私は病院に運ばれるとレントゲンなど検査をしたけれど、特になんの問題もなかった。私は頭に包帯を巻かれ軽く処置されたあと、蒼空のいる部屋に案内された。早く蒼空に会いに行かなきゃ行けないのに、私の足が歩こうとするのを拒んだ。
部屋に入るとそこには白い布を顔まで纏った蒼空が横になっていた。私よりも先にいた美咲さんは蒼空を前に泣き崩れていた。そんな美咲さんを隣でお父さんが寄り添っている。
そんな光景に私の体は動かなかった。でも私は無理やりにふらふらと定まらない足取りで蒼空の元に歩いていく。
「蒼空」
いつものように名前を呼んでみた。
「ねぇ、蒼空」
震える声で何回も何回も読んだ。それでも蒼空が答えることはなかった。そんな蒼空に私は震える手を伸びし、そっと触れた。いつもみたいに温かった温度は冷めきっていて、柔らかい皮膚は凍らされたように硬くなっていた。
人間ではありえない硬さに私は死を実感した。怖くなった私は触れていた手を離した。
「美月ちゃん。蒼空はもう」
そんな私に美咲さんは顔をあげた。
私のせいだ。私が指輪を落としたから。私が周りを見ずに追いかけて、蒼空が伸ばした腕を掴んでしまったから。私のせいで蒼空が......。
───私が蒼空を殺したんだ。
私は美咲さんとお父さんにどんな顔をすればいいのかわからず、頭を地面に擦り付けた。
「ごめんなさい。私のせいで......ごめんなさい」
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。その言葉しか私には出てこなかった。
「美月ちゃん!そんなやめて。美月は悪くないのよ」
謝っても許されるはずがないことをした。それなのに美咲さんは怒りもせず、それどころか私を悪くないと言った。
「ひき逃げした人がさっき捕まったの。居眠り運転だった。美咲ちゃんは巻き込まれただけなのよ」
美咲さんはそう言って私の肩に優しく触れた。その手は温かかった。
「でも、私がしっかり周りを見ていたら。蒼空じゃなくて私が轢かれていれば」
「そんなこと言わないでくれ」
低い声に私はゆっくり顔をあげると目元を赤くしたお父さんが私に優しく笑った。
今まで蒼空のお父さんとは仕事が忙しくあまりあったことがなかった。だから蒼空はお父さん似だったのだと今初めて知った。
自分ではどんな顔をしてるのかわからないけど、きっと酷い顔なのだろう。お父さんは私のことを心配そうに見つめた。怒ってくれた方が気持ちが楽なのにと、そんなこといえる立場じゃないけどそう思った。
「俺はあいつになにもできなかった。声をかけてもあいつは大丈夫だからって笑うだけで、それが俺たちに心配させないためだって、ことはわかってたんだ。これでもあいつの父親だからね。それでもそんなあいつが美月ちゃんの話をするときは笑ってたんだ」
本当に楽しそうにとお父さんは付け加えた。
「あいつが......蒼空が、昔のように笑ってくれるのが嬉しかったんだ。蒼空はどこか大人びてしまっているところがあったから。それも美月ちゃんのおかげだったんだろうな」
お父さんは私を優しく見つめた。いつも蒼空が私を見つめてくれていたように。
「本当にありがとう」
お父さんはそう言って私に頭を下げた。どうして私はお礼を言われているのだろうと理解ができなかった。怒鳴って殴られたってしょうがないことを私はした。この人たちは優しすぎた。その優しさが今の私には耐えれなかった。
「美月ちゃんッ!」
美咲さんの声を背中に感じながら私は長い廊下を走った。私にはどうしたって蒼空が死んだとは思えなかった。今にも笑って後ろから出てきそうで。
違う。蒼空は死んだんだ。私が殺したんだ。そう頭では思っていても、それを否定する自分がどこかにいた。だって、蒼空は病気もよくなってきているって、もうすぐ学校に行けるって、さっきまで嬉しそうに笑っていたのだ。これからもずっと一緒にいられるはずだった。本当だったら、今頃は蒼空の家で美咲さんが作ってくれた料理を一緒に食べいるはずだったのに。
それから私は蒼空を探すようにいろんな場所を回った。学校からさっきまでいた公園。あの日一緒に見た星空の下にも花火を見た神社にも行った。けれど、どこにも蒼空はいなかった。あと行っていないのはひまわり畑。私は今から向かおうとしたが終電がすぎていて、今から行くことはできなかった。
私は行く場所がなくなりふらっと家に帰ってきた。誰もいない部屋でただひとり。蒼空は本当にどこにもいないとわかった瞬間に足から力が抜けて私は崩れ落ちた。
「愛してる」最後に言った蒼空の言葉が焼き付いたように頭から離れなかった。すごく嬉しいはずの言葉なのに思い出すと胸が締め付けられて苦しくなる。私だって愛していた。それなのにこの気持ちを伝えることができないなんてひどすぎる。
この感情をどうすればいいのか、わからなくて今まで何度も願った神さえ恨んだ。
部屋に入るとそこには白い布を顔まで纏った蒼空が横になっていた。私よりも先にいた美咲さんは蒼空を前に泣き崩れていた。そんな美咲さんを隣でお父さんが寄り添っている。
そんな光景に私の体は動かなかった。でも私は無理やりにふらふらと定まらない足取りで蒼空の元に歩いていく。
「蒼空」
いつものように名前を呼んでみた。
「ねぇ、蒼空」
震える声で何回も何回も読んだ。それでも蒼空が答えることはなかった。そんな蒼空に私は震える手を伸びし、そっと触れた。いつもみたいに温かった温度は冷めきっていて、柔らかい皮膚は凍らされたように硬くなっていた。
人間ではありえない硬さに私は死を実感した。怖くなった私は触れていた手を離した。
「美月ちゃん。蒼空はもう」
そんな私に美咲さんは顔をあげた。
私のせいだ。私が指輪を落としたから。私が周りを見ずに追いかけて、蒼空が伸ばした腕を掴んでしまったから。私のせいで蒼空が......。
───私が蒼空を殺したんだ。
私は美咲さんとお父さんにどんな顔をすればいいのかわからず、頭を地面に擦り付けた。
「ごめんなさい。私のせいで......ごめんなさい」
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。その言葉しか私には出てこなかった。
「美月ちゃん!そんなやめて。美月は悪くないのよ」
謝っても許されるはずがないことをした。それなのに美咲さんは怒りもせず、それどころか私を悪くないと言った。
「ひき逃げした人がさっき捕まったの。居眠り運転だった。美咲ちゃんは巻き込まれただけなのよ」
美咲さんはそう言って私の肩に優しく触れた。その手は温かかった。
「でも、私がしっかり周りを見ていたら。蒼空じゃなくて私が轢かれていれば」
「そんなこと言わないでくれ」
低い声に私はゆっくり顔をあげると目元を赤くしたお父さんが私に優しく笑った。
今まで蒼空のお父さんとは仕事が忙しくあまりあったことがなかった。だから蒼空はお父さん似だったのだと今初めて知った。
自分ではどんな顔をしてるのかわからないけど、きっと酷い顔なのだろう。お父さんは私のことを心配そうに見つめた。怒ってくれた方が気持ちが楽なのにと、そんなこといえる立場じゃないけどそう思った。
「俺はあいつになにもできなかった。声をかけてもあいつは大丈夫だからって笑うだけで、それが俺たちに心配させないためだって、ことはわかってたんだ。これでもあいつの父親だからね。それでもそんなあいつが美月ちゃんの話をするときは笑ってたんだ」
本当に楽しそうにとお父さんは付け加えた。
「あいつが......蒼空が、昔のように笑ってくれるのが嬉しかったんだ。蒼空はどこか大人びてしまっているところがあったから。それも美月ちゃんのおかげだったんだろうな」
お父さんは私を優しく見つめた。いつも蒼空が私を見つめてくれていたように。
「本当にありがとう」
お父さんはそう言って私に頭を下げた。どうして私はお礼を言われているのだろうと理解ができなかった。怒鳴って殴られたってしょうがないことを私はした。この人たちは優しすぎた。その優しさが今の私には耐えれなかった。
「美月ちゃんッ!」
美咲さんの声を背中に感じながら私は長い廊下を走った。私にはどうしたって蒼空が死んだとは思えなかった。今にも笑って後ろから出てきそうで。
違う。蒼空は死んだんだ。私が殺したんだ。そう頭では思っていても、それを否定する自分がどこかにいた。だって、蒼空は病気もよくなってきているって、もうすぐ学校に行けるって、さっきまで嬉しそうに笑っていたのだ。これからもずっと一緒にいられるはずだった。本当だったら、今頃は蒼空の家で美咲さんが作ってくれた料理を一緒に食べいるはずだったのに。
それから私は蒼空を探すようにいろんな場所を回った。学校からさっきまでいた公園。あの日一緒に見た星空の下にも花火を見た神社にも行った。けれど、どこにも蒼空はいなかった。あと行っていないのはひまわり畑。私は今から向かおうとしたが終電がすぎていて、今から行くことはできなかった。
私は行く場所がなくなりふらっと家に帰ってきた。誰もいない部屋でただひとり。蒼空は本当にどこにもいないとわかった瞬間に足から力が抜けて私は崩れ落ちた。
「愛してる」最後に言った蒼空の言葉が焼き付いたように頭から離れなかった。すごく嬉しいはずの言葉なのに思い出すと胸が締め付けられて苦しくなる。私だって愛していた。それなのにこの気持ちを伝えることができないなんてひどすぎる。
この感情をどうすればいいのか、わからなくて今まで何度も願った神さえ恨んだ。