暗闇の中で独り、今日も泣いている。理由なんて……ない。だけど、涙が止まらない。生きることに、疲れてしまったのだろうか。それとも、ただ地獄から抜け出したいだけだろうか。わからない。ただ、今が幸せではないことだけはわかる。幸せはきっと、自分にとっては無縁なものだろうな。
 もうかれこれ1カ月くらい学校には行っていない。家のベッドの横になってじっとしているだけの日々。両親にはいつも、迷惑をかけてばかりだ。俺なんて、ただ邪魔なだけのはずなのに。
 
 俺の名前は、一条 綾《いちじょう あや》。みてのとおり、不登校の中学2年生だ。
 俺には、周りとは違うある特徴がある。それは、性同一性障害、つまり、トランスジェンダーというものだ。体は女の子だけど、心は男の子。物心がついた時から、ずっと俺は男の子として生きてきていた。両親はもちろん知っているし、理解してもらえている。だけど、理解できない人がいるのも事実だ。
 俺は自分自身を偽るのが嫌いだ。だから、中学入学してすぐに、同級生の前で、自分がトランスジェンダーであること、男の子として接してほしいことを伝えた。しかし、それは最悪の引き金となってしまった。

 体が女の子である以上、男女別の行動の時は、女子の方に行かなければならない。ただでさえそれも辛いんだ。なのに、そのせいで、俺がトランスジェンダーなのが嘘だと言われ始め、次第に味方もいなくなっていき、嘘つき呼ばわりされるようになった。休み時間の生徒同士の会話が耳に入ろうものなら、聞こえてくるのは俺への悪口のオンパレード。すれ違おうものなら、わざとぶつかって俺のせいにする。要するに、俺はいじめられていた。
 我慢の限界になった俺は、進級と同時に不登校になった。学校なんて、行っても苦しむだけだから。
 だが、かといって俺が俺らしく生きられるわけではない。間違った体で生まれてしまったが故に、俺の理想はもう、手に入らないことがわかっているからだ。性別適合手術を受けようにも、まだ年齢的にダメだし、何より海外に行かなければならないとか、体への負担とか、リスクも大きい。だが、それを乗り越えたとて、理想の体にはなれないのだ。
 生きている限り、自分らしく幸せに生きられることはない。俺は、生きている意味すらわからない。
 「生まれてこなければよかった。」
 思わずそうつぶやく。生まれてこなければ、こんなことにはならなかったはずなのに。そう思っていた。