「あれ?甲斐ってそんなとこにホクロあったか?」

 甲斐の熱が下がって数日後、休み時間にいつも通りにじゃれていた男子の1人が声をあげた。

「ほんとだ、けっこう目立つのになんで気が付かなかったんだろ?」

 律が見やると、たしかに甲斐の首筋に目立つホクロのようなものが見える。おかしい、彼にあんなものはあっただろうか?

「ああ、なんか熱下がってから気付いたらできてたんだ。だんだん大きくなってて気持ち悪いんだよな」

 甲斐が言葉ほどには気にしていない口調でさらりと言った。

「だんだんデカくなってるってヤバくない? ちゃんと病院行った方が」

「そうそう。なんか病気なら早く治さないと」

 友人たちが口々に言うが、甲斐はさほど気にしていない様子だ。

「それ、痛くないのか? また熱が出なきゃいいけど」

 律が声をかけると甲斐は目を瞬かせてからぱぁっと破顔した。

「律っちゃん俺の事心配してる? めっちゃ嬉しいんですけどー」

 その大げさな反応に律は声をかけたことを少しだけ後悔したが、時すでに遅し。いっそ調子を合わせてしまった方が話が早く終わりそうだ。

「だいぶ長いこと熱出てたみたいだし。その後変なホクロだろ?やっぱ気になるよ」

「そっか。律がそう言うなら病院行くよ。心配してくれてサンキュ」

 目を三日月形に細めて楽し気に言う甲斐に、律はひとつ頷きを返して会話を打ち切った。

「甲斐、ひいきだぞ~。俺らが言っても全然気にしなかったのに」

「えーだって律が自分から話しかけてくるなんてレアじゃん。よっぽどの事だなーって思うし」

 立ち去る律をしり目にわいわいと盛り上がる男子たち。その賑やかさを煩わしく思いながら、律は甲斐の首筋のホクロの事を考えた。

 あれから尾崎に竹垣の中を確認してもらったところ、特に変わったものはなかった。ただ、真新しい人間の足跡はついていたので、何者か……おそらく甲斐が立ち入った事は間違いない。
 土鬼の卵は……割れた破片は見つからなかったものの、もともと何個あったのか、どのくらいでかえる予定だったかは不明だ。

 ならば、甲斐の首筋のホクロは土鬼の巣に関係があるのだろう。面倒だがしばらく注意して見ておこう。