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「学校祭の出し物を決めたいと思いまーす」

 担任の先生からバトンタッチを受けた、学校祭実行委員の大橋さんが、黒板の前に立って司会進行を始めた。

 夏休みが終わり、学校祭の話題が出てくると、もうこんな時期なのかと毎年思う。
 我が校の学校祭はとてもこじんまりとしていて、体育館でクラスごとに出し物を発表するだけの、青春きらきら感があまりないものだ。

「意見がある人、手を挙げてくださーい」

 大橋さんは意見を募るがしかし、みんなひそひそとまわりと話をするだけで、意見はなかなか挙がらなかった。
 どうなるんだろう……と、場の流れを対岸からこっそり見つめていると。一番前の席の、活発で有名な小針さんが手を挙げた。

「合唱がいいと思います」

 直後、ざわざわと空気が波立ち始めた。

「うちのクラス、合唱部多いしいいんじゃない⁉」
「青春感強くていいかも!」

 傾きだした流れに心がざわりとした時、大橋さんが気まずそうに私を見た。

「やー、でもえっとぉ……参加できない人もいるし……」

 その声に、小さなざわざわが沸き起こる。無数の視線がこちらに突き刺さる。

 ……透明人間になりたい。本当に消えてしまいたい。
 でも私の体は、願いも虚しくここに在るばかり。

「指揮は合唱部がやるとして、あれ、えっと、相羽さんってピアノとか弾けたっけ?」

 小針さんまでこちらを振り返る。
 私は下唇を噛みしめながら、ふるふると首を横に振った。

「あー……。じゃあ合唱は難しいか……」

 落胆したように小針さんが席に着く。
 さざ波は、さああっと一気に引いていき、教室は再び重い沈黙に包まれた。

「じゃあ、他にはなにかありませんかー?」

 大橋さんの声が、どこか遠くでぐわんぐわんと響いて聞こえた。

 ……情けない。
 でも声を失ったのは、神様から私への罰なのだ、きっと。