月曜日のラストスパートをかける前の、五時間目と六時間目の小休憩。私は、期末テストの影がチラついてくること水無月くんのことで頭がいっぱいだった。

「なーに気難しい顔をしているの? 似合わないわよ」

 私の机に手をついて真正面に立っている唯一の友人と目を合わせると、思わず弱音を吐き出したくなる。

「綾音ちゃぁん。私分かんないよ」
「そんなことは言われてもこっちも分かんないし。勉強のこと?」
「それもだけどぉ」

 これ以上が続かない。何と言えばいいか言葉に詰まる。

「もしかしてだけど、水無月くんのこと?」
「うぇぇぇ!」

 大声を出してしまい、クラスの視線の集中砲火を浴びる。軽くごめんさいと頭を下げて体を小さくした。

「どうしてわかるの?」
「何か、青葉さんも含めてゲーセンで遊んでいたって、噂が回ってたわよ。全く、噂も馬鹿にできないわね」

 もうそんな情報が共有されてるって怖い。これが情報化社会ですか。

「というか、どういう繋がり? 想像もできないんだけど」

 流石に本当のことは言えない。いつもの妄想と思われるだけだし。

「運命の出会い的な?」
「言いたくないならいいけどね」
「本当だよー」

 信用がなさすぎて、信じてもらえなかった。

「それで? 何に悩んでいるの?」

 やっぱり綾音ちゃんはぶっきらぼうだけど優しい。その懐に甘えさせてもらう。

「あのね、彼と仲良く話したいなって思うんだ。でも、クールな感じだから」
「確かに、会話とか好きそうじゃないわね」
「でもでも! 心の中ではもっと親しく会話したいって思っているんだよ」

 断言すると不審な目を向けられた。

「それ妄想入っていない? 現実と区別ついている?」
「か、関わってそう感じたの。私の直感は当たるんだから」

 友人は苦笑しつつも理解を示してくれた。

「とりあえずあなたのことを信じるとして」

 真剣な表情に様変わさせると、じっと眼差しを送ってくる。

「それって、勇花に似ていると感じたわ」
「え?」
「最初のあなたってそんな感じだったもの」

 思い返してみるけど、そんなような、違うような。

「そんな冷静キャラに見えた?」

 私にはそんな魅力も隠されていたのか。

「外から見たらクールな感じに思えたわ。中身を知ったら、あれだったけど」
「それ貶しているよね? 評価下がっているよね?」
「だからこそ、友達になりたいと思えた。あなたも、水無月くんのことをそう思っているんじゃない?」

 持ち上げられたり落とされたり、綾音ちゃんに心を手玉に取られている。喜んでいいのかなこれ。

「ちなみに、どうして私の中身はあれだって思えたの?」
「そんなの何回か話をしていたら、察せたわよ」
「まじですか……」

 ちょっとショックだ。妄想大好き女とバレていたなんて。
 でも、違った認識をされて離れられるよりは全然いい。

「異性だけど同じ人間。親しくなりたいって、言葉がなくとも、態度と行動を示せばいずれ、無意識に向こうも自分を出せるようになるわよ」

 実践した人の言葉は重くて、その対象が私なのだから説得力は段違い。

「ありがとう綾音ちゃん先生」
「その呼び方は止めて」
「はい」

 問題の一つの解決の糸口を掴んだ気がする。勉強の方は見つからなかったけど。