翌日、とわはいつも通り私の部屋に入り浸っていた。そういえば気になっていたことを聞くのを忘れていた。

はる「あ、とわに聞きたかったことがあるんだけど、」

とわ「ん?」

はる「とわって、何年に死んだの?」

とわ「俺は20××。」

はる「嘘、33年も前、?」

はる「生まれた年年。お母さん何歳だった?」

とわ「20だけど、なんだよ。こんなこと聞いてなんかあんの〜?」

はる「私のお兄ちゃん、お母さんが20の時に産んだらしいの、」

とわ「同い年ってことか!んな事もあるんだなぁ」

はる「違う、おかしいの。」

とわ「何がだよ笑」

はる「いや、ごめん。」

とわ「1人で格闘中??それなら俺帰るよ。」

はる「ごめん、」

とわ「また明日来る。」

ごめんね、とわ。とわがお兄ちゃんかもしれないの。そう思ったのは出会ってからずっと。お母さんから聞いていた話の中のお兄ちゃんととわは、すごくそっくりだし、服のサイズもピッタリ。バスケもしていたと言う。あまりにも共通点が多いし、なんと言っても私が直感的にお兄ちゃんだと感じたから。信じ難い話ではあるけど、少し私の直感を信じてみることにした。

翌朝、私は確証を得るため、お母さんに聞く。まず最初はお兄ちゃんの話にちょっと触れる。そして自分から話してくれるように誘導する。昨日一生懸命立てた作戦、失敗は無いはず。

はる「ね、お母さん。お兄ちゃんの写真ない?」

まずは軽い話から。急に重い話をすると心配されるし、なんでそんなことって聞かれる気がするので、写真を話題に出す。

母「ごめんなさい、残してないの。」

はる「そっか、」

母「珍しいわね、そんなこと聞くなんて」

はる「やっぱり、知っとかないとって思って。」

これで完全にお母さんは教えてくれるはず。お母さんの性格上、嘘をつくのは苦手だし。ごめんねお母さん、今日だけ、その性格を利用させてもらいます。

母「うん、そうよね、じゃあお母さんも正直に話すわ。」

成功!って喜んだのも束の間。
衝撃だった。写真なんかいらない、それ以上の証拠がすぐそばに落ちていた。それはとわの事故当時の新聞。お母さんが話してくれたのは紛れもない。とわの話だった。

私は部屋へ行く。そして誰もいないように見える空間に語りかける。

はる「とわって、お兄ちゃんだったんだね。」

傍から見たらいないかもしれない。けど、私はとわが来てるってわかってた。そして、あの場所へ向かう。私たちが初めてあった場所。私の部屋の角にあるクローゼットの中。

はる「とわ、出てきて。」

とわ「い、いないから」

はる「いるじゃん笑」

やっぱり返事した、とわならここだって思ってた。

とわ「わかったよ、出る」

はる「ねぇ、知ってた?」

とわ「...知らなかった」

はる「だろうね。」

とわ「今隠れてたのも、イタズラのつもりで、」

はる「わかってるよ?」

なんかちょっと暗い感じになっちゃったな。こんな空気にするつもりはなかったし、とわに今日話すつもりもなかった。でも、ここまで来たからには話さない訳にも行かない。

はる「お兄ちゃん、こんなに近くにいたんだね、」

とわ「みたいだな、」

はる「ってとわ!?透けてる...」

とわ「消えそう、未練ってこのことか?あ、そうだ。消える前に母さんにあわないと。妹は後でな!」

はる「うん!あの約束はちゃんとまもってよ。」

とわ「破るわけねぇよ」

そう言って私の部屋を出た。

とわ「母さん、ただいま。」

母「とわ、?とわなの?」

とわ「うん、とわだよ。」

母「逢いに来て、くれたんだね。」

そう言って母さんは大粒の涙を流した。

とわ「うん、消える前にね...」

母「あ、はるには、」

とわ「会ったよ。運命みたいな出会い方をしたんだ。」

母「そう、ありがとうね。逢いに来てくれて。」

とわ「うん、やっと帰ってこれたよ。じゃあ、また。行ってきます。」

母「行ってらっしゃい、とわ。」


数分して、とわは私の部屋に帰ってきた。

はる「あ、とわ。やっと帰ってきた。消える前に、私の好きな人に合わせてくれるんでしょ?」

今にも消えそうになっているとわにそう言ってやった。

とわ「呼ぶよ。」

はる「え、呼べる、の?」

とわ「最初から、」

そう呟いた。てことは、呼べるのに今まで呼んでくれなかったってこと、?そんな事実を知った私は、少しだけ、ほんの少しだけ...言葉が詰まった、

とわ「あっ、でも、最初から呼んでてもお前、言うことなんも決まんねーし、どうせ困惑すんだろ?俺なりの配慮。嘘つき野郎とか言うなよ!」

とわは今考えたであろう言い訳をスラスラと言った。そういうところがまた面白い。

はる「とわならそう言うって思ってたよ、」

とわ「...そんな顔で言われてもなぁ、」

はる「あれ、なんで泣いて...」

なんでだろう。涙が止まらない、今泣いたって仕方ないよ。とわとお別れの時間が迫ってきてるからかなぁ、感情のコントロールが全く聞かない...。

とわ「あ、時間が無いんだった。あいつ呼んでやるから、早く涙拭けよ。」

はる「うん...」

とわ「はい、呼んだよ。」

そんなに時間はかからなかった。とわはただ黙って、目を瞑って深呼吸していただけ。すると、とわの周りから煙が出てきた。その煙に覆われながら出てきたのは紛れもない、彼だった。

はる「...名前。」

私は未だに彼の名前を思い出せなかった。自己紹介してもらってるはずなのに、覚えていなかった。

「名前、そういえば呼ばれたこと無かったね。」

はる「それどころじゃなくって...ごめんなさい」

「謝らないで、俺の名前は星崎透」

はる「透...くん。」

少し照れながら、私はそう呟く。

透「いや。透でいいよ笑」

そう、優しく微笑んでくれた。その微笑みはどこか懐かしい。

はる「あ...時間ないよね、」

透「残念だけど、あんまりないかな...」

はる「前から言いたかったことがあるの。」

今回こそ、はっきりと気持ちを伝える。前みたいに怖気付いてる暇なんてない。透には時間が無いし、とわも時間が無いのは分かってる。それでも、私たちを邪魔しないように部屋の外へ出てくれたのは、とわなりの優しさ。その優しさと、この奇跡を踏みにじることなんて、私にはできない。勇気を振り絞って、

はる「ずっと、ずっと好きでした...」

笑顔で言えたかな、これを言っちゃうと、透が消えちゃいそうな気がして、もう会えないような気がして、涙が...。

透「俺もだよ。初めてはると話した時からずっと。」

はる「...そんなことなら、早めに告白しとけばよかったなぁ、」

透「俺も思った。」

はる「まだ時間ある??」

透「うん、まだあるけど、なんで?」

はる「昔話を聞かせて欲しくって」

透「昔話か、はるにとっては辛い思いをさせてしまうかもしれないけど、それでも?」

はる「うん、大丈夫。」