日曜日を挟んで月曜日。学校へ向かう景色は、いつもと同じだけど少し綺麗に感じられた。ただ、授業は相変わらず埃っぽくて、鉛のように重かったけど。
昼休みとなってまたあのベンチに。今日は、まだどちらとも話せてはいない。でも、メッセージでやり取りを少ししていて、あの後、楽しかったということを送った。向こうも少ない文字量だったけど、好感触だと思う。
 元気に咲かせている花を膝に乗せて、目をつむりベンチに座る。また香りが鼻腔から脳に入ると、彼の記憶が蘇る。
 それはあの遊びに行った日の光景だ。その中で会話をしている時のシーンが幾つも再生されて、その度に彼の心の声で、もっと自然に明るく話したいと心の中で叫んでいた。
 一度フェードアウトしてから繋がりのある秘密にフェードイン。それは彼が小学六年生の頃の記憶みたいだった。あのファンタジーゲームの主人公に影響を受けたことで、クールぶることをし始める。最初は主人公みたいになれて満足気だった。しかし、次第に口数が少なくなったことで、どう人と話せば良いのかわからなくなってしまい、友人の数も減っていく。しかも、そのキャラクターと認識されたことで、戻すこともできなくなった。そして最後に、前と同じように、そのキャラ変した彼と、同い年くらいの青葉さんが泣いているのを遠くで眺めている記憶で終わった。
 秘密の覗き見が終了。意識が引き戻されると同時に声が聞こえてきて。

「……さん。星乃さん」
「うわわ! いつの間に」

 目を開けるとすぐそこに水無月くんがいた。盗み見ている本人を前にしたことで、申し訳無さが強くなる。

「悪い。そんなに驚かせるとは」
「いやいや。ちょっと私の世界に入ってたから、周りのことに意識がいってなくてさ」
「そうか」

 相変わらず表情筋が固まって、言葉も少ないけど、本当はゲームの話をしていたあんな感じで振る舞いたいのかな。
 それなら力になりたいって思う。これは余計なお世話じゃない。問題なし。

「座る?」
「あ、ああ」

 左に避けると間を空けて、水無月くんが腰を掛けた。

「一人になりたくてここに?」
「いや……」
「じゃあ、私に会いに来たとか? ……なんて」

 ちょろっとからかってみるけど、自分で恥ずかしくなってしまう。

「……」

 肯定も否定もなくて居心地の悪い無言の時間に。

「な、何か言ってよー」

 自分から言っておいて何だけど。助けて欲しい。

「その、たまたま来ただけだ」

 そう答える彼の目は泳いでいた。やっぱりそうなんだ。でも、これ以上に突っ込むと私にもダメージが入るから止めた。
 柔らかな風が髪を揺らす。花の香りを知覚するけど、記憶の蓋は開かなくて。彼も感じているはずだけど、普通な状態だ。

「……」

 もっと親しく話すには何が必要だろうか。単純に友人として距離を詰めたいというのもあるけど、水無月くんの悩みの手助けをしたいと思った。それは、私の本心でもあるし、秘密を見ている贖罪でもある。
でも正直、私も他人との交流が得意というわけじゃない。それに、男の子とだし、同性とはまた感覚も違う。だから、一人分の空白を埋める方法を思いつかなくて。
 その答えが出ることはないまま、気まずさの中、昼休みが終わりを迎えた。