そんなこんなで事件の終幕後、慌ただしい日々を送っていたが、ようやく落ち着いてきた今、どうしてもやりたい事があった。
 それは母や、祖母、今まで笹野家を繋げていってくれた御先祖様に、折成さんの妹――成兎さんのお墓参りだ。
 とはいえ母達は羅刹様に食べられ、遺骨も残っているわけではない。その事を知らなかったとはいえ、元よりお墓など存在しなかった。だから、お墓参り――というよりは、神社で人気の少ない時間に、神に手を合わせていたことが多い。
 そして成兎さんも、妖故に時間と共に消えてしまっている為、実際に眠る場所は存在しない。寿命で亡くなった者含め、鬼族の残された者達は慰霊碑を立て、一族で弔っている。
「――御先祖様達、もう悲しまなくても大丈夫です。……終わったんです」
 私は膝を折ると、慰霊碑に向かい静かに手を合わせた。
 笹野家の人達は生贄だった為、いくら花嫁でも鬼族の里で一人ずつ名を刻まれることは無い。生きた証さえ残す事は出来なかった。
 しかし一件の後、一部の人達が、慰霊碑に笹野の名前を入れてくださったのだ。此処で死んだ者として、弔う事を許された彼女達は、きっと、救われたのではないだろうか。
(お母様、お祖母様……私のことを見守っていて下さい)
 私は祈る。そして、
「成兎さん……、巻き込んでしまってごめんなさい。突然、命を奪ってしまってごめんなさい。どうか……どうか、安らかに」
 成兎さんへ謝罪と共に手を合わせた。
 謝罪だけじゃ絶対に足りない事はわかっているからこそ、手を合わし続けた。

 ――お墓参りを済ませ立ち上がろうとした時「結望様」と、黄豊さんの声が後ろから届いた。
「黄豊さん……」
「結望様……、あんまりご自身を責めないでくださいね」
 黄豊さんは近づくと、私の手を優しく握り締めた。
 私の表情が沈んでいたからだろう。手の甲を何度か撫でて「貴女は被害者ですから」と慰めの言葉を掛けてくれる。
「ありがとう黄豊さん。……でも、やっぱり私達のせいで無関係な人を巻き込んだ事実は変わらないわ……」
 私は慰霊碑を見つめながら言った。
「結望様は、お優しいのですね」
「……い、いえ……ただ、彼女達の為にも生きなくては――と、命を大切にしなくてはと、そう思いまして……」
 片方の手を心臓に添えると、自身の鼓動に耳を傾けた。まだ眠る深守が与えてくれた命の律動を。
 本来なら私は、羅刹様と空砂さんと一緒に死ぬはずだった。だけど、深守が守ってくれたお陰で今此処にいて、話したり、笑ったり出来ているのだ。
「結望様の思う世界になると良いですね。私も……そのお手伝いをさせて下さい。結望様の笑顔を沢山見たいですから」
 黄豊さんはそう言って微笑んだ。
「……黄豊さん……っありがとうございます……! こんな私ですが精一杯頑張ります、よろしくお願いいたします……!」
 私も黄豊さんに向かって微笑む。
 頑張って、頑張って、皆の役に立って、支えてもらって、協力しながら生きていこう。
 だから見守っていて下さい。
 願った未来、優しい世界になるように――。