君のために生きたい

「わ、私も……パーティーに行きたいわ」

 私のセリフに、みんなが困ったように顔を見合わせた。

 少しして台本が配られ、今日は練習一日目。

「えーっと……今日はもう終わりにしようか」
「そうだね。まだ一日目だし、ゆっくりでいいよ」

 監督役の樹くんがそう言うと、周りの子たちも頷いた。

 誰も私のことには触れない。
 でも、その優しさが、逆に胸に刺さる。

 私は演技をなにも知らない。
 子どもでも分かるほどの大根役者だ。

 セリフは噛む。
 声は小さい。
 感情も乗らず、棒読み。

 いっそ「下手くそ」と言ってほしい。

 私のシーンに入るたび、練習は止まる。
 そのたびに、空気が気まずくなる。

 本当に、申し訳なかった。

「……お前、本当に下手くそだな」

 落ち込んでいる私の隣で、蒼空が笑いながら言った。

 誰もが言わなかった言葉を、あまりにもあっさりと。

「そんなの……私が一番、分かってるよ」

 私は小さく、ため息をついた。
 昨日、アイスの棒はゴミ箱に入らなかった。

 蒼空と一緒にいると、できる気がしてしまう。
 でもそれは、ただの錯覚だってことを、私は忘れていた。

「蒼空、サポートしてくれるんでしょ」
「さすがに俺が出てないシーンまではカバーできねぇな」

 王子役が登場するのは、まだ先。
 本当は全体をさらっと通す予定だったのに、私が何度もつまずくせいで、ほとんど進まなかった。

「美月ちゃん、大丈夫だよ。まだ時間はいっぱいあるし、最初は下手でもしょうがないよ!」
 葵はそう言って、私のところまで駆け寄ってきた。

「葵、ありがとう」

 でも、それ下手だって言っちゃってるよ、と思いながらも 私はそう言った。

「私、トイレ行ってくるね」

 それから濡れた手を拭きながら廊下に出ると、階下から賑やかな声が聞こえてきた。
 もう、みんな帰ったのだろうか。

 教室に戻ると、予想どおり誰もいなかった。

 私は机の上に置かれたままの、開きっぱなしの台本に視線を落とす。
 ページを閉じることもできず、自分のセリフの行を、指でなぞった。

 ――シンデレラ。

 この役は、私に少し似ている気がした。

 義母や姉たちにこき使われ、嫌われ、存在しないみたいに扱われる。
 それでも黙って耐えているところが。

 そもそも、シンデレラは本当の名前じゃない。
 灰をかぶった女。
 ロシア語で、そんな意味を持つ呼び名だと、どこかで聞いたことがある。

 私は台本を静かにかばんにしまった。

 その瞬間、ガラッとドアが開く音がして、反射的に顔を上げる。

「あれ、まだ帰ってないの。ぼっちかわいそー」

 ……やっぱり。

 私は、つくづくタイミングが悪い。

 今、ちょうど帰ろうとしていたところだったのに。

「私たち、予定あるから。これ、やっといて」

 梨沙は何事もなかったみたいに言って、手に持っていたダンボールを地面に放り投げた。

「じゃ、頑張ってね」
「よろしくー」

 遥と芽衣も、梨沙が投げたダンボールの上に重ねるように自分たちの分を置き、そのまま笑いながら帰っていく。

 三人分を、一人で?

 私はその場に立ち尽くし、積み上げられたダンボールを見下ろした。

 意地悪な夫人役と、ふたりの姉役。
 正直、配役としては驚くほど似合っていると思う。

 本来、大道具はみんなで作ることになっている。
 それに、私と蒼空はセリフが多いから、その分作業は免除されるはずだった。

 結局、こうなる。

 私はダンボールの隙間に挟まっていた紙を引き抜き、説明書らしきものに目を通す。

 どうやらこれは、カボチャの馬車の一部らしい。

 私は説明書どおりに、ダンボールへ下書きをしていく。
 三人分。これだけやったら今日は帰ろう――そう思ったけど、線を引くほどに、これは簡単に終わる作業じゃないとわかってきた。

 やらないわけにもいかないし。
 そう思ってしまう自分が嫌で、私は小さくため息をつきながら鉛筆を握り直す。

 しばらく無心で線を引いていると、廊下の奥からタン、タン、タン、と足音が響いてきた。
 先生の見回りだろうか、と顔を上げる前に、その音はまっすぐこの教室へ向かってくる。

 そして、ドアの前で止まった。

 ガラッ。

 顔を上げると、そこに立っていたのは蒼空だった。

「お前、まだ帰ってなかったのか」
「蒼空こそ、とっくに帰ったと思ってた」

 そう言った瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなるのを自覚してしまって、私は視線を逸らした。

「職員室に呼ばれててさ。帰ろうとしたら、下駄箱にまだお前の靴があった」

 蒼空はポケットに手を突っ込んだまま近づいてくると、私の手元――床に広げられたダンボールに視線を落とした。

「……お前、大道具作りは免除だっただろ」
「これは、梨沙たちが予定あるからって」

 そう言いかけたところで、蒼空が小さく舌打ちをした。

「はぁ……お前、お人好しすぎ。で、素直に全部やってんのかよ」

 蒼空は携帯を操作すると、そのまま私の前に差し出した。

 画面には、カラオケで笑っている梨沙たちの姿が映っていた。

「こんなのお前がやる必要ねぇって」
「……でも、これできなかったら、みんな困るでしょ」

 言葉が、喉の奥で少し詰まる。

「私、ただでさえ迷惑かけてるし……」
「成功させたいなら、お前は練習しろ。今のままじゃ人に見せられない」

「うっ……そこまで言わなくても」
「練習してもらわないと、俺の出番一生来ねぇじゃん」
「す、すみません……」

 蒼空は私の手から鉛筆をひったくると、床にどん、と座り込んだ。そのまま何事もなかったかのように、私が描きかけていた線の続きを引いていく。

 私は一度しまった台本を取り出し、そっと開いた。

「お前、周り気にしすぎ」
「それ、蒼空だから言えるんでしょ」
「……お前に、俺はどう見えてんだよ」

 蒼空はちらりとこちらを見て、すぐに視線をダンボールへ戻す。

「そこまで悪くは映ってないよ」
「そりゃどうも」

 そう言って、蒼空は小さく笑った。

 今日は、樹くんの紹介で演劇部の部長さんが私たちの練習を見に来ていた。

 練習しているのは、シンデレラが舞踏会で王子様からダンスを申し込まれる場面。
 なぜだか、部長さんの視線がずっと私に刺さっている気がして、背中が落ち着かない。

「お嬢さん、私と踊っていただけますか?」
「ええ、喜んで」

 蒼空が差し出した手を取る。
 音楽に合わせて一歩踏み出した瞬間、心臓がやけにうるさくなった。

「ストップ。ストップ」

 蒼空が次のセリフを口にする前に、部長さんの声が飛ぶ。

「シンデレラ役の子……中野さん、だったわね?」
「は、はい」

「動きが硬いわ。それにこのシーンは、シンデレラの夢がやっと叶うところよ。
 もっと嬉しそうに、心から笑って」

「……すみません」

 それからも、私は何度もダメ出しを受けた。

 この場面が、一番苦手だ。
 ダンスは蒼空がリードしてくれるから、なんとかついていける。
 でも――嬉しくもないのに笑うのは、どうしても難しかった。

 それに比べて、目の前の蒼空は完璧だった。
 迷いのない動き、自然な笑顔。
 部長さんも、文句なしの王子様スマイル。

 そんなことを考えた、その瞬間。

 ――ぐっ。

 ダンスをしていることを忘れて、私は思い切り蒼空の足を踏んでしまった。

「……っ」
「集中、切れてるわよ」

 部長さんがため息混じりに言う。

「ちょうどいいわ。十分、休憩」

 そう言い残して、部長さんは廊下へと出ていった。

「さすが部長さん。本格的だな」
「蒼空は、なにも言われなかったね」
「あたりまえだろ。俺は完璧だからな」

 そう言われると、否定できないのが腹立たしい。

「俺もさ、あの顔はどうにかしてほしいわ。なんかすげぇ……嫌がられてるみたい」

「笑ってるつもりなんだけど。そんなにひどい?」
「ひどい」
「ちょっと、それ失礼じゃない?」

 自分でも言いながら、声に自信がないのがわかった。

 私は壁の時計に目を向ける。

「あっ、そういえば。美優に呼ばれてたんだった。ちょっと行ってくるね」
「時間までに戻ってこいよ。お前いないと、始まんねぇんだから」

 その言葉を背中越しに聞きながら、軽く返事をして教室を出た。

 ドアに手をかけた瞬間、どこかで聞き覚えのある声が耳に入った。思わず手を止め、ドアの隙間から中を覗く。

「ねぇ、最近さ。美月と仲良いよねー?」
「そうだけど……」
「美月と仲良くしない方がいいよ。まぁ、なんでかはわかると思うけど」
「あいつ最近、調子のっててうざいよねぇ。ね、葵も本当はそう思ってたでしょ?」

 昔、同じような光景を見たことがある。梨沙が言い、みんながただ頷いていたあの光景だ。
 葵は俯いたまま、何も言えずに頷いている。

 私は奥歯をぎゅっと噛みしめ、胸の奥がチクリと痛んだ。……またか。
 どうしようもないやるせなさに押され、私はその場からそっと離れようとした。

 「調子のってるのはそっちじゃない」

 背中越しに響いた強い言葉に、私は思わず足を止めた。

「は?今なんて言った」
「私、ずっと後悔してた。けど美月ちゃんは許してくれて、今度こそ裏切らないって決めたから」

 葵の言葉を聞いた途端、三人はお腹を抱えて笑いだした。

「ねぇ、なに偽善者ぶってんの。あはは、きっも」
「わかった。じゃあ、お前があいつの代わりになってよ」

 梨沙がそう言って葵に詰め寄る。葵の手が震えているのが、ここからでもわかった。

「ほらっ、こう言った途端に黙っちゃうのになにが友達なんだよ」

 すると、梨沙は新しいおもちゃでも見つけたように、面白そうに笑った。

 俯いている美優に、梨沙は肩を強く押す。

「もう遅いけど、お前も馬鹿だよね」

 どうしよう、助けないと――そう思ったのに、足が動かなかった。
 助けに行ったら、また私が――せっかく標的が私から外れたのに。見なかったことにすれば……。

 そう思った自分にはっとした。
 私、最低だ。葵は私を庇ってくれたのに。

 動けずにいると、ふと蒼空の言葉を思い出した。

 そして、気づけば私はドアを勢いよく開けていた。
 自分でも、逃げる方が賢いのはわかっている。でも、初めて、私を庇ってくれた友達だった。

 私は葵を庇うようにして、梨沙たちの間に入った。

「美月ちゃんッ」
「うわっ、まさかのヒーロー気取り」
「葵は関係ないでしょ」

 私が強い口でそう言うと、梨沙は気に入らなさそうに眉を寄せた。

「正義感、強いアピやめてくれる?見てて本当にうざいから」
「ずっと思ってたんだけど、梨沙が私に突っかかってくるのって八つ当たり?それとも嫉妬?」
「はっ?なんの話しだよ」
「てっきり蒼空が振り向いてくれないから嫉妬してるんだと思ってた」

「なッ!」

 図星なのか、梨沙は顔を赤くした。

「それに梨沙って友達いないでしょ。うしろのふたりも梨沙のいない所で陰口ばっか言ってるみたいだし」

 私がそう言うと、梨沙は後ろに振り向いた。

「私たちがそんなこと言うわけないじゃない!」
「デタラメ言わないでよ!」

 遥と芽衣は慌てたように、私の話を否定した。
 でもこれはすべて事実だ。帰り際に、梨沙のことを愚痴ってるのを聞いたことがあった。

「まぁ、梨沙たちの友達ごっこに口出しするつもりはないけど」
「ブスが調子、乗んなよ!」

 私がそう言うと、梨沙は私の胸ぐらを掴んで壁に叩きつけた。

「美月ちゃん!」

 葵が心配した顔で私に近づいてきた。

「葵、大丈夫だから先に戻って」
「でも……」

 葵は困ったように考え込んでいると、少しして廊下に走り出した。

 私は馬鹿だなと自笑した。これで今まで我慢してきたのが全部パーだ。
 でもここまで来たら、いまさら引き返せない。

「私に毎日突っかかってきて、ほんと暇だよね」

 私は大きく息を吸う。そして梨沙の顔を真っ直ぐに見つめた。
 そしてお腹のそこから、

「バーーーーーーカッ!!」

 息が止まるまで言ってやった。晴れやかな気分だった。

 すると、梨沙は怒りが抑えきれなくなったのか右腕を振り上げた。
 私は瞼をギュッと閉じる。
 けど、少し経っても振り上げた腕は振り下ろされず、私は閉じていた瞼をゆっくりと開いた。

「えっ」

 私は驚きで声を漏らし、目を見開いた。
 梨沙も戸惑っているように見えた。

 私たちが見つめる先には、梨沙の腕をギュッと掴む蒼空の姿があった。

「蒼空、これは違うの。先に美月ちゃんが手を出してきて、私……抵抗しただけで」

 さっきの口調とは裏腹に、今にも泣き出しそうな声で梨沙はそう訴え、涙ぐんだ瞳で蒼空を見つめた。

「わかったから泣くなよ」

 蒼空は梨沙にそう言って微笑み、梨沙の腕を解放した。

「蒼空っ」

 梨沙は蒼空の腕に抱きつくように腕を回した。
 梨沙は蒼空の見えない角度から私に視線を向け、ざまぁとでも言いたげに笑った。

「お前ら本当に最低だな」

 蒼空の低い声が家庭科室を満たした。
 そして、蒼空は梨沙の腕を荒々しく振りほどいた。

「えっ、蒼空。どうしたの?」

 梨沙がそう言うと同時に、私は思わず蒼空の顔を見上げた。
 そこには、微笑む蒼空の顔ではなく、冷たく梨沙を見下ろす蒼空があった。

 蒼空のこんな冷たい顔を見るのは初めてだ。
 普段の優しく笑う蒼空とはまるで別人で、部屋の空気が張りつめる。

 そんな蒼空に、全員が唖然とした。

「お前、なに勘違いしてんだよ。俺はその下手くそな演技やめろって言ったんだけど」

「蒼空、信じて。本当に私はなにも――」

 躊躇のない蒼空の言葉に、焦りながらも梨沙はおもむろに口を開いた。

「自分のことしか考えてない馬鹿女より、俺は美月を信じる」

 そんな毒舌の蒼空に、梨沙は言い返すこともできず立ち尽くした。

「お前さ。俺になにを期待してるのか、知らねぇけど、俺はお前みたいな女、無理だから。正直、迷惑」

 蒼空が強く言い放つと、梨沙の顔は傷ついたように眉を寄せた。

「勘違いしてるのは蒼空じゃない。私、蒼空のことなんて好きじゃないから!」

 梨沙は真っ赤な顔に涙を浮かべてそれだけを言うと、勢いよく教室を飛び出した。

 その後ろを遥と芽衣は気まずそうにこちらを見たが、梨沙を追いかけて走っていった。

 すると、蒼空は後ろにいる私に振り返った。

 温度のなかった瞳には光が宿り、優しく笑った。

「戻ろーぜ。今頃、部長さんカンカンになってるぞ」
「あっ、そうだった」

 私はすっかり忘れていたことを思い出し、時計を見た。もう三十分は経っている。部長が怒っている姿が想像できた。

「蒼空はなんでここに?」

「お前が時間になっても帰ってこないから、探してたら葵が走ってきてよ。助けてほしいって」

 蒼空は記憶を辿るように私に教えてくれた。

「そっか。葵が呼んできてくれたんだ」
「葵のやつ、すげぇ心配してたから後でお礼、言っとけよ」

 蒼空はさっきの出来事が想像できないくらい、いつもの調子に戻っていた。

「じゃあ、戻るか」

 そう言って背を向けて歩き始めた蒼空に、私は気づけば蒼空の裾を掴んでいた。

 それに気づいた蒼空は再び振り返り、少し驚いたように眉をあげた。

「どうした?」
「えっと、その……なんていうか」

 自分でもどうしてか分からずにテンパっている私を見て、蒼空は笑った。

「まぁ、たまには息抜きも必要だよな」
「ちょっと蒼空」
「後で一緒に怒られようぜ」

 そう言った蒼空に腕を捕まれ、私たちはその場を後にした。

 そして、連れてこられたのは屋上だった。

「今日もいい天気だなぁ」

 蒼空はそう言いながら、真ん中に寝転がった。そんな蒼空に近づき、少し離れて隣に腰を下ろした。特に会話もなく、私たちは風に当たっていた。

「私ね。葵を助けないとって思ったとき、足が動かなかったんだ」

 私は雲ひとつない空を見上げてそう言った。

「逃げて私が助かるなら、そうしたいって」

 私の話を蒼空は何も言わずに聞いてくれている。

「私、最低だよね」

 私は最後に自分を潮笑して、軽く笑った。すると少し流れた静寂を払うように、蒼空は勢いよく体を起こした。

「それが普通なんじゃねぇの」

 蒼空はあぐらをかき、視線は空のままそう言った。

「そう思うのが当たり前で、それでも動けるお前はすげぇよ」

 蒼空はさっき私が言った「最低」を否定するようだった。

「そうかな……」
「いじめられてるやつがいたら助けるとか、綺麗ごと言ってるだけの偽善者より、お前はよっぽどましだよ」
「でも私が動けたのは、蒼空の言葉を思い出したからなんだ」
「俺?」

 私がそう言うと、蒼空はずっと空を見ていた視線をやっと私に向けた。そして、どうして俺なんだとでも言いたそうに首を傾げている。

「明日があることは当たり前じゃないって、だから生きているうちに言ってやろうと思って」

 私はそう言って笑った。あのまま逃げてしまっていたら、きっと今日のことを一生後悔していた。

「だから蒼空。ありがとう」

 私は心から感謝の気持ちを伝えた。心なしか、蒼空の瞳に映る私は、なにかが吹っ切れたような顔をしているように見えた。

 何か珍しいものでも見ているような顔をしていた。が、少しして蒼空は笑いだした。

「お前はそっちの方がいいよ」

 そう言って微笑まれ、なんだか鼓動が早くなったのを感じた。

「言いたいこと言えてスッキリした」

 私はなぜか早くなっているそれをなだめるように、視線を蒼空から外して話を変えた。

「俺もお前が言ったバーカにはスッキリした」
「き、聞いてたの?」
「聞いてたも何も、あんなでかい声で言ってりゃ聞こえるだろ」

 蒼空はニヤッと笑った。今、思えば、なにを小学生みたいなことを言っていたんだろうと顔が赤くなった。

「でも蒼空まで梨沙にあんな言うとは思わなかったよ」
「そりゃ、お前にだけ言わせといて俺が言わないのは不公平だろ?」
「いまさらだけど大丈夫なの?よく話してたじゃん」
「仲良かったわけでもないし。俺も言いたかったこと言えてスッキリした」

 てっきり仲がいいんだと思っていたけど、そうでもないみたいだ。

「それにあいつの顔、見たか?」
「見た見た」

 私たちは顔を合わせると声を揃えて笑った。梨沙には少し悪いと思ったけど、このくらいは許されるだろう。

 その後、教室に戻った私たちは部長さんにすごく怒られた。正しく言えば、私だけだ。なんだか部長さんは蒼空には甘い気がする。蒼空が言うには、イケメンの特権らしい。

 そういうわけで、私だけ部長さんに目をつけられて、次の日からもそれは鬼のようにしごかれる日々が続いた。