放課後、僕らは並んで職員室に行く。コンコンとノックをする。
「2年の柳です。怒られに来ました〜」
「お、柳ちゃんと来たか。こっちへ来い。」
そして僕らは先生の前に行く。緊張のせいか、鼓動が早くなる。
「お前らなんで遅れたんだ?まずは桜説明しなさい。」
僕は説明しようと口を開く。声が出ない。呼吸が荒くなってきた、緊張と不安そして恐怖が重なって僕は俯いたまま何も言えなくなってしまった。
「桜?なんだ、言えないのか?」
「先生、そんな言い方したら言い難いじゃないっすか。もっと優しく言わないと〜」
「なんだと?じゃあ桜はもういい。お前が説明しなさい。」
「はーい。なんか晴人が体調悪そうだったから俺も一緒にバス降りてトイレ行くの付き添ってやったんです。病院まで行くともっとしんどくなりそうだったからとりあえずベンチ座らせて、落ち着いてから学校に来ました。」
「なるほどな。桜、お前の母親から病弱なことは聞いてる。気づいてやれなくてすまなかった。だかな、そういう時は電話をするのが普通なんだ。なんで電話もせずに勝手に、そういう所をな、、」
先生の説教は約30分も続いた。頭が痛い、あの先生話すと長いから嫌いだ。
そんなことを思いながらも僕は風雅に尋ねる。
「今日の休み時間。本当はなんて言ったの?」
今日一日中それが気になって仕方なかった。帰りのバスの時間、僕はたまらなくなって風雅に聞いてみた。
「ん?だから、言ったじゃん?先生に、」
「嘘つかないでよっ!」
僕の声が響く。周りの人が僕のことをチラチラと見る。周りの目線が気になって仕方がないが、僕はちゃんと風雅の目を見て話す。
「なんで、嘘つくの?」
「嘘って、ほんとのことだって言ってるじゃん?」
風雅は焦りながら僕に言う。でも、僕は知っている。そんなことで怖がる奴らじゃないってことを。
「バレバレ、なんだよ、」
僕は我慢できなくなって泣き出してしまった。
大粒の涙が僕の目からこぼれ落ちる。久しぶりに泣いた。いつぶりだろうか、僕は感情を表に出すことさえも忘れかけていた。すれ違う人々が僕のことをジロジロとみてくる。まるで変なものでも見たかのような目付きで。
ある子供は言う。お兄ちゃんはなんで泣いてるの?と。母親は言う。見ちゃ行けませんって。
僕は泣くのに必死で周りのことや時間のことを忘れていた。
風雅は泣いている僕を見て、慌てて言う。
「ご、ごめん。ちゃんと話すから!泣くなよ。」
そして僕らは近くの公園に寄った。風の音が響く中、風雅が口を開いた。
「先に言っておくよ。全部は、話せない。ごめんね、晴人。」
「いいよ、風雅が自分のことを話してくれるだけで嬉しい。」
僕の顔を確認してから風雅は優しく微笑んで話し出した。
「実は、最近。アイツらが俺の家に来たんだ。」
「え。なんで、?」
疑問しか無かった。風雅とアイツらは仲良くないはずだし、友達として仲良くしているところも見た事がない。
もし、僕に内緒で風雅がアイツらと仲良くしていたら、そんな不安が頭をよぎった。
もし、黒幕が風雅だったら、そんなことばかり考えてしまう。混乱して頭の中で渦を巻いているような感覚に陥った、ぐるぐるする、気持ち悪い。
不安と恐怖、そして嫉妬が入り交じって僕は自分を見失った。
「おい、晴人!落ち着いて」
風雅の声を聞いてハッと我に返る。僕はいつの間にか呼吸が乱れていた。それほど風雅の話に混乱したのだろう。汗も沢山出ている。
「晴人、はいこれ。」
そう言って風雅はハンカチを僕に渡す。僕はそのハンカチで汗を拭く。呼吸も大分落ち着いてきた。
「風雅ありがと。これは洗濯して返すから。さっきの話続けて。」
「ん、わかった。でも、無理すんなよ?なんかあったら途中で辞めるからな。」
そして僕は風雅から大体の事情を聞いた。
2人が風雅の家に行った理由は、ただイラついてフラフラと歩いていたら風雅の家の前だった。
風雅が家に着くタイミングで鉢合わせたので、そこが風雅の家だとわかったのだろう。
アイツらは遠慮もせずに風雅の家に入り、玄関の高い壺を誤って割ってしまったと言う。
本当なら弁償してもらうべきだろうけど、風雅は僕のことをいじめないなら君たちにお金は請求しない、と提案したらしい。
もちろん相手も了承した。
「風雅。色々、ありがとう。」
「いいってこと、晴人。俺らは友達だぜ?残りの学校生活ゆるく2人で楽しもうな!」
風雅は子供のようにくしゃっと笑う。僕はそんな風雅を見てこう思った。
ずっと僕だけの友達でいて欲しい。