次の日、私はいつもより早く学校に行った。7時でも既に校舎内は開いていて、警備員さんの出勤時間の早さに驚かされる。まだ誰もいない廊下を辿り、例の場所に着くと、そこには颯がいた。私の方を向くなり、片手を上げる。


「よう」

「おはよ。早いね」

「まぁな。てか、昨日は大丈夫だったのか?」

「うん。おかげさまで」


 昨日、学校を出た時にはもう空が暗くなり始めていた。夏なのも関わらず、だ。危うく2人して校内に閉じ込められそうだった。というのも、中々涙が止まらなかった私を、颯はずっと慰めてくれたから。


「それで、どうしてこんなに早く来たの?話って何?」

「ああ。実はさ」


 颯は徐にカバンの中に手を突っ込んで、一枚の紙を見せてきた。それは生徒会執行部から発行されたもので、9月に生徒会選挙を行うというもの。


「これが、どうしたの?」

「実は話したいことってこれでさ。紗夜、生徒会長に立候補してみたら良いんじゃないか?」

「ええっ!?」


 想定してない提案に、必要以上の驚きの声が出る。


(私が生徒会長!?)


 学級委員すらやったことのない私が、果たして務まるものだろうか。


「ほら、紗夜は昨日さ、自分の髪色のことで、何が出来るんだろうって悩んでたじゃないか」

「それはそうだけど……」

「それで、出来ることってこういうのもありだと思うんだよ。学校を内側から変えていく。それで、認めさせるって。結構難しいことを言っているのは俺も分かってる。けどさ、やってみる価値はあるんだと思う」

「そう、かもしれないけど……。私に、出来るかな?」


 そもそも、私なんかが立候補していいんだろうか。立候補したとして、誰が私なんかに票を入れてくれるだろう。次から次へと不安が膨れ上がる私に、颯は「大丈夫」と強く言い切った。


「紗夜ならできる。俺も、副生徒会長に立候補するから」

「本当?」

「ああ。それで、2人でさ、この学校を変えていこう」

「学校を、変える……」


 あまり現実味を帯びない言葉だった。そんなの、フィクションの中でしか聞いたことない。だけど、颯と一緒なら、そんなことでも実現できそうな気がした。


「……うん。分かった。私、やってみる!」

「そう来なくっちゃな」


 やる気に満ちた私たちは、お互いにハイタッチを交わした。