月曜日は大雨だった。ひしひしと梅雨の影を視界の端に捉えていたけど、とうとう姿を現したようだ。そんな日は、身も心も憂鬱で、気象病なのか気分も悪くて。起きるのもいつもより気力が必要だった。
 登校はビニール傘を差していたのだけど、完全には防ぎきれずちょろちょろ水がかかる。少しでも濡れるのが不愉快。小さな頃はどうして雨の日にテンションが上がっていたのかわからなくなっていた。
 下駄箱につき、傘をバサバサと水滴をはたき落としていると、あの花のことが気になった。水無月くんが水をやっているのかとか、雨の中に香りを嗅ぎに行こうかなとか。
 でもあの瞬間は意識がほぼないから、びしょ濡れになってしまう。

「明日でもいいかな」

 無理はしないということで決着をつけ、浸水した靴を脱ぎ上履きを履いた。
 三階まで上がり教室へと向かっていると、後頭部辺りにから違和感が湧き出す。何だか周りの生徒に見られている気がする。しかもそれは、まとわりつくような感じで。

「……」

 教室に入るなりあまり関わりのない何人かの女子と目が合って、すぐに俯いて席に着いた。
 自意識過剰だろうか。それとも、体調が悪くて不安を感じすぎてしまっているのか。

「ねぇ勇花」

 綾音ちゃんがいつも通り私の所に来る。

「……水無月くんと付き合ってるって本当?」
「ふぇっ?」

 周りに聞こえないよう小声でそんな事を尋ねてくる。

「どうなの?」
「そ、そんなわけ……」

 まさか違和感はその噂のせいなのだろうか。

「……何か、勇花が水無月くんの家に遊びに行ってたって話が回っているんだけど」
「嘘でしょ? この学校には記者か何かいるの?」
「多分、近くに住んでてたまたま目撃したとかじゃないかしら」

 そうだといいのだけど、水無月くん関連の話が流れすぎている。もしかして、思った以上に人気なのだろうか。
 一瞬、青葉さんが吹聴している可能性を考えたのだけど、そういう事をする子じゃないと一蹴。

「人気者の友達は大変ね」

 漫画見たく嫉妬されていじめられてしまうなんて妄想をしてしまった。

「私、皆に羨まれて学校の注目の的になったり?」
「それよりも、前にも言ったけど、ドロドロとした感情をぶつけられる可能性の方が高いかもね」
「ですよね」

 こうなってくると水無月くんにも迷惑がかかるかも。やばいって思った女子たちが一斉に告白みたいな。それか私の悪口で評価を下げたりして遠ざけたりとかもありそう。

「……何かあったら隠さず私に言いなさいね」
「うん、ありがとう綾音ちゃん」

 何て心強い親友だろう。優しさに勇気づけられ、頭にぶら下がる重りが軽くなった。
 けれど、雨で気持ちが沈んでいるというのに、さらに追い打ちのようにこんな不安を持たせられるなんて。頭の片隅に嫌な予感が出現した。

「……」

 私はそんな最悪の状態で今日を過ごすこととなった。それは、想像以上に居心地悪くて、悪い想像も誘発されて、落ち着くことも何かに集中することも出来ずに、鉛のような時間の流れに身を任せるしかなかった。
 昼休みになりどう過ごそうか悩みながら、廊下に出る。やはり見られている。どうして彼との関わりを多くの人に周知されてしまうのか。自分の大切なものをじろじろと見られている気がして気持ちが悪かった。
 その感想を心で呟いた瞬間に、あの花の香りを嗅いでいる自分の姿が脳に浮かんだ。