春も終盤に近づき、気のせいか、夏の香りさえ感じるようになってきた。今日も今日とて、屋上へ続く階段は私たちの秘密基地となっている。


「よう」

「ん、やっほー」


 気づけば、昼休みにはこの階段で颯と昼食を取るのが日課になっていた。人が1人増えただけなのに、その時間が今までとは違うものに思えた。私と颯は、たとえ教室では言葉を交わさずとも、この二人きりの空間になればお互いになんでも話すことができる。


「今日の授業めっちゃ眠かった」


 目を擦りながら颯が呟く。眠気覚ましか、傍には缶コーヒーがあった。


「あはは、颯ずっと寝てたもんね」

「見てたのかよ」

「ちょっとだけ。あと、先生に怒られてたし」

「あー、あれは良くなかったな。今度からはバレないようにしないと」

「て言うか、そもそも寝ないの」

「まぁな」


 気をつけるか、とコーヒーをいっきに喉に流し込む姿に、私はまた笑った。


 こうして、ただ他愛のない会話で笑い合う。一般人からしてみれば、それは日常のごく一部、当たり前のことなんだろうけど、私にはその時間が、1日の中で一番幸せな時間だった。


「てかさ、最近暑くね?」

「言われてみればそうだね。まだ梅雨も明けてないのに、夏みたいな気温だよね」

「だよな。去年はもっと涼しかったのに」

「今日なんて最高気温27度だよ」

「これこそ地球温暖化のせいか?」

「ふふっ、確かにね。もうその言葉に聞き飽きてきたけど、改めて実感するよね、こんなことが起きると」
 

 梅雨明けは何処に行ったのやら、と思わせるほどの熱気と晴天。私が幼い頃は、もっとちゃんと四季があったはずなのに。


「世界って、ほんの僅かな間で変わっちゃうんだね」

「そうだな」


 2人の間に、しんみりとした雰囲気が流れる。


(こんな風に、私に対しても世界の態度が変わればいいのに)


 もちろん、良い方向に。