◆ミカエル本部 総合団長の部屋

イグナルトはフラロス総団長の部屋に入いる。

「イグナルトです、失礼します。」
「おぉ、イグ来たか。」

中に入るとフラロス総団長の姿はなく代わりにライアス総副団長の姿が見えた。

イグナルトは驚きながらもライアスと会話を始めた。

「ライアスさん・・・団長は?」
「総団長は今任務に出ている。」
(任務かぁ、、)

イグナルトは心の中でつぶやく。マハイルが亡くなってからシエルに付き添ってほしいとフラロスからの直々の願いがあり今イグナルトは休職中になっていた。その為イグナルトの代わりに総団長が任務に出向いていた。

その現状にイグナルトは申し訳ない気持ちになっていた。

そんなイグナルトの考えを感づいたのはライアスだった。

「イグ・・・今は騎士団の事を気にするな、お前の仕事はシエルちゃんの心を癒してやる事だけだ。」
「・・・そうですね。」

イグナルトの返事に元気がないのに気が付きながらも話を続けるライアス。

「・・・で?シエルちゃんの様子はどうだ?マハイルの葬式後からずっとお前の部屋に引きこもってると聞いているが。」
「そうですね。部屋と言うか俺のベットからここ三日間ずっと出てないですね。飯ロクに食べずにずっと部屋で呆けてます」
「そうか・・・それは不憫だな。」
「そうですね。シエルには本当に可哀そうな事をしてしまいました。」
「いや、今のはシエルちゃんとお前に向けて言った言葉だぞ?」
「・・・は?俺ですか?」

イグナルトは驚きを隠せないでいた。

「そうだよ、そんなシエルちゃんの姿をずっと見て辛かったろうに泣き言一つ言わずにお前は本当に偉いよ。」
「・・・・俺は罪を償ってるだけですよ。」
「罪って、今回の件はお前だけが悪いわけではない。」

イグナルトの罪とはマハイルさんを守れなかった事を指す、マハイルさんが亡くなったのは全て自分の責任だと思っている。
しかし、騎士団の人々は決してそんな事を思っていない。
そのことはイグナルト自身にも分かっていたのだがそれに甘える考えはイグナルト自身には出来ないのであった。

「ですが、」
「あぁ~!めんどくさいな。いいかマハイルの件に関しては騎士団全体の油断が招いた事だ。お前だけが責任を負う事は許さん。」
「・・・ですが俺がもっと慎重にしていれば。」
「はぁ、確かにお前は自分の強さを過信している所はあるが、今回の件とそれは関連性がない。
アジトの隠し部屋を見つけれなかったこと。潜入作戦がバレたこと。マハイルの護衛を緩めたこと。
全て俺らの責任んだ、
もし、俺が他の任務に向かうのを遅らせてイグが帰ってくるまでマハイルのそばに居たらこんな事にはならなかった。
だからイグだけの責任じゃないんだよ。」
「・・・そんな事ありません。結局は俺が慢心しなければ今回の事は防げました。」

「それは違うわよ、イグ。」

イグナルトとライアスの会話に急に割って入って来たのは騎士団2番隊長のセアラである。

彼女は不作法と分かりつつ会話に割り込む事にした。

「食堂からずっと・・・いや、マハイルが亡くなってからずっと気にしていた。今回の件でイグは自分を責めすぎよ。」
「ですが、セアラさんがいつも慢心はするなと言ってくれていたの俺はその忠告を無視して・・・その結果が。」
「はぁ、実は私はイグが慢心してるとは思っていなかったわ。」
「・・・は?」

セアラの口から出た衝撃の言葉に驚愕するイグナルト。その驚いた表情を見たセアラは話を続けた。

「イグは確かに自分の強さを過信しているがそれは慢心ではなく自信よ、自身が無い人は人を助ける際に躊躇いが生まれるその結果救えない事もあるけどあなたはそれがない。」
「・・・じゃあ、なんでいつも俺に苦汁を飲ませようとしていたんですか?」
「それはあえてイグに試練を与えてもっと自信を付けさせる為よ。」
「・・・そうだったんですか、じゃあなぜいつも慢心するなと言っていたんですか?俺が油断してると思ったからでしょ?」

セアラはイグナルトの質問に対し悲しい表情を浮かべながらも優しい声で答える。

「イグに・・・今みたいな思いをさせたく無かったからよ。私と一緒の思いは。」
「・・・セアラさんと同じ思い?」

イグナルトの頭に疑問符が浮かぶ。
そんな彼を見たセアラは自分の過去を話し始めた。

「・・・あれは10番隊長になった時、私が初めて隊長になった時ね。当時の私はアナタと違い自分の力に溺れていた。その結果自分の強さを基準に考えて私の部隊の子達に無茶な任務をさせて来たわ。
その結果が20人程いた隊の全滅よ。」

自分が知らなかったセアラの過去にイグナルトは言葉が出なかった。
今彼に出来るのはセアラの話を黙って聞く事だった。

「当時の任務は上位適合者5名で組織された犯罪者集団を捕らえる任務で私が居なくても大丈夫と判断し私は単身で他の任務に私の隊は副隊長に任せてそれぞれ違う任務に向かったは。しかしその結果が悲劇を生んだのよ・・・」
「・・・そんな事があったんですね、知りませんでした。」
「12年前の出来事ですもの当時のアナタは両親を失ったばかりで大変でだったから仕方ないわ。私はあの事件で自分の強さに溺れていた事に気が付いたは。しかしイグそんな過去の私とは違ったわ。」
「俺が?」
「えぇ、あなたは自分の強さを知った上で他人の弱さを知っている。だからこそあなたは簡単に人を殺すことが出来る魔法をあまり好んで使わないのよね。」
「・・・それは手加減するのが難しいから魔法を使わない様にしてるだけで、、、」
「それがあなたのいい所よ。だからこそ、もしあなたが守る事が出来ない事があればあなたは自分を責め続けると思ったからこそあなたにはあの態度を私は取っていたのよ。」
「・・・・」

今まで自分に言った言葉の数々は全てセアラの様な悲しい思いをしてほしくなく言った言葉だと知ったイグナルト。彼女の悔しさと優しさを感じ取れる話を聞かされ彼はセアラになんと声をかければいいか悩んでいた。

そんな空気を感じ取って空気を変えるように話を再び始めたのはセアラだ。

「悪いわね。暗い話をして」
「いえ、貴重な話ありがとうございます。」
「だからこそイグは今回の事件では何も悪くないわ。隠し部屋を見つけたのは上出来だと思ったわ。それに・・・」
「それに?なんですか?」
「イグはシエルちゃんの命を救ったのよ。」
「シエルを?」
「そうよ、本当なら二人とも命を落としていても不思議じゃなかったわ。それなのにあなたはシエルちゃんの命を救ったはこれに関してはよくやったわ。」
「・・・ですが、俺はマハイルさんの命も救いたかった。」

イグナルトの目に涙が浮かぶ。この涙は悔しさと悲しさから来る苦渋の涙だ。
そんな姿を見たセアラは優しくイグナルトを抱きしめると思いきやセアラはイグナルトの背中を強く叩くのだった。
あまりの痛さに流れた涙が引っ込む

「痛っ~て!」
「いつまでクヨクヨしてるのイグ、いいこの世にはどんなに頑張っても失った命は取り戻す事は出来ない。いつまで後ろを振り返ってるの?あなたに今できる事は何?」
「俺に出来ること?」
「あなたに今できる事は2つあるわ。
一つはもう二度とマハイルの様な犠牲者を出さない事。
もう一つはシエルちゃんを元気づける事よ。」

2人の会話を黙って聞いていたライアスもようやく口を開き会話に参加する。

「そうだ。セアラの言う通りだ。お前に出来るのはシエルちゃんを元気付ける事だ。お前を今なんの為に休職扱いにしてると思っているんだ?」
「・・・ライアスさん、セアラさん。」
「分かったらさっさとシエルちゃんの元気付ける方法を考えろ。騎士団も全力で協力してやる。」
「そうね。最悪私がイグの様にシエルちゃんに愛のムチとして背中を叩いてあげるは」
「「それだけはダメ!」」

イグナルトとライアスは声を揃えて否定した。
そんな事したらシエルの華奢な体が壊れてしまうと思い二人は必死にシエルを守る行動を取った。

「冗談よ、私は女の子まで傷つける趣味は無いわ。」
「・・・女の子って、よくリーシャを虐めてるじゃないですか。」
「あの子は別よ、それよりイグ何かシエルちゃんを元気付ける方法は無いのかしら?」
「実は一つあるんですけど騎士団の協力が必要で・・・」

こうしてシエルを元気付ける為に騎士団総動員である計画が始まる。

◆その日の夜 イグナルトの部屋

「・・・フェニちゃん気持ちいい?」
「キィー」

イグナルトの部屋でシエルがフェニックスの羽を整えていた。フェニックスは気持ち良さそうにしていた。
そんな2人の微笑ましい空間に割って入る様に部屋のドアを乱暴に開けて部屋の主のイグナルトが入ってきた。

「シエル!起きてるか?」
「わぁ、なに?」

シエルは急な出来事に驚く

「あぁ、驚かせて悪い。見せたいものがあるから今から屋上に行こう!」
「・・・え?いまから?」
「嫌か?」
「いや・・・・きゃあ~!」

シエルが嫌と拒絶しようと思ったら隣で座っていたフェニックスがシエルの服を咥え持ち上げ、イグナルトにシエルを託す。

「・・・フェニちゃん?」
「よくやったフェニ。」

シエルを抱きかかえ屋上に向かた。
屋上に着くとなんといつも明るい騎士団が暗闇に包まれていた。

「おとうさん・・・こわい。」
「ははっ」

怯えるシエルを見てイグナルトは笑みを浮かべる

「なんで笑うの?」
「いや、久々にお父さんと呼ばれたから嬉しくてな。」
「・・・ぷっ、なにそれ」

シエルが少し笑ったの

「シエルに見せたい物は暗い所で見ると奇麗だから、今は電気が消えてるだよ。」
「くらいところで?」
「まぁ、見る方が早いよな、見とけよ」

そういうとイグナルトは暗闇の空に向かい手をかざすと魔法を放っ。その魔法は炎の球で一直線に空に向かう。空高くまで打ち上がったのを確認してイグナルトはその炎の球を破裂させる

弾ける炎(イグニスボム)

イグナルトが唱えた弾ける炎(イグニスボム)はいつものと地が七色に光っていた。
それは夜空に咲くキレイな花の様だった。

「・・・きれい。」
「夜空に咲く火の花、花火って言うんだよ。」
「・・・花火、きれい」

シエルは目を輝かせながら。花火を見ていると数秒で花火が消えてしまった。

「あぁ、おわちゃった。」
「まだ終わりじゃないよ」

そういうとイグナルトは下の方を指で指すとその方向をシエルが見ると騎士団の人たちが集まているのを気が付いた。

イグナルトは下で待機している騎士団員の人たちに『お願いします』と一言かけると一斉に空に向かい先ほどイグナルトが放った魔法を放つと空には種類や色の違う花火が沢山咲き誇り花畑の様になっていた。

「あはは、すご~い!」
(ようやく笑った、)

そんな光景を見てシエルは満面の笑みだった。
久々に見たシエルの笑顔にイグナルトは嬉しくなった。

そんな空に浮かぶ花火たちが10分程続くと徐々に兵たちの魔力も尽きはじめ終わりを迎えた。
楽しい時間があっという間に過ぎる。

「すごかったね!」
「シエル、最後にとっておきの花火を見せてあげるよ。」
「え?まだあるの?」
「見とけよ、久々に本気を出すからな。」

イグナルトは今度は自分の頭上に向けて手を掲げる。

燃えよ炎(イグス)

魔法を唱えると頭上には町を一つ飲み込む程の大きな炎の塊・・・・

いや、太陽があった。

「火力上昇」

頭上の太陽は火力を徐々に上げていく
赤→黄色→白と色がどんどん変化し最終的には奇麗な青色へと変わった。

「凝縮」

イグナルトの頭上にあった青い太陽はみるみる内に小さくなり。気が付けばビー玉サイズに代わっていた。

「発射」

そのビー玉サイズの火球を指先で操り今度は正面上空の空に向けて放つ。まるで指鉄砲の様に火球は凄まじい速度で上空の遥か彼方へと飛んでいき見えなくなる。

「・・・・消えちゃったよ?」
「大丈夫今からすごい物が見れるから瞬きしたらダメだよ。」

イグナルトは手を高らか上げて指を『パチンと』鳴らす

「着火」

その瞬間に空を覆う様な奇麗な青い火の花が咲いていた。
その大きさは驚愕の一言に限る下の騎士団員達はそれを見て
「おい、マジかよ・・・」
「あの魔法、やべぇぞ・・・」
「こんなデカい魔法初めて見た。」

夜が一瞬朝になる程の明るさと大きさがあり。この大きな花火はスカルダル全土で見れる程壮大な大きさであった。

驚く騎士団とは裏腹にシエルはその花火を見て涙を浮かべていた。
なぜな、この花火の形はある花の形、そして色と一致していたからだ。

「ママが、すきなお花だ。」
「この花をシエルに見せたかったんだ。」
「・・・おとうさん。」

シエルは涙を流しながらイグナルトの事を呼ぶ。
それに対し彼は耳を傾けるとシエルが急にイグナルトの頬にキスをした。
驚きつつも嬉しさが大きく今すぐにでも叫びたい気持ちを堪えシエルにどうしたのか尋ねる。

「・・・どうしたんだ?シエル?」
「ママが教えてくれたの、ありがとうはほっぺにチューって」
(マハイルさんめ・・・自分がされたいから嘘を教えたな。)
「いいんだよ、シエルが元気になってくれたらそれだけで。」
「うん、ありがとう、おとうさん大好き。」

シエルは再び空に打ちあがった大きな花火を眺めながら、過去に会話した母が好きだった花の理由を思い出す。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「まま、これキレイだよ!」
「シエル、見る目あるわね。ママが一番好きな花よ。」
「へぇ、じゃあシエルもすき!」
「あはは、そうね一緒ね。」
「えへへ、なんで好きなの?」
「見た目もそうだけど花言葉が好きなのよ。」


マハイルが好きな花は【青のカーネーション】

花言葉は「永遠の幸福」