
知らないと分からないんよね。
初めてみた時驚いたもん。
からくり屋敷の中で一番凄い仕組みな気がする。
囲炉裏を弄った痕跡が残らないよう元に戻して、ようやく目的の玄関までたどり着いた。
いや〜、長かった、長かった。
玄関には竈があったり、奥には物を置くスペースをある。
私の家の玄関よりをはるかに広い。
......ちょっと羨ましい。ちょっとだけだよ。ちょっとだけ。
丁寧に置かれた草履を履いて、外に行こうとすると、......あれがあった。
玄関のすぐに落とし穴。
この家作った人って防犯対策がすごい。
下見てなかったら、嵌っているところだった。
しかも、この落とし穴、場所が嫌らしい。
玄関から大体一歩目くらいの場所にある。
何も知らない人、なんだったら住んでいる人も意識しないと落ちるよ。
家に帰ってきたら穴に落ちたとかイライラしちゃう。
落ちなくても足を引っ掛けて転びそう。
落とし穴を慎重に避けて外に出ると、
「お、遅かったね〜。迷った?」
動きやすそうな袴姿のお姉ちゃんが待ってた。
「あ〜、まあ、そんな感じ」
迷ってません。
部屋の仕掛けに興奮して、家を調べてました。
「ほら、鍛錬するから、こっちに来て」
鍛錬?!
そんなの聞いてない。
「よいっしょっと〜。文女は小さいから軽いわ」
立ち止まった私は軽々と抱き抱えられ奥に連れて行かれた。
「今日は文女が自分の体について知るために、私と木刀で稽古しま〜す。はい、これ文女のね」
「ありがとう?」
差し出された木刀をうっかり貰ってしまった。
「よし、準備できたし、初めよっか」
え?
始めるって......。
「行くよ〜」
呑気な声とは裏腹にめっちゃ早い。
お姉ちゃん、人間やめた?
どう見ても人間じゃないよ、その動き!
本当に稽古?
当たったら、私壊れるよ?
今まで避けていたけどこのままじゃいつか壊れるので自分の身を守るために木刀で応戦した。
前世で剣道やってて良かった〜。
「やりたくなさそうだったけど、やれば出来るじゃん!このままついて来れるかな?」
「頑張るよ」
余裕を持ってる風に返したけど、内心では全く余裕なんてない。
避けた瞬間に次の攻撃が来る。
どこに来るのかなんて分からないから、今までの経験と感覚で避けてる。
攻撃も、剣道の癖で頭と腕とお腹と首しか出来ない。
「はい、一旦休憩〜」
終わった。
息は切れないし体も疲れていないけど、精神的に疲れる。
「未来でも剣術ってあるのね〜。そんなに上手いんだったら鍛錬から逃げなくても良かったのに」
忍者の鍛錬て剣道の稽古よりもキツそうな感じがしたので、逃げようと思いました。
「私が剣道をしているってよく分かったね」
「こう見えても見る目はあるのよ。文女の動き、私が人形に仕込んだものじゃないもの」
「もしかして、階段から落ちても着地出来たのは、その仕掛けのおかげ?」
「そうよ。剣術とか避け方とか、後、鉄砲とかも入れた気がする」
思っていたよりも色々できるっぽい。
「鉄砲ってどうするの?ここに鉄砲なんて物騒なものないよ?」
視界に入るのは、弓道部が使っていそうな小さい的に倉庫ぐらい。後、でかい庭。
「そりゃあ、ないわよ~。万が一敵が来た時に武器が取られたら大変でしょ?だから、武器は隠しているのよ。そういうことだからね、文女の鉄砲はあなたの中に入っているのよ。試しに、そうね......あそこの的をめがけて撃ってみなさいな」
「撃つってどうやって?」
この体には鉄砲なんて見当たらないけど。
「心でしてほしいなって願うとできるから」
抽象的な......。
まあ、やってみるか。
ゴム鉄砲をするときの指にして、あそこの的に当たって欲しいな......なんだったら中心で。
......やっぱり、お願いするだけじゃ出来な......。
バンッ!
え?
なんか的の、しかも中心に穴が開いてる......。
出来たんだ......。
的に穴空くって、殺傷能力高そう。
これは封印だね。
「どう?初めての鉄砲は」
「もう二度使わん」
「文女は鉄砲が苦手みたいね〜」
苦手じゃないけど、こんな危険なものを私の中に仕込むな!
もう、いっそうこの機会に私の体に仕込んだもの全部教えてもらおう。
「鉄砲と剣と回避以外に何仕込んだ?」
「......」
「お姉ちゃん、他にな・に・を仕込んだの?」
この人の扱い方も慣れてきた気がする。
「......でも、刀だけよ?さっき、文女から科学?を教えてもらったからもっと改良する予定だけど」
これよりももっとやばくなるのかよ。
「ほどほどでお願いします」
「それはちょっと無理かな〜。自分の身は自分で守る。これは、戦国の鉄則だからね。みんな自分のことで精一杯だから助けなんて考えちゃだめよ」
そういうお姉ちゃんの顔には戦国を生きる強い覚悟と決意が見えた。