それからビデオゲームは程々に、持ってきていたUNOやトランプ等をして遊んだりもした。カードゲームだと、実力は拮抗していて、良い勝負が出来た。ただ、あらゆることで水無月くんは優勢で万能さも見せつけられた。
「……そろそろ勉強しよっか」
遊びに夢中になっていると時計の針は三時半を回っていて、流石に勉強をやろうと、教科書と向き合うことになった。
「はぁ、年号まで覚えるの面倒くさすぎるよ……何が起きたかだけで良くない?」
「気持ちはわかるが、語呂で覚えるとかで楽するしかないな」
「だよねぇ」
こうやって口に出してストレスを発散しないと、シャーペンは動かせそうになくて。
「語呂ね……。あたし、語呂で覚えるの何だか負けた気がするのよね」
「ちょっとわかるかも」
「何と戦っているんだ」
そんな和やかな雰囲気で、雑談を交わしながら各々やるべきことを進める。私は、五教科の授業でやったことを復習して、ワークの問題を解いていった。二人と一緒に勉強していてわかったのだけど、青葉さんは私以上に勉強が苦手みたいだ。私が教えるというレアなことも起きた。
国語のワークで作者の言いたいことについて考えていると、外から五時を告げるキンコンカンコンというチャイムが流れる。窓からはオレンジ色の光が差し込んでいた。
夕日を眺めていると、思わず勉強会の出来事を再生してしまう。喜びの残滓が体を覆って、くすぐったくなった。
「ふふっ」
「どうしたのよ、急に笑いだして」
「なんかすっごく楽しいなって思って」
夕焼けの郷愁感のせいか、体を満たす心地良疲労のせいか、私は心の傷を話したくなっていた。
「……私ね、小六の時に個別指導してくれる塾に通っていだんだ」
急に語り出してしまったのだけど、二人は口を挟まず聞いてくれる。
「数学を教えてくれたおばさんの講師がいたんだけど、その人が結構高圧的な人で、わからないって聞くと嫌な顔するし、間違えるとすごく責めてきて、怖かった」
何もない時なら我慢できたけど、メンタルをやられていたタイミングだと、耐えきれるわけなくて。
「だんだんわからないことが恐怖になってきて、それから数学、最後には勉強そのものが無理になっちゃったんだ」
親に心配かけたくなくて、そのことは言えなかったけどいつしか限界が来た。何とか伝えることが出来て止められたけど、後遺症は残っていて。
「でも、水無月くんに勉強教えて貰って、今日は三人で勉強会して、ちょっとだけど勉強への恐怖が取れて。それが嬉しくて笑っちゃった」
「そう……だったのね」
「ごめんね、変な話ししちゃって」
「いや、力になれていたのなら良かった」
話し終えていから急激に恥ずかしさがこみ上げてきて、どこかに逃げたくなってきた。
「……顔赤くないか?」
「いやっ、夕日のせいじゃないかな」
頬の熱は冷めそうになくて。
「……」
私が話し終えてからの青葉さんは、どこか遠くを見ていて無言だった。
「あっ、そろそろ時間だし帰るね」
門限は六時くらいなのだけど、このまま居続けれそうにもないので逃げることにした。
「あたしも帰る」
私が立ち上がると同時に、突然青葉さんも動き出した。
帰り支度をして部屋を出れば、水無月くんは玄関先まで見送ってくれる。
「じゃあな」
「うん、バイバイ」
「……」
青葉さんは軽く手を振ってくるっと背を向けてドアを開けた。私もそれに続いて外に出ると、少し冷えた空気が肌をなぞる。コンクリートが朱に染まっていて、夕方の香りを感じた。
家前に出れば、すぐに彼女とも別れることになる。何せすぐ隣だから。
「青葉さんもまた明日」
自転車に鍵を差して、座ろうとしようとしていると話しかけられる。
「ねぇ、さっきの話……」
「な、何かな」
冷えた頬が加熱されそうになる。
「い、いえ。何でもないわ。それよりも、玲士とはどうなの?」
露骨に話を変えられるも、そのことを尋ねることは出来なかった。
「少しは仲良くなれたかも? でも流石に、青葉さんほどじゃないけどね」
「そう……」
勝ち気に優位性を誇示されると思ったのだけど、浮かない表情は変わらなかった。
「ま、このまま頑張ることね。順調みたいだしそれじゃ」
「じゃ、じゃあね」
その応援は、私がレースで手加減しているような感じとは違って、競争に参加していない第三者みたいで。
何だか、青葉さんのことが分からなくなってきている。気のせいかもしれないけれど、単純なライバルとは違う気がした。
自転車を走らせると、涼しげな風がさっきまでの幸せな温かさは飛ばされた。頭の中では、青葉さんのさっきの悩ましそうな顔がリピートされ続けていて。空は藍色と橙のコントラストを描いているけど、灰色の雲の軍勢がそれを飲み込もうとしていた。
「……そろそろ勉強しよっか」
遊びに夢中になっていると時計の針は三時半を回っていて、流石に勉強をやろうと、教科書と向き合うことになった。
「はぁ、年号まで覚えるの面倒くさすぎるよ……何が起きたかだけで良くない?」
「気持ちはわかるが、語呂で覚えるとかで楽するしかないな」
「だよねぇ」
こうやって口に出してストレスを発散しないと、シャーペンは動かせそうになくて。
「語呂ね……。あたし、語呂で覚えるの何だか負けた気がするのよね」
「ちょっとわかるかも」
「何と戦っているんだ」
そんな和やかな雰囲気で、雑談を交わしながら各々やるべきことを進める。私は、五教科の授業でやったことを復習して、ワークの問題を解いていった。二人と一緒に勉強していてわかったのだけど、青葉さんは私以上に勉強が苦手みたいだ。私が教えるというレアなことも起きた。
国語のワークで作者の言いたいことについて考えていると、外から五時を告げるキンコンカンコンというチャイムが流れる。窓からはオレンジ色の光が差し込んでいた。
夕日を眺めていると、思わず勉強会の出来事を再生してしまう。喜びの残滓が体を覆って、くすぐったくなった。
「ふふっ」
「どうしたのよ、急に笑いだして」
「なんかすっごく楽しいなって思って」
夕焼けの郷愁感のせいか、体を満たす心地良疲労のせいか、私は心の傷を話したくなっていた。
「……私ね、小六の時に個別指導してくれる塾に通っていだんだ」
急に語り出してしまったのだけど、二人は口を挟まず聞いてくれる。
「数学を教えてくれたおばさんの講師がいたんだけど、その人が結構高圧的な人で、わからないって聞くと嫌な顔するし、間違えるとすごく責めてきて、怖かった」
何もない時なら我慢できたけど、メンタルをやられていたタイミングだと、耐えきれるわけなくて。
「だんだんわからないことが恐怖になってきて、それから数学、最後には勉強そのものが無理になっちゃったんだ」
親に心配かけたくなくて、そのことは言えなかったけどいつしか限界が来た。何とか伝えることが出来て止められたけど、後遺症は残っていて。
「でも、水無月くんに勉強教えて貰って、今日は三人で勉強会して、ちょっとだけど勉強への恐怖が取れて。それが嬉しくて笑っちゃった」
「そう……だったのね」
「ごめんね、変な話ししちゃって」
「いや、力になれていたのなら良かった」
話し終えていから急激に恥ずかしさがこみ上げてきて、どこかに逃げたくなってきた。
「……顔赤くないか?」
「いやっ、夕日のせいじゃないかな」
頬の熱は冷めそうになくて。
「……」
私が話し終えてからの青葉さんは、どこか遠くを見ていて無言だった。
「あっ、そろそろ時間だし帰るね」
門限は六時くらいなのだけど、このまま居続けれそうにもないので逃げることにした。
「あたしも帰る」
私が立ち上がると同時に、突然青葉さんも動き出した。
帰り支度をして部屋を出れば、水無月くんは玄関先まで見送ってくれる。
「じゃあな」
「うん、バイバイ」
「……」
青葉さんは軽く手を振ってくるっと背を向けてドアを開けた。私もそれに続いて外に出ると、少し冷えた空気が肌をなぞる。コンクリートが朱に染まっていて、夕方の香りを感じた。
家前に出れば、すぐに彼女とも別れることになる。何せすぐ隣だから。
「青葉さんもまた明日」
自転車に鍵を差して、座ろうとしようとしていると話しかけられる。
「ねぇ、さっきの話……」
「な、何かな」
冷えた頬が加熱されそうになる。
「い、いえ。何でもないわ。それよりも、玲士とはどうなの?」
露骨に話を変えられるも、そのことを尋ねることは出来なかった。
「少しは仲良くなれたかも? でも流石に、青葉さんほどじゃないけどね」
「そう……」
勝ち気に優位性を誇示されると思ったのだけど、浮かない表情は変わらなかった。
「ま、このまま頑張ることね。順調みたいだしそれじゃ」
「じゃ、じゃあね」
その応援は、私がレースで手加減しているような感じとは違って、競争に参加していない第三者みたいで。
何だか、青葉さんのことが分からなくなってきている。気のせいかもしれないけれど、単純なライバルとは違う気がした。
自転車を走らせると、涼しげな風がさっきまでの幸せな温かさは飛ばされた。頭の中では、青葉さんのさっきの悩ましそうな顔がリピートされ続けていて。空は藍色と橙のコントラストを描いているけど、灰色の雲の軍勢がそれを飲み込もうとしていた。