体育館の舞台に、今まで見た事のないほど大きなモニターが貼られている。
 そんな体育館前方に私たちは言われた通り集まった。
 そこには、私たち以外にも何人かの学生が居た。
 私達も含めて計10人。そういえば、放送でも"学生十名"って言っていた。
 そんなことを思い出しつつ、私はここにいる生徒全員を見渡した。
 
 
 静かに一人、モニターを見つめている【遙真先輩】、
 
 腕を組み辺りを見渡している【玲於奈先輩】、
 
 オドオドと落ち着きのない【芭田先輩】、

 怪訝な表情でモニターを見上げている【湊くん】、

 スマホで何やら調べようとしている【夏音さん】、

 訳も分からずとりあえずモニターを見ている【竜也くん】、

 無表情でどこかの床一点をただただ見つめている【不登校の子】。

 
 絡みもさほど無い学生同士が揃い、個人個人で行動していた。
「私たち以外にもいたんだ……、よかったぁ。」
 目の前の人数に少し安堵したのか、凪紗がはぁー、と体を脱力させた。
 陽菜ちゃんはと言うと……
「……」
 ……は、芭田先輩を睨んでる……。
 そんなに恨みがあるのかなぁ。こんな時にまで……。
 私は、一通り人物を見渡したと思うと、モニターに顔を向けた。
 集会で使われていたスクリーンモニターよりも壮大で立派な大きいモニター。何より、映像の元である機械がない。
 どうやって使うんだろう。巨大薄型テレビ?
「っ……。」
 すると、カツン、カツンという音を立てて、舞台袖から誰か出てくる。
 その姿を目にした人からどんどん、その場の空気が変わっていった。

  カツン。

 最後の足音がなり終わると、出てきた人物は、私たちに深くお辞儀をした。
 それにつられて、私も一応小さく会釈した。
 全身黒い服装に、短髪よりも少し長いかのような髪。その人物の瞳は、吸い込まれるほど真っ黒く染っていた。華奢と言われれば華奢。しっかりしていると言われればしっかりしてる。そんな体型をしていた。
 ……一見見ただけでは女性か男性かすら分からない謎の人物。これが、さっきの放送の主……。
「……────お集まり頂き、誠にありがとうござます。」
 そんな芯の通った声は、耳に直接響いてくるような感覚に至る。
 不気味。
 そんな単語がピタリと合う人物を前に、私は少し怖気付いていた。
「本日、皆様には此方(こちら)のイベントに参加して頂きます。」
 そう言って、モニターに映し出された題名は─────……
 
 【E,M ─── エクスポウズマーダー】

 エ、エクスポウズ……マーダー……?
「はぁ……?」
 単語の意味が理解出来た学生だけに襲う緊迫感。ここにいる数人にはそれが感じとれたらしい。
 現に、玲於奈先輩、遙真先輩、私の表情はさっきよりも険しくなった。
 ・・・凪紗は訳分からずポ〜っとしてるけど……。
「エクスポウズってなんだ?」
 場違いなほどの活発な声を出したのは竜也くんだった。
 そんな発言に、はぁー、とため息を漏らす、険しい顔の玲於奈先輩。そして、みんなに聞こえる声で翻訳した。
「エクスポウズマーダー。……─────殺人犯を暴く、見つける。」
「殺ッ……?!!」
 その単語に、全員が食いついた。そして、全員が感じ取った緊迫感が体育館全体に充満する。
「お話は済んだでしょうか。」
 その一言に、みんなは再度モニターと人物に目を向けた。
「では。この度、イベントの担当をさせていただきます。(わたくし)、【ゲームマスター】と申します。以後、お見知り置きを。」
 そう、ゲームマスターと名乗った人物はまた深々と丁寧にお辞儀をした。
 本名な訳ない名前に動揺はするが、これは序盤に過ぎなかった。
 ゲームマスターは次に、モニターの画面を変更した。
 そこに映し出されたのは、大まかなルール説明。

【《E,M───ルール説明》
 *マーダー:一名
 *プレイヤー:九名  に分かれてもらいます。

*今から約一ヶ月間(四週間)のうちに、プレイヤー同士は協力して、プレイヤー内に潜み込む裏切り者(マーダー)を見つけ出し、"処刑"してもらいます。

*学園内は基本的自由行動です。
 話し合いを有利に持ち込むためにも、団体行動をしてアリバイを作って置きましょう。

*週に一度、マーダーはプレイヤーを必ず一人、殺します。
 プレイヤーは、週に一度だけ身内から処刑する人物を選べます。処刑をしない、という選択もあります。
 (※詳細は後程お伝えします。)

*たった一度だけ、"嘘発見器"という機械を使用できます。何を、いつ、誰に/どれに、どう使うか、
 真剣に話し合いましょう。

*全員集合指示を出すためにも、放送室などの使用を許可します。

*尚、全てにおいて必ず話し合わなければならない、という訳では御座いません。
 是非騙し合い、駆け引きをしながらお楽しみください。】

 殺人。確実に一週間に一人は死ぬ。
 緊迫した空間に一筋の汗を垂らした。
「細かな説明、二役の基礎行動は只今からお伝え致します。」
 パチン、とゲームマスターが指を鳴らした時、一斉に私達のスマホから通知が来た。
「っ?!!」
 又もや全員の肩がビクンと跳ね上がる。
 近くにいた夏音さんがポケットに入っていたスマホを手に取って、画面へ指を近づける。
「お待ちください。」
 その声に、ピクんと肩を震わして、夏音さんの指が留まった。画面をタップする直前。
「只今、皆様方のメールに役職をお送り致しました。」
 ゲームマスターは、やっとの如くスマホをご覧に、というようにみんなのスマホに指先を向けた。
 その合図で、一斉にみんながスマホを開く。
「皆様方、充分なスペースをお取りください。決して、スマホ画面の役職が他の方々に見えぬよう、注意してください。」
 私たちは困惑しながら顔を見合わせると、大人しく距離を取った。
 一人一人が壁によっかかったり、しゃがみ込んだりなどして、スマホを覗く。
 そんなみんなを見届けて、ようやく私も、スマホ画面を開いた────……

       * * *

【ゲームマスター】と書かれたメールアイコンをタップして、全員が自分の役職に目を通す。



  * 二役のルール説明 *

【《生徒》──貴方は只今から"プレイヤー"です。

*週に一人、"処刑"するプレイヤーをお選びください。是非話し合ってマーダーを見抜きましょう。実行有無は自由です。
 ※"処刑"の仕方、場所は問いません。
      お好きに生きながらえてください。

*マーダーは週に一度、必ず殺人を犯します。殺されぬように注意してください。

*プレイヤーが一人になるまでにマーダーを"処刑"してください。

*処刑の"タイムリミット"、現在の"実行有無"を校庭のモニターから確認しておきましょう。


【尚、残り人数が一人になってしまった場合、
……─────問答無用でゲームオーバーです。】

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ()は、そんな画面を見て安堵する。その拍子にはぁ、というため息を漏らした。
 体育館の端でスマホを胸に一気に脱力をする(自分)

 だが、それと共に最後の一文字が頭を過る。……絶対死にたくなんかない。
 だからって、……お互いに争いたくもない。
 

       * * *

  *二役のルール説明*
 
【《殺人犯》──貴方は只今から"マーダー"です。

*週に一人、仲間からバレないように殺人を犯してください。
 ※殺し方、騙し方、交渉の仕方は問いません。
        お好きに生きながらえてください。

*自分が"殺人犯"である事がバレぬよう、処刑されぬように立ち回りましょう。

*処刑の"タイムリミット"、現在の"実行有無"は校庭のモニターから把握しておきましょう。

【尚、殺しを行わなかった場合、
      ……─────ご本人が死にます。】

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 

 その画面を見て、体育館の安堵する空気の一部で一筋の汗を垂らす。
 周りの皆は見渡す余裕も無く、そんなこちらを気にも止めて居なかった。
 
 ……人を、殺さないと自分が死ぬ──────。

 ルールに縛られた心臓がドクンドクンと脈を打つ。うるさい。
 距離は空いていると言っても、みんなにバレるでは無いか。

 ……───────ッ。

 そんな一瞬。今の姿を誰かに見られた気配がして××は顔を上げた────。

       * * *
 
 (恵舞)は、画面に写ったメールで役職を確認すると、スマホをポケットにしまって顔を上げた。
 体育館の端っこでみんなを見渡す。
 みんな、まだスマホで役職のルールを確認しているみたいだ。

 ……どちらの役職になっても、結局は殺さないといけない。

 本当に殺さなきゃいけないの?……ただのゲームだよね。
 そんなことを胸に抱えながら、私は正面を向いた。
 バチッと、目の前の人物と目が合う。
 目の前の子は、私もよく知らない"不登校の子"だった。
 ……どうしてこっちを見ているの?
 不登校の子は、安堵したり、絶望したりする訳でもなく、ただひたすらに私のことを見つめていた。
 いや、実際には私周辺を見渡していた。まるで、何かを探っているような動作。
 しかし、彼の真っ白な瞳に私の集中が囚われる。
 異質。そんな一言が良く似合う瞳。なんでこっちを見るの?私、何かした?怖い……。
「……────皆様、役職のご確認は済みましたでしょうか。」
 パンと手を叩いて、私達の視線を集めるゲームマスター。
 それを拍子に、私の意識も彼の瞳からそちらへ移り変わる。
「それでは、早速ゲームを開始致しましょう。ゲームを開始した瞬間。もう皆様方は敵であり、味方であります。騙し騙され、蹴落とし合いの面白いゲームを期待しております。」
 ゲームマスターは両手を広げた。
 私たちは、唾をゴクリと飲み込む。
 
「……────尚。」


 
 
『皆様一人一人が、
 
 大切な友人で在り、
 
 大切な学園生徒ということを、
 
 お忘れのないようにして下さいね?』
 

 そんな一言は、私達の脳裏にしつこくこびりついた。