「あれ、日向は戻ったのか。って、どうかしたか?」
入れ変わりで水無月くんが戻って来る。
「ううんなんでもないよ」
「そっか……」
「……」
やばい、急に二人にされて何を話せばいいのか分からない。えーと、好きな食べ物とか趣味とか、天気の話とかすればいいのかな。いや、何か違う気もするし。
手探りで話題を探していると、一つ思いつく。
「あ、あのさっ。体育館裏のベンチのこと知ってる……よね?」
「知ってるけど、星乃さんも?」
「うん。ちょっと一人になりたくてたまたまね」
「俺も同じ。秘密基地みたいで良い」
私と全く同じ感想で海の底よりも深く共感する。結構気が合うかもしれない。
「それめっちゃわかるー。でさ、ええとそこに行かない?」
正直彼と仲良く話せて嬉しいのだけど、人前でいると、隠れて狙ってる子に恨まれそう。もう遅いかもしれないけど。
「……ああ」
お互い人二人分開けて歩く。話すことを色々悩んでいる内に靴を履いていて、もうベンチの前に来てしまう。彼は花瓶の横に座るので、少し間を空けて隣にぎこちなく着席。
周囲には私と水無月くんだけ。遠くから聞こえる生徒の声。二人きりって意識が強くなってくる。ドキドキしてくれているのだろうか。彼の表情は仮面を被っていて、そんな様子には見えなくて。好意を持たれてる側の私の方が、緊張している気がする。
「その花のこと……知ってる?」
ようやく会話の花を咲かせられる話題を見つけて、聞いてみる。水無月くんは、特殊な力を知っているのだろうか。
「オトギリソウっていうらしい。先輩からそう聞いた」
何故か気まずそうに答える。それに能力ではなくて名前の方が返ってきた。これは、知らないのかも。
「先輩? その人もここに?」
「前まで先輩がこの花の世話をしてた。それで俺がその役割を任された」
この花が特別過ぎて、誰かが水を上げているという当然のことを考えもしてなかった。
「じゃあ、毎日お水を?」
「いや、毎週の月曜日だけ。学校に来たときに」
だからばったり合うことがなかったんだ。水無月くんは朝で、多分青葉さんは二時間目と三時間目の間。そして私は昼休み。
「この花、普通に水をやっても駄目なんだ」
ぼそっとそう向こうから話を切り出してくる。
「そうなの?」
「まだ先輩に会ってないとき、少し萎れてて何日間か水を与えたけど全然で。困ってたら先輩が来て、やり方を教えてもらったんだ」
「どんなの?」
一瞬言いにくそうにするけど、答えてくれる。
「……自分の秘密を想いながら水を与えるっていう」
「えーと、どういう?」
話しかけると成長する的なノリなのだろうか。
「仕組みは分からない。でも、そうしないと育たないんだ。信じられないだろうけど」
何から何まで不思議な花だ。
「じゃあ、毎日その秘密を考えてお水をあげてるんだ」
予想が正しければ、それはきっと私のこと。
「まぁ……」
肯定するとき目が泳いだ。
「どんな秘密なのか、教えてくれない?」
「い、いやそれはちょっと……」
あからさまに動揺した表情をする。
「えー教えてよー」
珍しい姿に思わずちょっかいを出したくなった。
「む、無理……」
「あはは、だよねー」
追求が終わるとわかると、ホッとしたように少し息を吐いた。やばい楽しい。クールな彼の色んな表情が見れる。
「じゃあええと、他に特別なことってある?」
「そうだな……特には無いんじゃないか」
水無月くんは視線を逸らしながらそう答えた。つまり、秘密が見られていることは知らないのだろうか。
一度会話が途切れて頭を回転させている中、私の脳細胞に電撃が走った。
「あのさ」
「な、何?」
まだ何も言っていないのに、警戒されてしまう。それに嗜虐心をまたくすぐられるが我慢。
「いつも同じ秘密を?」
「そうだけど」
やっぱりずっと私なのはそういうことなんだ。
「秘密が栄養ならさ、色んな秘密をあげたほうがいいのかな、なんて」
「うーん、そんなバランスとかあるのか?」
指を顎に当てて考え出した。クールな雰囲気と相まってすごく賢そうな雰囲気に見える。探偵的な。
「……てか、飲み込み早くてすごいな」
素朴な疑問で、とてもクリティカルな指摘がばしっと炸裂。
「あっ、ええと」
まるで探偵に追求されている犯人みたいな気分になってくる。
「それはーそのー」
水無月くんの疑念の芽が育ってしまいそうで、言い訳を総動員する。
「私って結構妄想が好きっていうか。何かそういう摩訶不思議なの信じたい感じなんだよねー」
「そうなのか……。それ、変なのに騙されないよう注意した方がいいと思う」
心配してくれるのは嬉しいけど、もしかしたら変な奴って思われたかもしれない。意識してくれてるとはいえ、幻滅されないようにしないと。ちょっと不安。
「まぁ、試そうかな……」
「ほ、本当!」
しまった、喜びすぎた。
「ち、知的好奇心が満たせそうで嬉しいなー。なんて」
「星乃さんって、そういう感じなのか?」
どんどん変な子に思われてる気がする。会話するたびに好感度が下がりそうなんだけど。
「そ、そういうことだからよろしくね」
「あ、ああ」
どうして私のことが好きなのか、それだけじゃなく、彼のことを色々知るために、私はこの花の力を借りる。好かれているから付き合いたくなるほど単純でもない。
自分の気持ちが決まったら、特別な関係になれたらなって思う。
「うへへ」
「……大丈夫か?」
もちろん、気持ちが冷められる前にね。
入れ変わりで水無月くんが戻って来る。
「ううんなんでもないよ」
「そっか……」
「……」
やばい、急に二人にされて何を話せばいいのか分からない。えーと、好きな食べ物とか趣味とか、天気の話とかすればいいのかな。いや、何か違う気もするし。
手探りで話題を探していると、一つ思いつく。
「あ、あのさっ。体育館裏のベンチのこと知ってる……よね?」
「知ってるけど、星乃さんも?」
「うん。ちょっと一人になりたくてたまたまね」
「俺も同じ。秘密基地みたいで良い」
私と全く同じ感想で海の底よりも深く共感する。結構気が合うかもしれない。
「それめっちゃわかるー。でさ、ええとそこに行かない?」
正直彼と仲良く話せて嬉しいのだけど、人前でいると、隠れて狙ってる子に恨まれそう。もう遅いかもしれないけど。
「……ああ」
お互い人二人分開けて歩く。話すことを色々悩んでいる内に靴を履いていて、もうベンチの前に来てしまう。彼は花瓶の横に座るので、少し間を空けて隣にぎこちなく着席。
周囲には私と水無月くんだけ。遠くから聞こえる生徒の声。二人きりって意識が強くなってくる。ドキドキしてくれているのだろうか。彼の表情は仮面を被っていて、そんな様子には見えなくて。好意を持たれてる側の私の方が、緊張している気がする。
「その花のこと……知ってる?」
ようやく会話の花を咲かせられる話題を見つけて、聞いてみる。水無月くんは、特殊な力を知っているのだろうか。
「オトギリソウっていうらしい。先輩からそう聞いた」
何故か気まずそうに答える。それに能力ではなくて名前の方が返ってきた。これは、知らないのかも。
「先輩? その人もここに?」
「前まで先輩がこの花の世話をしてた。それで俺がその役割を任された」
この花が特別過ぎて、誰かが水を上げているという当然のことを考えもしてなかった。
「じゃあ、毎日お水を?」
「いや、毎週の月曜日だけ。学校に来たときに」
だからばったり合うことがなかったんだ。水無月くんは朝で、多分青葉さんは二時間目と三時間目の間。そして私は昼休み。
「この花、普通に水をやっても駄目なんだ」
ぼそっとそう向こうから話を切り出してくる。
「そうなの?」
「まだ先輩に会ってないとき、少し萎れてて何日間か水を与えたけど全然で。困ってたら先輩が来て、やり方を教えてもらったんだ」
「どんなの?」
一瞬言いにくそうにするけど、答えてくれる。
「……自分の秘密を想いながら水を与えるっていう」
「えーと、どういう?」
話しかけると成長する的なノリなのだろうか。
「仕組みは分からない。でも、そうしないと育たないんだ。信じられないだろうけど」
何から何まで不思議な花だ。
「じゃあ、毎日その秘密を考えてお水をあげてるんだ」
予想が正しければ、それはきっと私のこと。
「まぁ……」
肯定するとき目が泳いだ。
「どんな秘密なのか、教えてくれない?」
「い、いやそれはちょっと……」
あからさまに動揺した表情をする。
「えー教えてよー」
珍しい姿に思わずちょっかいを出したくなった。
「む、無理……」
「あはは、だよねー」
追求が終わるとわかると、ホッとしたように少し息を吐いた。やばい楽しい。クールな彼の色んな表情が見れる。
「じゃあええと、他に特別なことってある?」
「そうだな……特には無いんじゃないか」
水無月くんは視線を逸らしながらそう答えた。つまり、秘密が見られていることは知らないのだろうか。
一度会話が途切れて頭を回転させている中、私の脳細胞に電撃が走った。
「あのさ」
「な、何?」
まだ何も言っていないのに、警戒されてしまう。それに嗜虐心をまたくすぐられるが我慢。
「いつも同じ秘密を?」
「そうだけど」
やっぱりずっと私なのはそういうことなんだ。
「秘密が栄養ならさ、色んな秘密をあげたほうがいいのかな、なんて」
「うーん、そんなバランスとかあるのか?」
指を顎に当てて考え出した。クールな雰囲気と相まってすごく賢そうな雰囲気に見える。探偵的な。
「……てか、飲み込み早くてすごいな」
素朴な疑問で、とてもクリティカルな指摘がばしっと炸裂。
「あっ、ええと」
まるで探偵に追求されている犯人みたいな気分になってくる。
「それはーそのー」
水無月くんの疑念の芽が育ってしまいそうで、言い訳を総動員する。
「私って結構妄想が好きっていうか。何かそういう摩訶不思議なの信じたい感じなんだよねー」
「そうなのか……。それ、変なのに騙されないよう注意した方がいいと思う」
心配してくれるのは嬉しいけど、もしかしたら変な奴って思われたかもしれない。意識してくれてるとはいえ、幻滅されないようにしないと。ちょっと不安。
「まぁ、試そうかな……」
「ほ、本当!」
しまった、喜びすぎた。
「ち、知的好奇心が満たせそうで嬉しいなー。なんて」
「星乃さんって、そういう感じなのか?」
どんどん変な子に思われてる気がする。会話するたびに好感度が下がりそうなんだけど。
「そ、そういうことだからよろしくね」
「あ、ああ」
どうして私のことが好きなのか、それだけじゃなく、彼のことを色々知るために、私はこの花の力を借りる。好かれているから付き合いたくなるほど単純でもない。
自分の気持ちが決まったら、特別な関係になれたらなって思う。
「うへへ」
「……大丈夫か?」
もちろん、気持ちが冷められる前にね。