あれから2年、俺は今日、高校に入学する。しかし、奈津紀を失ったショックは消えないままだ。
 俺は、あの日からずっと、時計が止まっているような気がするんだ。あの日以降涙も流れなくなった。感情は凍りついて、痛みすら感じなくなった。学校に行けるようになっても、俺は感情を出せずにいた。
 今日から高校生活が始まる。そんな実感なんてなかった。生きている心地がしないんだ。だってあいつはこの世にいないから。

 高校入学式。普通なら緊張するのだろうが、俺の心は凍っている。あの日からずっと、時は止まったまま……。
 どうせまた孤独な日々を送るのだろう。ましてや、同じ高校に進学した知り合いはいないから、尚更だ。そう思っていた。
 案の定それは当たりだったようだ。新しいクラス、新しい環境の中で、誰にも話しかけられず、俺から話しかけることもできず、独り孤立していた。
 「奈津紀さえいれば、きっとまた違ったんだろうな……」
 そんなことを口にするも、あいつは戻ってこない。そんなこと……わかってる。だけど、きっとあいつはまだ生きているのではないか……そう思っていないと、気持ちを保つことすら難しいんだ。生きた心地がしないというか、生きている意味がないというか。わからないけど、あいつを失ったことによる生きづらさは、今になっても俺の心を蝕んでいる。
 あの後、俺自身自ら命を絶とうとして失敗した。逃げたいだけなのにな、何でこうなっちゃったんだろう。もう……わかんないよ。

 ある日の昼休み、俺は中庭のベンチで独り、ご飯を食べていた。普段、誰もいない中庭はとても静かで心地よいからだ。
 だけど今日は何か違うようだ。後ろから1人の人影が近づいてくるように感じた。
 「君!そこで何してんだい?」
 「わぁ!」
 俺は思わず声を上げる。
 「あちゃー。びっくりさせてしまった。申し訳ない。」
 「べべ別にいいよ、、」
 思わず塩対応になってしまう。情けない。
 「ありがとう。僕の名前は、新井
詩音(あらい しおん)。君の名前は?」
 「一条 綾……」
 「綾か、いい名前だ。これからよろしく!」
 なんだかあいつに似てるな。ちょっとだけ。
 「よろしく。」
 「せっかくだし、一緒にここで食べない?」
 「ありがと」
 嬉しかった。話しかけてくれる人がいて。