今日は終日曇天である。

 予報通りの空は灰色の雲が分厚く圧迫感で息苦しい。そんな中、王宮では破壊音が1日中鳴り響いていた。

 ──ガシャーンッ!

「これで26か?」
「いや27っすよ」
「いやいや28ちゃうか?」

(いいえ皆さま、今ので33個目です…)

 シャルロッテは王宮の一室で割れた壺と男3人を前に赤々と茹っていた。

 今日は怪力測定日。その名の通り「怪力令嬢」の怪力の程度を測るための日である。

 測定の目的は主に2つ。
 1つは軍事観点での怪力の有用性を測るため、そしてもう1つは今後の「か弱く」なる訓練に充てる予算を組むためである。

 ではどうやって怪力を測定するか、方法は簡単だ。それはありとあらゆる物を壊す、さらに壊す、もっと壊す。

 「怪力令嬢」にとにかく破壊の限りを尽くさせて、測定された怪力の強度と予想被害額から、軍事有用性と訓練予算を算出しようという目論見だった。

 そういうわけで測定対象の「怪力令嬢」ことシャルロッテは、朝早くから王太子スワードと騎士団長アルター、そして軍医学者ムンテーラに見守られて沢山の物を壊し続けていた。
 ちなみに言うと、たった今47個目の壺が割られたところで、シャルロッテはこの調子でサクサクと物を壊していった。

 そんな予想より遥か上の怪力を見た男3人は開いた口が塞がらず、シャルロッテもまた強い羞恥心で怪力が止まらなかった。

 室内を見やればすでにスワードの私物の石像、銅像、置き時計、花瓶、壺の品々や、アルター持参の騎士団の甲冑や盾「だった物」で溢れ返っていた。

「100か」
「100っすね」
「100やねぇ」

(よし、死んで詫びよう)

 シャルロッテは己の怪力ぶりを見ては現実逃避でスッと目を閉じた。
 その一方でスワードはアンティークの椅子に腰掛けてシャルロッテを観察し、アルターとムンテーラは被害物達を手にとってしげしげ眺めた。

 シャルロッテは王太子の私物と騎士団の備品を壊し尽くした、大記録かつ大失態に自分を呪った。しかしそんなシャルロッテを他所に、3人はそれぞれの観点で記録を取っては感心するばかりだった。

 王太子スワードは壊れた品々の種類と被害額や怪力発動する条件など、クリーム色の羊皮紙に羽ペンで書き込んでいる。
 アルターとムンテーラは物の壊れ方や重さと怪力発動のタイミングの記録から、シャルロッテの怪力源を推定した。
 
 そしてスワードが記録を書き終わるのを待ち、軍医学者ムンテーラが見解を述べた。

「リミッター異常、やね」

 シャルロッテが聞きなれない言葉にコテンと首を傾げると、ムンテーラはポマード固めの黒髪を光らせ得意げに続けた。

「リミッターとはつまり力を制御して身体を守る安全装置のことや。人間は常時100%の力を出すと体が壊れるさかい、本来はリミッターで20%くらいの力しか出せへんようにセーブされてる…やんな?」

「そっそうなんですね?」

 シャルロッテが疑問を抱きながらも相槌を打つと、ムンテーラは満足そうにハンカチで眼鏡を拭いた。バトンを受け取ったようにアルターが語る。

「でも例外でリミッターが外される場合があるんすよ」

「例外、ですか?」

「そっす。人間は、やばい!死ぬ!って時にリミッターが外れるんすよ。んで、その時だけ命を守るためにいつもの倍以上の力が出るっつーわけです。まぁそれでも、普通はある程度の力で制限されるんすけど…」

「けど…?」